第四十八話:輪郭
進む先は廃城。触手によって破壊された痕跡が、あちこちに点在する。
レヴィという邪神が、どのような存在なのか、四人はまだ知らない。
「チェディーが住んでた時より、ずっと荒れてる…もう城を離れて二十年は経ってるけど、そんな年数でここまで荒れるなんて…。」
チェディーは周囲を注意深く観察しながら歩いていた。
「…きっと、立派な城だったんだろうな。まだお偉いさんも残ってるんじゃないか?」
クロアケは素朴な疑問をぶつけた。
「…きっと皆ハースティアに属してるだろうね。長生きしてるやつは、手段を選ばないから。この魔界のことなんて二の次で、自分の命が可愛いんだと思うよ。」
「そんなの、無責任じゃないですか。」
リュクナは眉間にしわを寄せる。
「だからぽっと出の邪神なんかに乗っ取られるんだよ。チェディーがもっと要領が良くて、心が強かったら…こんな事態にはならなかった。全部チェディーのせいだ。」
そう言ってチェディーは、こぶしを握る。魔王としての覚悟が足らなかった故に陥った惨状。それが今のチェディーを築いている。
「自分を責めるなよ、お前らしくもない。」
クロアケはチェディーの背を軽く叩いた。
「お前は何も悪くない。また戻ってきたんだから、今のことを考えようぜ。な?」
そうチェディーを励ますと、堂々と先頭を歩いた。
周囲は不気味な臭気を漂わせているというのに、ただの人間で、何も持たないクロアケが前に進む。それは無謀でもあったが、同時に周りの人間の士気を上げた。
「…そうだね、ボクらは先に進まなきゃいけない。」
アドペロは一番後ろで、固唾を飲んだ。
城内は薄暗く、触手が行く手を阻んでいる。チェディーは灯し石を取り出し、魔力を込めた。
灯し石が淡く光ると、足元をゆっくりと照らし始める。
「玉座の方はチェディーが案内するよ。どうせ奴はそこにいるだろうから。」
そう言って邪魔な触手を大鎌で切り裂く。
するとフードを被った初老の魔族の男が立っていた。
「我らが王、お待ちしておりました。しかし、もうすべて遅いのです。邪神が玉座の間で貴方達を待っています。」
その人物は笑みを浮かべながらこちらの様子を伺っている。
「やあ、元気そうだね。衰えた頭じゃ、誰がトップか分かんなくなっちゃったの?」
チェディーは城内の人物が全てハースティアに属していることを見破っている。しかしそれでも、目の前の人物は魔王への忠誠心を僅かに感じる。チェディーが膨大な魔力を有していることを理解しているのだ。
「王よ、それは違います。私は王が居なくなる前から、邪神の息がこの城にかかっていたことを知っていたのです。最初に気が付いたのは私でした。抵抗し、邪神に火傷を負わせましたが、圧倒的な魔力に私は負けました。その結果がこれです。」
初老の男は、フードを外す。両目をえぐり取られ、酸で溶かされた顔があらわになる。チェディーは動じなかったが、クロアケは驚き、リュクナは後ずさり、アドペロは目を背けた。
「侵入者の皆様も、王すらも、邪神の正体を知らないでしょう。貴方達が相手していたハースティアの幹部は、邪神に忠実でした。しかし、我々は、同族を生贄にして自分だけが生き残るというこの環境に、全員が納得していたわけではありません。」
すると様々な部屋の奥から、続々と魔族が現れた。皆どこかに傷を負いながらも、各々チェディーに近づくと、忠誠を誓う姿をとった。
「懐かしい顔ぶれと…貧民街の連中もいるね。」
チェディーは軽く手を払い、楽にしていいといった対応をした。
初老の男が代表して声を発する。
「皆、王の帰還を待ちわびていました。そして、ハースティアとして活動しながらも、邪神の手がかりを掴んでまいりました。以前はもっとメンバーがいましたが、絶望していく中で脱退し、仲間を差し出す者が現れ、今では王に味方する魔族はこの数人だけとなってしまいました。」
「話が長いな、要するにどういうことなんだ。」
クロアケは口を開く。重々しい空気の中、お構いなしにチェディーの横に立つ。
「…王は食材とも仲良くできるのですね。」
初老の男は感情の読めない顔で笑みを浮かべた。
「……人界で出会った、相棒だよ。食材じゃない。」
チェディーは男を睨みつける。
「それはそれは…失礼しました。では、要点を伝えましょう。」
初老の男は咳払いをすると、片目が何かに取りつかれた人物を呼び出した。
その人物は人の姿と最も近く、最も遠い、独特な見た目をしていた。
「初めまして魔王。私は神話時代の原初の魔族、魔人です。名はトコルコと申します。」
それを聞いて四人は訝しんだ。魔人とは、魔族と人間が交わった末にできる超人的な人間、エデフィのような人物のはずだ。
その表情を見たトコルコと名乗る人物は、語りだした。
「貴方達はこの世界の初の錬金術師、イレーネをご存じでしょうか。」
イレーネという人物の名を聞いた瞬間、クロアケは眩暈に襲われた。




