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帰れない勇者パーティーがうちに住みつきました  作者: leemero


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グリーンハイツドラゴン

「つまり、あなたたちは異世界から来たと」

警察署の応接室。

警察官の疲れ切った顔を見ながら、小鳥遊葵は心の中で同情した。

向かい側には四人。

勇者。

女騎士。

エルフ。

神官。

誰一人として話が通じない。

「はい」

黒鎧の青年――アルト・レイヴァンが真面目に頷く。

「我々はノクスフィアより参りました」

警察官が頭を抱えた。

葵も頭を抱えた。

数時間前まで他人だったのに、妙な連帯感が生まれている。

「ノクスフィア……」

警察官がメモを取る。

「国名ですか?」

「世界の名前です」

「なるほど……」

全然なるほどじゃなかった。

結局。

身元確認はできなかった。

当然である。

戸籍なし。

住所なし。

保険証なし。

スマホなし。

財布なし。

現代社会では無敵の不審者だった。

夕方。

ようやく解放された葵は警察署の前で大きく伸びをした。

「疲れた……」

仕事より疲れた気がする。

その時だった。

背後から声がする。

「タカナシアオイ」

振り返る。

アルトだった。

その後ろには三人もいる。

「なに?」

「感謝する」

真面目な顔。

本気で言っているのが分かる。

「君が助けてくれなければ、我々は牢へ入れられていただろう」

「たぶん保護だけどね」

「違いが分からん」

だろうな。

少し離れた場所で。

女騎士――リアナが不安そうに周囲を見ていた。

エルフのフィルエルは無表情。

神官のセレナは困ったように微笑んでいる。

そして。

葵は気付いた。

「あれ?」

四人とも。

帰ろうとしていない。

「……もしかして」

嫌な予感がした。

「泊まる場所ないの?」

沈黙。

四人が顔を見合わせる。

そして。

「ない」

アルトが即答した。

葵は空を見上げた。

夕焼けが綺麗だった。

現実逃避したかった。

「だよねぇ……」

そうなるよね。

住所もない。

お金もない。

知り合いもいない。

帰る場所もない。

異世界人なのだから当然だった。

「どうするんですか?」

セレナが尋ねる。

「どうするって……」

葵は頭を掻く。

正直関わりたくない。

面倒事の匂いしかしない。

しかし。

四人の顔を見る。

勇者。

女騎士。

エルフ。

神官。

全員不安そうだった。

少しだけ。

本当に少しだけ。

胸が痛んだ。

その時。

ふと祖父の顔が浮かんだ。

亡くなって三年。

変な名前のアパートを残して逝った人。

今は誰も住んでいない。

空室だらけ。

というか。

ほぼ全室空室。

「……あ」

葵は思い出した。

「部屋ならあるかも」

「本当か!?」

アルトの目が輝く。

「まだ決まったわけじゃないから」

「部屋があるのか!」

「話を聞け」

一時間後。

電車。

「速い……」

リアナが窓に張り付いている。

「魔導列車か」

「ただの電車」

葵が訂正する。

フィルエルはスマホを触っていた。

さっき警察署で渡された貸出端末だ。

「面白いなこれ」

「もう慣れたの?」

「便利だ」

適応が早い。

嫌な予感がする。

セレナは車内広告を見ていた。

「この世界は豊かなのですね」

「まぁね」

「神の祝福でしょうか」

「資本主義かな」

「?」

二十分後。

駅を降りる。

住宅街を歩く。

そして。

古びた二階建てアパートの前で止まった。

夕陽に照らされた看板。

少し色褪せている。

しかし文字だけは大きい。

【グリーンハイツドラゴン】

沈黙。

アルトが看板を見る。

「ドラゴンが住んでいるのか」

「住んでない」

リアナが見る。

「ドラゴン討伐施設ですか」

「違う」

フィルエルが見る。

「趣味が悪い」

「私もそう思う」

セレナが見る。

「格好良いですね」

「初めて褒められた」

葵はため息を吐く。

亡き祖父の謎ネーミング。

説明するのも面倒だった。

「ここ?」

アルトが尋ねる。

「そう」

葵は鍵を取り出した。

そしてアパートを見上げる。

誰もいない。

静かな建物。

本来なら。

このまま取り壊してもよかった。

売ってしまってもよかった。

でも。

なぜか残していた。

「とりあえず今日はここ」

葵が言う。

「空いてる部屋使って」

四人は顔を見合わせた。

そして。

アルトが深く頭を下げる。

「恩に着る」

リアナも頭を下げる。

セレナも。

フィルエルも。

葵は少し照れくさくなった。

「別に」

そう言って視線を逸らす。

その時だった。

どこからか。

「にゃあ」

という声が聞こえた。

足元を見る。

茶トラ猫。

丸い。

というか太い。

かなり太い。

猫は悠々と歩いてくる。

そして。

アルトの足元で止まった。

アルト

「……」

「にゃあ」

アルト

「魔物か?」

「猫」

「にゃあ」

アルト

「太りすぎでは」

「それは私も思う」

猫は気にせずアルトの足に頭を擦りつけた。

「そいつ部長」

「部長?」

「名前」

勇者。

女騎士。

エルフ。

神官。

そしてデブ猫。

夕暮れのグリーンハイツドラゴン。

小鳥遊葵はまだ知らない。

このアパートが。

彼らにとって。

そして自分にとっても。

特別な場所になっていくことを。

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