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男爵家の六人目の末娘は、○○を得るために努力します  作者: りな
第5章

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ローデンは、何かに遭遇した

戻ってくる気配がない。さすがに、遅すぎる。ローデンは腰を上げ、森の中へ足を踏み入れた。

「セリウス、どこにいるんだ? 転んだのか?」

声を張り上げる。この辺りまで来る途中、獣にも魔獣にも遭遇しなかった。だからこそ――この一帯は、安全なのだと、勝手に思い込んでいた。

「来るな」

鋭く、切り捨てるような声が返ってきた。

――セリウスだ。そんな命令、聞けるわけがない。

ローデンは迷わず、声のした方向へ走った。

すぐに、セリウスの姿が見える。ローデンは彼の近くに駆け寄った。同時に、ローデンの鼻を刺すものがあった。

血の臭い。それに混じる、獣の生臭さ。

そして――肌を粟立たせるほどの、圧倒的な気配。

……魔獣。間違いない。しかも、相当な格だ。ローデンは息を詰め、周囲を見渡す。

相手は、動かない。

……なぜだ?牽制しているのか?それとも、遊ばれているのか?答えは、分からない。

だが、考えている余裕もなかった。

ローデンは剣を抜き、静かに構えた。


どれほどの時間が過ぎたのか。セリウスにも、ローデンにも、分からなかった。

森は静まり返り、風の音さえ遠い。ただ、魔獣の気配だけが、重く場を支配している。

その沈黙を破ったのは、遠くから響く声だった。

「おーい。どこだー!」

エドモンドの声だ。二人があまりにも戻らないことに、痺れを切らしたのだろう。

「来るな!何か、いる!」

ローデンは喉が裂けるほどの声で叫んだ。

だが――

「駄目だ。すぐ行く!」

迷いのない返答。次の瞬間、枝を踏みしめる音が、一直線に近づいてくる。


エドモンドは、声のする方へ向かって走り出していた。少し遅れて、リリアーナとラニアも走っていた。

ローデンは歯を食いしばり、剣を強く握り直した。――最悪だ。このままでは、皆を巻き込むことになる。


エドモンドは、まず二人の姿を見つけた。

そして、次の瞬間――獣と血の混じった、濃い臭いを感じ取る。

反射的に、腰の剣を抜いた。視線を素早く巡らせ、セリウスとローデンの身体を確認する。

――怪我はない。それを確かめて、ようやく息を吐いた。

「相手は?」

短く、鋭い声。

「わからない」

ローデンも、同じく短く答えた。

「向こうが……動かない」

焦りを含んだ声だった。

だが、魔獣の圧は消えていない。むしろ、じわじわと、空気そのものを押し潰すように広がっている。

――圧倒的。

その時、遅れて足音が近づいた。リリアーナと、ラニアだ。

「リリアーナ、僕の後ろに」

ラニアは静かに、しかし有無を言わせぬ声で言った。いつもと違う雰囲気に、リリアーナは何も言わずに頷き、ラニアの背後へ回る。

しばらくの間、全員が森の闇を見据えていた。

そして――

「……怪我を、してる」

ラニアが、ぽつりと呟いた。

エドモンドは、即座にラニアを見る。

「帰ろう」

ラニアは続けた。

「あっちは、動けないみたい」

「……どういうことだ」

ローデンが、苛立ちを抑えきれずに問いかける。

「向こうが動けるなら、君たちはとうに息をしてなかった、てこと」

ラニアは淡々と答えた。その言葉に、背筋が冷える。

「……何がいるのか、分かるのか?」

エドモンドは低く尋ねた。

「分からないの?」

ラニアは、どこか、からかうように言った。 「毎年、会ってるよね?」

エドモンドは目を閉じ、意識を研ぎ澄ます。

森に満ちる気配――その質と重さ。

「……まさか、狼の……?」

呟くような声。

「そうだよ」

ラニアは、当然のことのように頷いた。

「一番、大きいの」

その言葉が、静かに森へ落ちた。

「まさか……」

エドモンドは、もう一度目を閉じた。

……気配は、あの狼型の巨大な魔獣、そのものだった。


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