表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第5章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

220/305

狼の子、オルフェウスに会う

オルフェウスは玄関の外で、マルグリットと並んで待っていた。

「リリアーナ、無事だったのね」

その姿を見つけるや否や、マルグリットは駆け寄り、リリアーナを強く抱きしめた。

「心配をおかけして、申し訳ありません」

リリアーナは深々と頭を下げる。

「いいのよ。無事なら、それで」

マルグリットは優しく微笑み、二人はそっと、もう一度抱き合った。

その様子を一歩引いたところから見つめていたオルフェウスが、静かに口を開く。

「……何があったのか、教えてくれないか?」

リリアーナは顔を上げたが、言葉はすぐには出てこなかった。何から、どう話せばいいのか、頭の中が整理できない。

代わりに、ラニアが口を開いた。

「今度の冬からは、あの魔獣たちの襲来はない。決して」

その断言に、オルフェウスの表情が強ばる。

「……どうしてだ?」

「皆、死んでた。僕は、それを燃やしてきた。ね、リリアーナ」

リリアーナは小さく頷いた。

「その後、僕たちを運んだ魔獣も、姿を消した。二度と会うことはない」

淡々とした口調だった。

「……信じられないな」

オルフェウスは低く言った。

「信じなくても、いいよ。時間が証明するから」

ラニアの声には、温度がなかった。

「理由も知りたいところだが……。――その狼の子は、何の関係があるんだ」

オルフェウスは視線を落とし、じっと狼の子を見つめた。

「……もしかして、魔獣か?」

「さあ?」

ラニアは肩をすくめる。肯定も否定もしない。

「リリアーナ、どうなのだ?」

低く、慎重な声だった。狼でも危険だ。まして魔獣であれば、なおさら許容できるものではない。

リリアーナは、ラニアの腕の中の小さな体を見下ろした。柔らかい毛並みと、確かな呼吸。

「この子は、森で会いました。その時には、ひとりだった……としか言えません」

それだけを、ようやく答えた。


「僕は、これをひとりにする気はないんだ」

ラニアはそう言って、狼の子を抱き直した。

そして、上目遣いでオルフェウスを見る。

「ここにいたら、駄目?」

ラニアは少し首を傾げた。

外見は愛らしい美少女。腕の中には、つぶらな瞳の狼の子。その組み合わせは、誰にとっても強烈だった。

「いや、しかしな……」

オルフェウスは言葉を濁す。

リリアーナが一歩前に出た。

「私からもお願いします。迷惑はかけません。きちんと世話をします。だから……」

ラニアが続ける。

「これ、けっこう賢いから。教えれば、いい番犬くらいにはなると思うよ」

オルフェウスは低く唸った。

「けれどなぁ……」

その時、マルグリットが口を開いた。

「こんなにも頼むのだから、聞いてあげましょう。けれど――一度でも人を傷つけたりしたら、追い出すか殺処分です」

静かながら、きっぱりとした声だった。

「……そうなのか」

オルフェウスは呟くように言った。

「僕は、それでいいよ」

ラニアが頷くと、狼の子は「おん」と高い声で鳴いた。

こうして、狼の子は城に受け入れられたのだった。



その様子を、セリウスとローデンは少し離れた場所から眺めていた。

「どうやら、無事に帰ってきたみたいだね」

安堵を滲ませた声で、セリウスが言う。

「……ああ」

ローデンは短く答えたきり、視線を外せずにいた。

――おい。あの犬。森の奥で対峙した、あの魔獣と同じ気配がする。

恐ろしく巧妙に隠されている。だが、確かにわかる。あの圧。あの底の見えない気配。間違えようがない。

どうして、それが、あんな姿で――?

背中を、冷たい汗が伝った。喉がごくりと鳴る。足先に力が入らない。視線だけが、ラニアと、その腕の中の子犬に縫い付けられている。

……最恐と、最凶。目の前の光景が、本当に現実なのか、疑いたくなるほどだった。

ローデンは、固まったまま、ただ見つめていた。


その様子を見て、セリウスはひとり納得したように頷く。

――無事に帰ってきたのが、余程嬉しいんだね。

それに、子犬を抱いたラニア。あれは反則だ。美少女と子犬の組み合わせなど、見惚れるなという方が無理だろう。思わず立ち尽くしてしまうのも、わかる。

……良かったね、ローデン。

セリウスはローデンをそっと見守っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いや、セリウス…(苦笑)。 しかし、帝国も王国も、王がダメダメなのが、何とも。 …大きすぎる力を、初めから持つと、人としての何かが失われるんでしょうかね? でも、まっとうなのもいるはずだから、彼…
魔狼から小狼に至るお話に涙しました(TT) 語彙力無く表現出来ず切ないです⋯只々悲しくも尊いお話でした。 素敵なお話をありがとうございます!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ