表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第5章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

222/302

森の中で

その日、リリアーナはエドモンドと森を歩いていた。

森の奥は、朝の光でやわらかく満ち、木々の隙間から差し込む光が、揺れる葉を透かして道を金色に染めている。

リリアーナは籠を腕にかけ、足元を確かめながら歩いていた。その少し後ろを、弓を背負ったエドモンドがついてくる。

「足元、気をつけろ」

低い声がすぐ後ろから落ちてくる。

振り向けば、すぐ近くにエドモンドがいて、リリアーナは自然と微笑んだ。

「大丈夫よ。ここは、よく知っているもの」

そう言いながらも、隣にエドモンドがいることが、ひどく安心で、嬉しい。

しばらく歩いて、リリアーナはしゃがみ込んだ。

「これ。ちょうど欲しかった薬草」

葉をそっと摘み取り、籠に入れる。

エドモンドは周囲に目を配りながら、その様子を見ていた。

静かな森。鳥の声。草の匂い。

誰にも邪魔されない、二人だけの時間。

「久しぶりだな、こうして二人で来るのは」

「ええ。なんだか、懐かしいわ」

その後、森の少し開けた場所で、エドモンドは足を止めた。

気配を探り、静かに弓を構える。

次の瞬間、放たれた矢が、低い唸り声と共に猪を射抜いた。


猪が倒れたあと、リリアーナは思わず息をのんだ。

「……大きい」

エドモンドは短く頷き、周囲を見渡した。

「このままでは運べないな」

そう言うと、迷いなく近くの若木を二本、短剣で切り落とした。

さらに、しなやかな枝を何本も集める。

「え……?」

リリアーナはきょとんとしたまま、その様子を見ていた。エドモンドは枝を並べ、蔓を手際よく絡めて固定していく。

迷いがない。まるで、何度もやったことがあるかのように。

やがて、細長い台のようなものが出来上がった。

「橇だ」

当然のように言う。リリアーナは目を丸くした。

「……作ったの?」

「森では、よくやる」

猪をその上に乗せ、縄を前に結ぶ。リリアーナは思わず感嘆の声を漏らした。

「すごい……」

エドモンドは手を止めた。

「何がだ」

「こんなもの、すぐ作ってしまうなんて。私、全然思いつきもしなかった」

素直な言葉だった。エドモンドはわずかに視線を逸らす。

「覚えておくと、便利だ」

「便利、の一言で済ませるの?」

リリアーナはくすりと笑った。

本当に、凄いと思った。戦えるだけではない。森で生きる術を、当たり前のように知っている。

頼もしい、という言葉が胸に広がる。

エドモンドが縄を肩にかけ、橇を引き始める。猪は落ち葉の上を、重い音を立てて滑っていく。

リリアーナは慌てて横に並んだ。

「私も、何か手伝うわ」

「横にいてくれればいい」

少し間を置いて、エドモンドは言った。

「それで十分だ」

その言葉に、リリアーナの胸がふわりと温かくなる。

並んで歩く。橇の音が、規則正しく森に響く。途中で薬草を見つけるたび、リリアーナは立ち止まる。

エドモンドは何も言わず、橇を止めて待つ。

急かすこともなく、ただ待つ。

森の中にあるのは、静かな音と、二人だけの時間だった。


リリアーナは、ふと気づく。

(今、私は、すごく幸せだわ)

胸の奥で、じんわりと広がっていく感覚。

何かをしてもらったわけではない。

何かを言われたわけでもない。

ただ、同じ方向を向いて歩いているだけ。

それなのに。

この時間が、愛おしくてたまらない。

リリアーナはそっと視線をエドモンドに向けた。

真剣な横顔。森を見渡す目。自分を守ることを、きっと無意識に考えている人。

(この人の隣に、いられること)

それだけで、胸がいっぱいになる。

言葉にしたら壊れてしまいそうで、何も言えない。

だから、リリアーナはただ、微笑んだ。

エドモンドは気づかない。けれど、それでいい。

この静かな時間を、この隣を歩ける幸せを、

リリアーナは、ひとつひとつ、噛み締めながら歩いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
わーい、リリアーナとエドモンドの、デート(?)回ですね! 可愛くて大好きです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ