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黒緋色の翽  作者: 瑞ノ星
第六章
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第四十九話:泥のような夢

トコルコと名乗る人物は語りだした。

「イレーネは、この世界が分断される前から生きていた人間です。その方も、自身を錬金術で姿を変え、魔人となっていました。」


チェディーは瞬きを繰り返し、思考を整理する。

「えっと…世界が分断…?」


そのままトコルコは続ける。

「神話時代…私達を脅かす毒の霧が発生しました。」


クロアケは頭を抱えた。

「その話が…邪神と何の関わりがあるんだ?」


トコルコは咳払いをすると、思い出すように真実を話し始めた。

「私が知る限りの情報にはなりますが…イレーネには子がいました。それが双子のレヴィとクエラ…ですがレヴィは生まれながらにして毒の霧を引き寄せる器だったのです。やがて一人の旅人によって、毒の霧とレヴィを隔離するための境界が作り出されました。」


遠くを見つめ、片目に宿す異物を触りながら呟く。

「毒に対抗するため、私達はイレーネを頼り、魔人となりました。原初の魔族は、皆魔人だったのです。今の時代で言われている魔人とは似ても似つかない存在です。」


そしてクロアケを真っすぐ見つめ、問いかける。

「貴方から懐かしい気配を感じます。貴方はイレーネと関係がある。断言できます。」


全員、クロアケを見た。クロアケは口をぱくぱくと動かすが、何も言葉にできない。やがて眼を閉じ、これまでの悪夢を振り返る。そして言葉にして見せた。


「…違和感は、これまでに何度かあった。クエラと初めて会った時…母性を感じたんだ。私は…私の前世は、イレーネ…なのか…?」


チェディーは驚き、クロアケを見る。

「クロアケも前世の記憶があるの!?」


トコルコはその言葉を聞き逃さなかった。

「やはり魔王様は前世の記憶をお持ちなのですね。幼少期からおかしな子だと城中で囁かれてましたから…その記憶がどんな時代のものだったのか気になりますが…おおよそ神話時代の記憶でしょう。」


「ボク達も前世の記憶とかあるかな…。」

アドペロが発した声。それにつられリュクナも考え込む。


トコルコが語る。

「私は私が生きた時代よりも前のことは分かりません。ですが、イレーネが生きたこの魔界では、本当に様々なことが起こりました。毒が濃い者が交わると、魔物が生まれてしまうこと、薄い者だと、人の形に近い魔族が生まれること。それを利用した階級制度。イレーネが亡くなった後も時代は流れていき、私もまた影の人物となりました。」


「君は生き証人ってことだね。」

チェディーは真剣な顔をしていた。


「はい。イレーネとレヴィの存在は、もう私しか覚えていないと思っていました。」

トコルコは暗い表情をする。


「で、レヴィが最近になって活発的になったのはどうして?」

ため息をつきながらも、チェディーは言う。


「それは…私にも分かりません。私達で調べたところ、突然、隔離していた施設から少年の姿で飛び出したという記録しか、残っていませんでした。元は赤子の姿のままだったらしいのですが…。」


「隔離施設…それって、研究所?」

アドペロは言う。


「そうですね。それが何か?」


「あの場所はまだ残ってるの?ボクらが調べて、レヴィの情報を掴むよ。」


「何故です?情報ならこの人が全部言ってくれたじゃないですか。」

リュクナは突っかかる。


「いや…ボクが個人的に調べたいって思ったのと…この人が本当のことを言っているのか確かめたくてさ。何か隠してるでしょ。」

アドペロはトコルコを睨みつける。


「…私は隠し事なんてしませんよ。」

トコルコは笑みを浮かべるだけだった。


「難しい話ばっかで頭が痛いよ、ね、アケちゃん。」

チェディーは伸びをし、クロアケに共感を求める。


「そう…だな、私の前世…私は一体、何者なんだろうか…。」

クロアケは天井を見上げ、呟いた。


「そういうことだから、ボクらが研究所を調べてもいいよね。」

アドペロは初老の男を見つめる。


「いいでしょう。我々もあまり足を踏み入れない場所ですので、お気をつけて。」


そう言い、軽く手を振った。アドペロが先導して歩く。

城内はしん、と静まり返った。

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