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帰れない勇者パーティーがうちに住みつきました  作者: leemero


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勇者と魔王

喫茶店の空気は重かった。

休日の昼下がりだというのに、二人の席だけ時間が止まったようだった。

有斗は目の前の男を見つめている。

蒼城蓮司。

そしてゼルグラード。

勇者として何度も追い続けた魔王だった。

隣では葵が状況を整理しきれずに固まっている。

勇者だけでも十分おかしいのに、その宿敵だった魔王まで現代日本で会社を経営している。

理解しろという方が無理な話だった。

「……なんで生きてる」

ようやく絞り出した言葉だった。

有斗の頭には最終決戦の光景が蘇っている。

傷だらけの仲間たち。

崩れ落ちる魔王城。

限界を超えて振るった剣。

そして最後の一撃。

確かに倒したはずだった。

ゼルグラードは慌てることなくコーヒーに口を付ける。

その様子が逆に現実味を奪っていた。

魔王が普通にコーヒーを飲んでいる。

数ヶ月前の自分なら想像もしなかった光景だ。

「俺にも分からん」

静かな返事だった。

「最後に覚えているのは玉座の間だ。お前たちと戦い、城が崩れ始めた。その直後に空間が裂けた」

有斗は小さく眉を動かした。

覚えている。

忘れるはずがない。

空そのものが割れたような光景だった。

「あれが何だったのかは今でも分からん。気付けばこの世界にいた」

その話は有斗たちとほとんど同じだった。

異世界から突然放り出され、知らない世界で目を覚ました。

違うのは、その後だ。

有斗は目の前の男を見る。

高級そうなスーツ。

余裕のある立ち振る舞い。

成功者そのものだった。

「だったら何でだ」

有斗は率直に聞いた。

「俺たちはようやく仕事を始めたばかりだぞ」

ゼルグラードは少しだけ笑う。

「運が良かった」

そう言って窓の外へ目を向けた。

「転移した直後、俺を拾った人間がいた」

その言葉に有斗は黙る。

初めて聞く話だった。

ゼルグラードによれば、その男は小さな会社を経営する社長だったらしい。

特別な力を持っていたわけではない。

金持ちでもない。

ただのお人好しだった。

見知らぬ男が倒れているのを放っておけなかった。

それだけだったという。

住む場所を用意され、言葉を教わり、仕事も教わった。

この世界で生きるために必要なことを一つずつ覚えていったらしい。

「変わった男だった」

ゼルグラードは少しだけ笑った。

その表情は魔王ではなく、一人の人間のものだった。

「見返りを求めない人間というのは理解し難かった」

「お前が言うと説得力あるな」

思わず有斗が返す。

ゼルグラードも否定しなかった。

「だが、あの男は本当にそういう人間だった」

その声には少しだけ寂しさが混じっていた。

「病気だったらしい。俺と出会った頃には、もう長くなかった」

喫茶店に静かな時間が流れる。

葵も何も言わなかった。

軽い話ではないと分かったからだ。

「会社も社員も残された」

ゼルグラードは続ける。

「だから潰すわけにはいかなかった」

「引き継いだのか」

「ああ」

短い返事だった。

だがそこに迷いはなかった。

「恩を返したかった」

有斗は少しだけ目を伏せる。

魔王らしくない理由だった。

だが不思議と納得もできた。

もし葵がいなかったら。

もしグリドラがなかったら。

もし誰も手を差し伸べてくれなかったら。

今の自分たちはどうなっていたか分からない。

恩人の存在がどれだけ大きいかは理解できた。

「変わったな」

有斗がぽつりと呟く。

ゼルグラードは苦笑した。

「お互い様だろう」

その言葉に有斗は返せない。

勇者だった自分はホームセンターで働いている。

女騎士はスポーツジム勤務。

神官は夕飯の献立を考え、魔法使いはネットの海を漂流している。

確かに現代という世界は色々なものを変えてしまうらしい。

だが、有斗にはまだ一つだけ引っ掛かることがあった。

「なぜ俺たちを探していた」

その質問をした瞬間、ゼルグラードの表情から笑みが消えた。

先ほどまでの穏やかな空気が少しだけ張り詰める。

窓の外では相変わらず人々が行き交っている。

だが二人の間だけは別の時間が流れているようだった。

「お前たちに会うためじゃない」

ゼルグラードは静かに言う。

「確認するためだ」

「何を」

有斗の問いに、ゼルグラードは少し考えるように視線を落とした。

そして低い声で答える。

「お前たち以外にも来ている可能性がある」

有斗は息を呑んだ。

ゼルグラードの目は真剣だった。

冗談を言っている顔ではない。

「勇者と魔王だけじゃない」

「もし境界崩落で別の何かまでこちらへ来ていたら――」

そこで言葉を切る。

最後までは言わなかった。

だが有斗には十分だった。

胸の奥がざわつく。

魔王が生きていた。

それだけでも十分な衝撃だった。

なのに話はそこで終わらないらしい。

有斗は知らず知らずのうちに拳を握っていた。

平和だったグリーンハイツドラゴンの日常。

その裏で、自分たちが知らない何かが動いている。

そんな予感だけが、嫌に現実味を帯びていた。

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