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マッチング・リスト  作者: suzudeer


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第4.5章:幕間 十五歳の慟哭と決意(友梨佳視点)

ホテルから自宅へ無理やり連れ戻された友梨佳は、二階の自室に放り込まれた。

カチャリ、と外から鍵をかけられる音が響く。


「……う、あ……あぁぁっ……!」


ベッドに倒れ込み、友梨佳は声を殺すことも忘れて泣き叫んだ。

喉がちぎれそうなほど泣いても、胸の奥を抉られるような痛みは全く消えなかった。

目を閉じれば、ラウンジで自分を見下ろした凌空の、あの氷のように冷たい目が浮かんでくる。


『お前のお子様ランチみたいな恋愛ごっこにも飽きてたところだ』


「ちがう……っ、リクさんは、そんな人じゃない……っ!」


枕を力任せに抱きしめ、涙でぐちゃぐちゃになった顔を押し付ける。

一階のリビングからは、両親の安堵したような話し声が微かに聞こえてきた。


『……なんとか、大事にならずに済んでよかった』

『ええ……。本当に、あんな最低な男に友梨佳が騙されていたなんて。でもこれで、あの子も目を覚ますわ』


その言葉が耳に届いた瞬間、友梨佳の中で、悲しみとは別の激しい感情が爆発した。


「何も分かってない……っ! お父さんたちには、何も分かってない!!」


怒りだった。

自分を「守った」気でいる両親への、底知れない失望と激しい怒り。

私が沙耶たちに脅されて、毎日吐き気を堪えながら学校に行っていた時、お父さんたちは気づいてくれた?

私が真っ赤な口紅を塗って、震えながら夜の街に立っていた時、助けてくれた?

ううん、誰も助けてくれなかった。私の絶望なんて見ようともしなかった。


私を地獄から引きずり上げてくれたのは、リクさんだけだったのに。


「世間体ばっかり……っ。私が本当のことを言っても、信じてくれなかったくせに!」


両親は、凌空の言葉をすべて鵜呑みにした。彼が「若い子で遊んで気分が良かっただけだ」と言った瞬間、それが親にとって一番分かりやすい「悪者のテンプレ」だったからだ。

大人の常識。世間のルール。そんなものに当てはめて、私のたった一つの救いを「汚いもの」として切り捨てた。悔しくて、悔しくて、奥歯を噛み締める口の中に血の味が広がった。


友梨佳はベッドから身を起こし、涙で霞む視界で部屋の中を見回した。

机の上に置きっぱなしになっていた、数学の参考書が目に入る。

フラフラとした足取りで机に向かい、そのページを開いた。余白には、リクさんがシャープペンシルで書いてくれた、綺麗で分かりやすい図形と計算式が残っている。


それを指先でなぞった瞬間、友梨佳の目から再び大粒の涙がこぼれ落ちた。


「……嘘つき」


ぽつり、と呟く。


「リクさんの、バカ……大嘘つき……っ」


十五歳の友梨佳にも、気づけるだけの確かな記憶があった。

もし本当に、ただの遊び目的で下心しかない男だったら、休日の昼間にファミレスで何時間も数学を教えてくれるだろうか。

もし本当に、私を騙していい気分に浸りたかっただけなら、あんなに本気で怒って、自分の会社の名刺を親に叩きつけてまで、すべての責任を一人で被るだろうか。


『もしこれを事件にすれば、娘さんがいじめを苦にして身体を売ろうとしていた事実も、公になりますよ』


親の動きを完全に封じた、あの最後の脅し文句。

あれは、自分が逃げるためじゃない。親が警察や学校に駆け込んで、私の「消したい過去」が世間に晒されるのを防ぐための、完璧な防波堤だったのだ。


私が子供だから。

私が、自分で自分の身を守れない、無力な十五歳だから。

だから彼は、自分が最低のクズになりきって、私の未来を守るために泥を被って消えたのだ。


「……っ、うわああぁぁんっ!!」


真実に気づいてしまった瞬間、凌空の不器用すぎる優しさと、彼をそこまで追い詰めてしまった自分の無力さが痛いほど突き刺さり、友梨佳は机に突っ伏して慟哭した。

私が子供じゃなかったら。

私が彼と同じ、大人の女性だったら。こんな結末にはならなかったのに。


どれくらい泣き続けただろうか。

窓の外はすっかり暗くなり、部屋の中は夜の静寂に包まれていた。

泣き腫らした目で顔を上げた友梨佳の表情から、さっきまでの絶望の色は消え去っていた。代わりに宿っていたのは、燃えるような、強烈な決意の光だった。


「……このままじゃ、終われない」


友梨佳は袖口で乱暴に涙を拭い、両手でパンッ! と自分の頬を強く叩いた。


親に反発して家を飛び出しても、結局は警察に保護されるだけだ。リクさんのところへ行っても、今の私ではまた彼を困らせ、彼の人生を壊してしまう。

なら、どうすればいいか。答えは一つしかなかった。


「絶対に、大人になってやる」


誰にも文句を言わせない。親の庇護がなくても生きていける。世間の常識という暴力で引き離されない、立派で、自立した大人の女性に。

そしていつか必ず、対等な立場で彼の前に立つ。


友梨佳は机の上のペンを握りしめ、参考書に向き直った。

リクさんが書き込んでくれた図形を真っ直ぐに見つめ、絶対に忘れないと心に刻み込む。


彼が守ってくれたこの未来を、絶対に無駄にはしない。

絶望に打ちひしがれた十五歳の夜は終わり、彼女の長くて険しい、大人になるための戦いが始まった。


【次回 8月7日 10:00 第4.5章:幕間 大人の嘘と、誰にも言えない涙(凌空視点)】



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