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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第5章

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追えないエドモンド

ローデンはエドモンドから視線を外し、森の奥を見た。

気配はおろか、余韻すら残っていない。この足跡を追うのは、熟練の狩人でなければ無理だろう――直感的にそう思った。

エドモンドは唇を強く噛みしめた。そして、深く息を吸い、ゆっくりと吐く。

「……帰る」

低く、重い声で、それだけを告げた。

「……追わないのか?」

ローデンの問いに、エドモンドは答えず、ただ森を見つめた。そこにあるのは、いつもと変わらぬ森だった。

だがエドモンドの視線は、獲物を抉る刃のように、深く、鋭く注がれている。

しばらくの沈黙の後、

「……ああ」

それだけを、絞り出すように答えた。

ローデンはその背を見つめながら、胸の奥にわだかまる戸惑いを、どうしても拭いきれずにいた。


ローデンの知るエドモンドは、どこか甘く、時折――本当に次期領主として大丈夫なのか?そう思わせるような男だった。

……だが、それはリリアーナがそばにいたからこその姿だったのだろうか。今のエドモンドは違う。全身から刃を突き出しているかのような、研ぎ澄まされた気配。

ローデンは、無意識に喉を鳴らした。


エドモンドとローデンは城へ戻った。

エドモンドは迷わずオルフェウスのもとへ向かい、ローデンも気になってその後ろをついていった。

「リリアーナが、おそらく、あの魔獣に襲われました。森の入り口です」

エドモンドは低い声で告げた。オルフェウスは、はっきりと顔色を変えた。

「この時期に、あの魔獣が来たことはないはずだ」

「大きな狼型の足跡が残っていました。一瞬だけ見ましたが、あの大きさ。ほぼ、間違いありません」

エドモンドの拳は、強く握り締められていた。

「……ラニアも、同時に姿を消しました」

言葉を継いだのは、ローデンだった。

「貴殿も見たのか?」

「はい。大きな影にしか見えませんでした。速すぎて……」

オルフェウスは、短く息を吐いた。

「捜索隊は、出せない」

「……わかっています」

エドモンドは即座に答えた。

「おい、それでいいのか?」

ローデンは声を荒げた。

「森は深い。いたずらに探しても、見つからん」

オルフェウスは静かに続けた。

「あの魔獣は、我々よりはるかに強い。結果を待つしか、できない」

「だからって――」

ローデンがさらに言葉を重ねようとした、その瞬間。エドモンドが一歩前に出て、ローデンの前に腕を差し出した。

制止の動作だった。エドモンドの顔は、悲痛に歪んでいた。だが、それ以上に――何かを必死に耐えているように見えた。

「……出来るなら、俺が真っ先に追っている」

絞り出すような声だった。

ローデンは、唇を噛んだ。

どうしても、納得できなかった。


リリアーナとラニアが姿を消した城は、まるで灯りを失ったかのように静まり返っていた。いや、ただ静かなのではない。沈んでいる――そう表現する方が、正しかった。

人の声は減り、足音もどこか遠慮がちになる。

誰もが、何かを口にすることを避けていた。

部屋の中で、セリウスは深く息を吐いた。

「……とても、空気が重いのだが」

低く漏れた言葉に、ローデンは短く頷いた。

「……ですね」

「ラニアとリリアーナは、無事だと思うか?」

セリウスの問いに、ローデンはわずかに間を置いて答えた。

「……殺すつもりなら、その場で殺せたはず。何か、別の意図があると思う」

「やっぱり、そうか」

そう口にしながらも、ローデンの意識はすでに別のところへ向いていた。

……人外が、魔獣に連れ去られた――一体、何を企んでいるのか。最恐と最凶、その組み合わせ。ラニアを追ったリリアーナは巻き込まれただけなのだろう。それは、偶然なのか。必然なのか。


深く考え込むローデンの横顔は、あまりにも真剣だった。その様子を見て、セリウスは心の底から思う。

……ローデンは、ラニアを本気で心配している?――いや、もしかして、本気の恋に落ちたのか?


そして二人は、沈黙の中で祈った。

リリアーナとラニアが、無事に戻ってくることを。

城全体が、その願いを抱え込むように、静かに息を潜めていた。


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