表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第5章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

217/315

我が見たもの

我は、気配を殺したまま、じっと身を伏せていた。腹の下で、温かい血が止まらずに滲んでいくのがわかる。

――ここまでか。

そう覚悟した、その時だった。人間の気配が、近づいてきた。

反射的に、来るな、と威圧する。その気配は、ぴたりと動きを止めた。

こんな時に、人間とは。忌々しい。さらに、人間が増える。

一人――この臭いは知っている。

あれに、殺されるか。それとも、このまま、ここで死ぬか。

だが、気配はなお増えた。覚えのある臭いに混じって、精霊の気配?

人間、なのか。感覚には覚えがあるのに、はっきりとは掴めない。

我は戸惑った。後から来た二人が、間合いを詰める。

殺しに来たにしては、様子がおかしい。金色の瞳を持つ子――精霊が混じっている。それは、はっきりとわかった。

そして、もう一人。こちらは、精霊にひどく好かれている存在だ。

我は、低く息を吐いた。

――これは、敵か。それとも。


その娘は、ゆっくりと我に近寄ってきた。

敵意は、感じない。我は身構えたまま、ただ娘のすることを見ていた。

娘の手が、そっと伸びる。触れた瞬間、暖かく、少しこそばゆい何かが、我の身体の奥へと染み込んできた。

不思議な感覚だった。

痛みとは違う。恐れでもない。

生きるために失われかけていたものが、戻ってくるような――そんな感覚。

やがて、娘は静かに身を引いた。

人間たちも、同じように去っていく。

我は、その場に残されたまま、己の身体を確かめた。血が、止まっている。先ほどまで我を苛んでいた痛みも、いつの間にか和らいでいた。

――理解した。

あれは、娘の力だ。


娘が我に触れている間、金色の瞳の者が、我の頭に直接語りかけてきた。

『動くなよ』

……心配せずとも、動けん。

『何があった』

我は、仲間たちの姿を思い浮かべた。

あの惨状を。血と、裂けた肉と、もう動かぬ者たち。

――できれば、あのままには、したくない。

『……手伝って、やろうか?』

意外な言葉だった。精霊にしては、あまりに人間臭い。

『たのむ。できれば、燃やしたい』

あのまま、朽ちていくのは耐えられない。

土に埋めるのは、我一匹では困難だ。

だが、火なら。一瞬で、すべてが消える。

『回復したら、迎えにこい』

そう言い残し、金色の瞳は気配を断った。

我は、なおも地に伏せたまま、目を閉じる。

身体に残る温もりを確かめながら、

深い眠りへと落ちていった。


我は、再び動けるようになった。

約束どおり、金色の瞳を迎えに行く。

あれは、気配だけで我に気づく。稀有な存在だ。

……来た。だが、あの娘も一緒だった。

さらに、背後から他の人間の臭いがする。

あの時、なぜ娘を咥えたのか。それは、今も我にはわからない。気がつけば、金色の瞳を背に負い、我は娘を咥え、森を駆けていた。

理屈ではない。

本能が、そうさせた。


娘は、元は仲間であった者たちの姿を、その目に映した。

……よく、意識を保っていられるものだ。

この場には、哀しみ、恨み、怒り、そして残された想いが、黒い霧のように漂っている。

人間には、わからぬ。

金色の瞳も、それを見ていた。

『歌って』

金色の瞳が、静かに言う。

娘は、歌った。

……?黒い霧が、少しずつ、確かに薄れていくのを、我は見ていた。やがてそれは、金色の粉雪のように舞い上がり、世界へと、散り散りになっていく。

娘は、ただ歌い続けていた。

金色の瞳は、その金色の世界を慈しむように、黙って立っている。

――これは、祈りなのだろう。そして、成し得たのは、娘の膨大な魔力と、想い、だ。

我にも、金色の瞳にも、決してできぬこと。

その光景の中で、我は、一筋の光を見た気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ