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完結済となったあの作品の彼らは、今  作者: 五十鈴スミレ
本編2:エピローグのその先のプロローグ
7/8

(4):物語の管理人とかいう男



「ようこそ、美幸さん」


 目の前の男は美幸を歓迎するとばかりに両手を広げて言った。

 中途半端な長さの灰色の髪に、紫色の瞳。白いYシャツに灰色のチノパン。

 異世界人なのか、現代人なのか、ぱっと見では判断がつかない。


「お、お前誰だ!」

「わからない?」


 思わず叫んだ美幸に、その男は首をかしげて問いかけてくる。

 彼の声は、たしかに聞き覚えのあるものだった。


「……質問者、か?」


 眉をひそめながらも、美幸は答えを口にする。

 声といい、状況といい、それ以外は考えられない。

 この男の妙ななれなれしさも、質問者と共通しているところだ。

 ということは、ここは上位世界、なのだろうか。

 美幸は物語の登場人物だから、上位世界というものを、そういう場所があるということしか知らなかった。

 自分たちの物語を楽しんでいる人間たちが、どんな世界に住んでいるのか。美幸たちが知るすべはなかったのだ。


「正解。賞品は何が欲しい?」

「そんなもんいらないから、さっさと帰してくれ」

「つれないなぁ。少しくらい付き合ってくれてもいいのに」


 男はやれやれと言うように肩をすくめて首を振る。

 その大げさな仕草は、元々短気な美幸の苛立ちをあおる。


「お前と違ってオレは暇じゃないんだ」

「俺だって忙しいよ。むしろ美幸さんのほうが暇でしょ? まだ旅の途中で、これからどこに行くかだって決まっていないわけだし。いつ帰ったって問題はないはずだよ」


 質問者の言葉に、美幸は自分の推測が正しかったことを悟った。


「……お前、やっぱりオレたちのこと知ってたんだな」


 質問されていたとき、そんな気がしていた。

 男の質問は的確だった。的確に、美幸たちの物語を引き出していた。

 それは、美幸たちの物語を知っていたからこそできたことだったんだろう。

 傷をえぐるような質問も、わざとだったのだとすれば趣味の悪いことだ。


「そりゃあね。君たちの物語は俺の管轄だから。物語のだいたいの流れも、エピローグも、その先に続く物語だって、この目で見て知っているよ」

「じゃあ、なんであんな質問したんだよ。知ってんなら聞く必要ねぇだろ」


 美幸たちはあの空間に召喚されてすぐに、この男から質問を受けた。

 だから、質問に答えれば帰れるだろうと思った。

 質問者に逆らってはいけない、という直感があったために、それ以外にできることがなかったとも言う。

 そしてそれは間違ってはいなかった。美幸だけは、なぜか残されてしまったけれど。

 男が美幸たちの物語を最初から知っていたのなら、あんな場を用意する必要はなかったはずだ。

 わざわざ三人を喚んでまでして、何をしたかったのだろうか。


「あれは、俺が知りたくて質問したわけじゃない。お互いにお互いの物語を知ってもらうための質問だったんだよ」

「どういうことだ?」


 美幸にはまったくもってわけがわからない。

 お互いにというのは、つまり、美幸たち三人のことを指しているのだろう。

 美幸たちが、互いの物語を知ること。

 それに、いったいなんの意味があるというのか。


「聞きたい?」


 にんまり、と男は目を三日月のように細めて笑う。

 その表情は人の反応を楽しんでいるように見えて、癪に障った。


「……教える気がないなら、今すぐオレを帰せ」


 質問者の意図は気にならなくもないが、帰れるのならそれでいい。

 美幸は細かいことを気にしない性格だ。

 元の世界に帰ってしまえば、やることはいくらでもあるから、気になっていたことすらいつのまにか忘れているだろう。


「それは嫌だな。しょうがない、じゃあネタばらしをしてあげる」


 男は苦笑して、それから美幸に座るよう勧めた。

 長話をするつもりはなかったけれど、召喚された理由を聞くくらいならいいだろう。

 勧められるままにソファーに座り、向かいに座った男に目をやる。

 得体の知れない男は、美幸の視線ににこりと笑った。


「そもそも今回、どうして三人を喚び集めたのか。それは簡単に言うとね、お見合いさせるため」

「はぁ?」


 お見合いとは、あのお見合いだろうか。

 年頃の男女を対面させて、お互いの趣味やら仕事やらぐだぐだと話し、あとは若い二人に任せて、と親が退散する、あれだろうか。

 お見合いと今回の質問が結びつかずに、美幸は混乱する。

 リートも帰ったらお見合いだとか言っていたけれど、それとは関係はなさそうだ。


「オレの管理してる物語の中でも、ミーウェルミルシーは一番の問題児でねぇ。主人公とはいえ、登場人物としてありえないほどの力を持ってしまったんだ。これも、作者の好き勝手な設定のせいなんだけどね」


 男はソファーの前のテーブルに置いてあった本を引き寄せ、表紙をめくる。

 ぺらぺらとそれを読むでもなく眺めている。

 覗き込んでみたが、書いてある文字は美幸には読めないものだった。

 けれど、もしかしたらその本は、ミーウェルミルシーの物語なのかもしれない。

 となれば、テーブルの上に広がっている他の本は、美幸の物語とリートの物語だろうか。

 手に取って見てみたいという好奇心を、どうにか抑え込んだ。

 そうしているうちに男は本を閉じ、美幸に視線を戻した。 


「ミーウェルミルシーをこのまま放置した場合、彼女は他の物語の中に入って、その物語を壊しかねない。彼女にはストッパー役が必要だった」

「それが、子爵?」


 自分なりの答えを男にぶつけてみる。

 結果的に彼女がリートの世界へと行ったことを考えれば、美幸ではないのはわかることだ。


「そのとおり。今回三人を喚んだのは、ミーウェルミルシーとリートを出会わせるため。リートにミーウェルミルシーのストッパーになってもらうため」


 なるほど、この出会いは最初から仕組まれていたというわけか。

 男は美幸たちの物語を管理していると言った。それがどういった意味なのかはよくわからないけれど、たぶん神のようなものなのだろう。

 男の危惧は、先ほど美幸が考えついたこととほとんど変わらない。

 ミーウェルミルシーは力が強すぎる。彼女という異分子によって、他の物語が壊されてしまう危険性がある。

 だから、そうはならないよう男は予防することにした。

 その手段が、美幸たちを召喚して質問を投げかける、というものだったのは、いまいち納得できないけれど。


「そんなにうまくいくもんなのか?」


 たしかに、リートはミーウェルミルシーを心配し、諫めていた。

 ミーウェルミルシーも、リートの言葉ならある程度は聞くだろう。

 だが、それがずっと続くのかどうかは疑問だ。

 リートがミーウェルミルシーにとってどれほどの抑止力を持つのか、美幸には判断がつかない。

 そもそも、二人を出会わせたところで、ミーウェルミルシーがリートを気に入らなければ今回のようにはならなかった。

 会わせる前から、こうなることがわかっていたとでも言うのだろうか。


「うまくいくよ。じゃなかったらこんな面倒なことはしない」


 男は自信満々に言いきった。


「俺はこの本棚の、物語の管理人。ここに、君の物語も、彼らの物語も入っている。ミーウェルミルシーの好みも、リートの性格も、誰よりも知っている。会えば、ミーウェルミルシーはリートを気に入る。リートはミーウェルミルシーを放っておけない。失敗するとは思っていなかったよ」


 部屋にいくつもある本棚を指し示しながら、男は語る。

 男の笑みはまるで貼りついているようで、底が知れない。

 何を考えているのかわからないということは、こんなに不安をあおるものなのか。

 逆らってはいけない相手だ、ということを美幸は再確認する。

 この場で魔法が使えるのかはわからないが、もし使えたとしてもきっと美幸は勝てないだろう。それは確信に近かった。


「じゃあ、どうしてオレまで喚んだんだよ。オレは関係ないじゃんか」


 美幸は口を尖らせて文句を言った。

 だいたいの事情は理解した。けれど、巻き込まれた美幸はいい迷惑だ。

 もちろん二人との出会いは悪くないものだったと思うし、そのこと自体には不満はない。

 けれど、おまけ扱いされてしまえば、嫌な気にもなる。


「仲人役兼、進行役だよ。美幸さんの快活さと度胸は、話を進めるのにちょうどよかった。ハッピーエンド後にアンハッピーになったという共通点もあったしね」


 たしかに、美幸にとっても彼らにとっても素直に喜べないことではあるが、その共通点が三人に仲間意識を生んだ。

 それがなければ、三人はあそこまで打ち解けることはできなかっただろう。

 リートは警戒心が強そうに見えたし、ミーウェルミルシーは他人への興味が薄そうだった。

 美幸だって、貴族も最強主人公も、いつもだったら避けて通りたい人種だ。


「俺の質問に一番に答えてくれたのは美幸さんだったよね。君は二人の警戒心をほどよく取り除いてくれたんだ」

「うまい具合に使われたってわけだな」


 利用されたのだと考えると腹立たしいが、それによって知らない物語の平穏が守られるのならば、我慢するべきなのだろう。

 悪意を持って利用されたわけではないようだから、よしとしておくか。

 ミーウェルミルシーのことは美幸も心配だ。彼女が問題を起こさないのなら、それに越したことはない。


「ありがとね、美幸さん。君のおかげで物語が破綻せずにすむ」


 そう、男は笑ってみせた。

 それは先ほどまでの感情の読めない笑みとはどこか違い、喜色がにじみ出ていた。

 意外な表情に、美幸は思わず目を瞬かせた。

 男なりに、管理している物語を大切に思っているのかもしれない。

 そう感じさせるような笑顔だった。







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