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完結済となったあの作品の彼らは、今  作者: 五十鈴スミレ
本編2:エピローグのその先のプロローグ
6/8

(3):元の世界へ、そして



――話はまとまった? ミーウェルミルシーさんは元の物語じゃなくて、リートさんと同じ物語に送ればいいのかな?


「うん。別に元の物語に戻っても、自分の力でリーの物語に行くだけだけど」


 灰色の霧が立ちこめる空間に、どこからともなく響く声。

 それにミーウェルミルシーはけろりとそう答えた。


「物語も飛べちゃうのかよ」

「やったことないけど、たぶんできる。私一人なら」

「チート怖ぇ……」


 もう、驚いたらいいのか怯えたらいいのかすらわからない。

 美幸が異世界トリップしたように、同じ物語の中の違う世界に飛ぶというのならまだ理解もできる。

 けれど、違う物語にも行けてしまうということは、やろうと思えば他の物語に介入できてしまうということだ。

 そんなことができるのは、すでに人間ではないような気がする。

 いや、人間としてというよりも、物語の登場人物として、逸脱している。


「その、ミーさん。僕の世界では魔法というものは過去の遺物となっていますので、人前では使わないようお願いしますね」

「わかった」


 リートの世界では今は魔法が失われているらしい。

 ミーウェルミルシーはこくんと素直にうなずく。

 約束を守ってどこまでおとなしくしていてくれるのか。リートの気苦労は尽きなさそうだ。

 真面目なリートは、きっと振り回されながらも見捨てることはないのだろうけれど。


――じゃあ、そろそろお別れの時間だよ。三人とも、お疲れさま。


 質問者の言葉に、美幸たち三人は視線を交わす。

 最初に口を開いたのは、美幸だった。


「なんか、奇妙な縁だったな」


 そう、二人に笑いかける。

 自分が物語の登場人物だということは、誰に言われずとも薄々理解していた。

 それは美幸以外の登場人物も、もちろんリートやミーウェルミルシーもそうだろう。

 けれど、自分は自分の物語の中でたしかに生きている。それだけでよかった。

 他の物語の登場人物と相見える日が来るとは思っていなかった。


「ええ。世界どころか物語すらも越えて、こうして出会えたことは、思わぬ喜びでした」

「私も。これからどうするかも、決まったし」


 リートが微笑み、ミーウェルミルシーは口だけ弧を描いた。

 美幸は彼らと出会い、質問者の質問に答えることで、前向きになれた。

 いや、本来の自分を取り戻したとでも言うべきか。

 第三者に聞いてもらうことで、クラウスとのことを過去のことにすることができた。

 いつまでも鬱々と悩んでいるのは自分らしくないと、区切りをつけられた。

 美幸がそうであるように、二人にとっても、この出会いはプラスであったようだ。


「お前ら、仲良くな。ケンカすんなよ。オレに言えたことじゃねぇけど」

「はい、わかり合える努力をします」

「右に同じく」


 二人は目配せし合ってから、美幸に向き直る。

 すでに仲のよさを感じる二人は、もしかしたらこれから、違う関係を築いていくのかもしれない。

 その片鱗を見たような気がして、美幸は苦笑する。

 二人のこれからを知ることができないのは、少しだけ残念だ。


「ありがとな。けっこう楽しかったぜ」


 寂しさは、感じないと言えば嘘になる。

 けれど、二人は違う物語の主役。たった一時、交わっただけの仲だ。

 二人は不思議な縁によって、同じ世界に行くことになったけれど、美幸は違う道を行く。

 別れは晴れやかなものにしたかった。

 これから前を見据えて進んでいく美幸たちに、湿っぽい空気は似合わない。


「ミユキさんの歩む未来に幸多からんことを」

「私は?」

「それは、迎え入れる僕の心がけ次第でもありますから」


 そう答えるリートは、本当に真面目だ。

 客人として招くと決めた以上、中途半端な真似はしたくないのだろう。

 そんなリートに、ミーウェルミルシーは表情をゆるめる。


「大丈夫だよ。私はちゃんとしあわせになる。リーは私がしあわせにする。幸さんも、絶対にしあわせになれるよ」


 まるで予言するように、ミーウェルミルシーは確約した。

 涼やかな声には、冗談も誇張も含まれていないように聞こえた。


「魔女さんに言われると、本当にそうなりそうな気がするな」


 美幸は明るく笑った。

 過去の憂いを消し去るように。

 これから待ち受けているかもしれない困難を吹き飛ばすように。

 笑って、生きていけば、なんとかなる。

 大丈夫だ、と信じることができた。


――三人とも目を閉じて。次に目を開いたときには在るべき世界へと戻っているよ。


 目を閉じた。

 視界が閉ざされ、感覚が研ぎ澄まされていく。

 ゆるやかな風が肌に触れる。

 それは少しずつ強くなっていき、さらにまぶたを閉じていてもわかるほどの光を感じた。

 この光が消えたとき、美幸たちは元の世界にいるんだろう。

 説明されてもいないのに、そうわかった。


 数十秒か、数分か。

 やがて元の暗闇が戻った。

 美幸はそっと、瞳を開いた。


「……あれ?」


 そこは、元の世界……ではなく。

 何もない空間。灰色の霧。

 先ほどまでとまったく変わらない景色。

 ただ、リートとミーウェルミルシーの姿だけが、消えていた。


「おい、質問者! オレだけ戻ってねぇぞ!?」


 美幸は声を張り上げる。

 それは不安の表れでもあった。

 二人の姿がないということは、二人はリートの世界に無事に戻れたんだろう。

 なのに、美幸だけこの場に残っている。

 ……自分は、帰ることができないのだろうか。

 ぞわりと、背筋をなでるような悪寒。

 一瞬、この何もない空間で衰弱死する未来を思い浮かべてしまった。


 声が返ってこなかったらどうしよう。

 という危惧は、杞憂ですんだ。

 男の忍び笑いが聞こえたからだ。

 こんなときに何を笑っているのだろうか。

 けれど、質問者がまだいるなら、再度送ってもらうこともできるだろう。

 なぜ失敗したのかはわからないけれど、そんなことは些細な問題だ。


――帰したくなくなっちゃった、って言ったらどうする?


「はぁ!? どういうことだよ!」


 わけのわからないことを言い出した男に、美幸は怒鳴り声を上げる。

 先ほどまでの不安の裏返しでもある。

 リートとミーウェルミルシーがいたときには感じなかった、心許なさ。

 この空間は、寂しすぎる。

 一面が灰色だか黒だか紫だか、暗い色に覆われていて。

 湿り気を帯びた灰色の霧に、自身が掻き消されてしまいそうだ。


――このまま話すのもなんだし、こっちに喚ぶね。


 男がそう言ってすぐに、あたりが真っ白に染まった。


「っ!!」


 眩しさに、反射的に目を閉じた。

 それでもまぶたに突き刺さるような光に、腕で目をかばう。

 元の世界に戻されるとき以上の眩しさだった。


「もう大丈夫だよ」


 その言葉に美幸は腕を下げ、目を開けた。


「ここ……どこだ?」


 そこは美幸の知らない場所だった。

 全体的に茶色で調えられた、レトロな家具と、本棚に囲まれた部屋。

 そして目の前には、にこやかに微笑む灰色の髪の男が立っていた。







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