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【全属性耐性ゼロ】だったのに、全ての攻撃が効かない最強バグスキルを手に入れました※タイトル詐欺です  作者: Y.K
第1幕

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その日、焼きそばパンが効かなかった

パンって、みんなが好きなものだと思ってた。


ふわふわで、あったかくて、

お腹が空いてるときに食べたら、それだけで幸せになれる。

焼きそばパンなんて、その代表みたいなもので。


でも──

世の中には、それが“まったく届かない人”も、いるのかもしれない。


今回やってくるのは、“焼きそばパンが効かない男”。


どれだけ差し出しても、どれだけ熱く語っても、彼は微動だにしない。

パンの香りにも、ミルミの全力にも、反応なし。


だけど……本当に、なにも届かないままなのかな?


パンは、ただの食べ物じゃない。

ときに、それは誰かの“記憶”や“想い”を運ぶ、ちいさな魔法。


そんな魔法が、どこか閉ざされた心に、

ほんの少しだけ届いたとしたら──


今回は、そんなお話。

「パンが効かない日」に訪れた、やさしい奇跡を、どうぞ。

──それは、あまりにも普通の午後だった。


 


ホワイトガーデンでは、いつも通りパンの香りが漂っていた。

セリスティアはティータイム、シオンは読書、ミルミはもちろん……。


 


「パンのぉぉぉおおおっ!!!できたてをいただきまぁぁすッ!!!」


 


「落ち着けミルミ!焼きたては熱いから!!」


「それがいいんだよカグラァァァ!!あっつぅぅう!!うまーーーーい!!」


 


──平和だった。


 


その平和に、**一人の男が現れるまでは。


 


ガシャ。


門の前。黒い外套。灰色の目。

まるで陽の光さえ拒むようなその姿が、ホワイトガーデンの敷地に一歩、足を踏み入れた。


 


「……こんにちは」


 


その声は静かで、透明で、なぜか寒気を帯びていた。


 


「誰だ?新キャラか?」


カグラがつぶやくと、セリスティアがそっと前に出る。


「ここは結界で守られているはず……あなた、どうやってここへ?」


 


「パンの香りに導かれただけです。

 ……ただ、私はパンを食べません。食べたことも、ありません」


 


「……え?」


 


一瞬、時間が止まった。


 


「ええと、パンを……?」


 


「“焼きそばパン”も……?」


 


「すべてのパンを拒絶しています。

 理由は単純。“必要ない”からです。私は食欲も、喜びも、興味も、もう捨てたので」


 


バサッと風が吹き、彼のマントがなびく。


──その瞬間、ミルミが背後から飛び出した。


 


「なにそれ!?焼きそばパン食べない人なんて地球に存在してたの!?」


「たぶんこの星にはいない分類の人種だよ、ミルミ!」


 


ミルミは即座にパンどんを開け、黄金の湯気が立ちのぼる**“マスターレア焼きそばパン”**を取り出す。


 


「はいっ!これ!!これ食べたらたぶん君、空飛べるから!!」


 


「……いえ、いりません」


 


「えっ」


 


拒絶された。


 


焼きそばパン、拒絶された。


 


セリスティアはぞくりと背筋に冷たいものを感じる。


「この世界に……“焼きそばパンが通じない存在”が……?」


 


カグラが呆然とつぶやく。


「やばい……焼きそばパンギャグが、効かねぇ……」


 


シオンがボソッと補足する。


「……あいつ、“ギャグ耐性S級”だ。パン耐性を持ってる可能性がある」


 


ミルミはショックでしばらく黙っていたが──ふと、目をギラリと光らせた。


 


「……よし。なら私がその“パン無感情男”を、パン好きに変えてみせるよ」


 


カグラが全力で止めようとする。


「ちょ、やめろミルミ、それ以上はやば──」


 


「聞こえたよッ!!」


 


ミルミ、パン戦闘態勢・発動。


「名前は?」


ミルミがぐいっと詰め寄る。


 


「……クルト・レミス」


 


「クルちゃんだね!!」


「ちがうよね!?」


 


「クルちゃん、よろしく!!今日から君を“パン沼”に叩き落とす係、ミルミちゃんだよッ!!」


 


セリスティアが慌てて止めようとするも、時すでに遅し。

ミルミはすでに**“パン布教モード:最終段階”**に突入していた。


 


「まずはこちら!定番、ほんのり甘め、ソースとふわふわパンの奇跡のマリアージュ!」


 


──焼きそばパン ver.スタンダード


 


「いりません」


 


バァン!!


衝撃音とともに、パン、完全拒否。


 


「つづいては!朝にピッタリのライトタイプ!糖質制限もバッチリ対応!!」


──焼きそばパン ver.スリムローフ


 


「食べません」


 


バァン!!!


 


「じゃあじゃあこれは!?“ミルミが泣きながら作った初恋の味”バージョン!!」


──焼きそばパン ver.ラブレター付き(実際に泣いてこねた)


 


「……感情の押し売りは結構です」


 


ドガァァン!!!!!


 


「なに!?全部効かない!!?」


ミルミがショックで膝をつく。


 


「……これが……“パンバリア”か……」


 


カグラが肩を叩く。


「……ドンマイ」


 


「うう……パン……拒絶されるなんて、はじめてだよ……パンが通じないなんて……」


 


セリスティアも深刻な顔で言った。


「でも、拒絶してるように見えるけど、彼の瞳……ほんの一瞬、揺れた」


「え、マジ!?パンの記憶反応あった!?」


 


「パンの記憶反応ってなに!?」


 


そのとき。


ふと、クルトがパンどんの前で立ち止まる。


 


「……この冷蔵庫、“パンどん”というんですね」


「そうだよ。いつもはおしゃべりしないけど、

 たまに意思あるみたいな反応するの。今日は静かだけど……」


 


パンどん《……ピコ》


 


音がした。


 


中が、ひとりでに開く。


そして──


中からふわりと出てきたのは、焼きそばパン・Ver.0(プロトタイプ)


 


焦げ目はまだ甘く、パン生地も厚めで、不格好なその姿。

だが、そこには“始まり”の香りがあった。


 


ミルミがつぶやく。


「……それ、セリスちゃんが最初に作ったやつ……」


 


クルトは、しばらくそれを見つめていた。


 


そして──


 


「……食べます」


 


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?」


 


全員が叫んだ。


 


「お前、今までの全部スルーして、それ食うの!?なんで!?」


 


「……形が悪い。火の通りも甘い。でも、

 これは、“誰かが誰かのために作ったパン”です」


 


クルトは、それを口に運ぶ。


ゆっくりと、一口、かみしめるように。


 


──その瞬間。


彼の目が、ほんのわずかに、ふるえた。


 


「……あったかいですね」


 


「……!」


 


ミルミが、じわっと涙を浮かべた。


「……それ、それが焼きそばパンなんだよ……クルちゃん……」


 


「クルちゃん言うな」


──ふしぎだった。


 


誰よりも焼きそばパンを愛するミルミが、

どんな種類を差し出しても首を振った男が、

一番最初に食べたのは、

不格好で、焦げ気味で、

それでも──心のこもった一本だった。


 


「……どうして、それだけは食べたの?」


セリスティアが問いかける。


 


クルトは、焼きそばパンの袋を静かに折りたたみながら言った。


 


「“完成されたもの”には、意味がありません。

 私のような人間には、ただの機能のかたまりに過ぎない」


 


「でもこれは、未完成で、拙くて、

 けれど、“誰かが誰かのために作った”という行為そのものが、

 パンとしてではなく、“記憶”として伝わってきた」


 


「それが、私にとって──“はじめての味”でした」


 


その言葉に、

一同、しばし沈黙。


 


ミルミが、ゆっくりと近づいていく。


そして、焼きそばパンの包みをもうひとつ、差し出した。


今度は、ちゃんと焼けたやつ。


 


「……じゃあ、これはどう?」


「さっきのよりは、ちょっと完成されてるけど……

 私が、“クルちゃんが最初に笑ってくれたらいいなー”って思って作ったやつ」


 


クルトは、ほんの少しだけ口元を動かす。


 


「では、それもいただきます。

 “思考実験としての味覚反応”がどう変化するか、確認したいので」


 


「またそうやって理屈っぽく言ってるけど、内心めっちゃワクワクしてるでしょ〜?」


「うるさい」


 


「ワクワクしてるでしょ〜?」


「うるさいです」


 


みんな、吹き出した。


 


笑いが、空気をゆるめて、光をやわらかくしていく。


 


「……ようこそ、焼きそばパンの世界へ」


セリスティアが、少しはにかみながら言った。


 


クルト・レミスは、

その日、生まれてはじめて──ほんのわずかに、目を細めた。


 


「……悪くない世界ですね」


 


 


──パンは届いた。

たとえ、どんなに心を閉ざしている相手でも。

焼きそばパンは、“想い”のかたちをしている。



──夕暮れ。


ホワイトガーデンの庭に、ゆるやかな風が吹いていた。


 


みんなは縁側に並んで腰を下ろし、それぞれにパンをかじっている。


バターの香り。紅茶の湯気。

そして、どこか満たされた沈黙。


 


クルトは、セリスティアから受け取ったパンを、

端からゆっくりと食べていた。


まるで、一口ごとに何かを確かめているかのように。


 


「どう? そっちは?」


ミルミが隣で聞く。


 


「……味覚に関しては、依然として曖昧です。

 だが……これは、“心が何かを受け取った感覚”に近い」


 


「えへへ〜。つまり、うまいってことだね!」


 


「うまい、とは、主観的反応における──」


 


「いーから!素直になれー!」


ミルミがクルトの肩をバンバン叩く。


「ねぇセリスちゃ〜ん、この人ツンデレじゃない!?ツンデレ男子じゃない!?やばくない!?」


 


「静かにしなさい。紅茶こぼれるでしょ」


 


セリスティアは静かに微笑みながら、紅茶を口にした。


 


「でも……よかった。焼きそばパンが、届いて」


 


「……私たちが何気なく食べてるこのパンが、

 誰かの“はじめて”になる日があるって、なんかいいわね」


 


カグラが頭をかきながら言う。


「パン、すげーな……。まさか“パン無敵伝説”が現実になるとは……」


 


シオンが読書の手を止めて、ぼそっとつぶやく。


「──焼きそばパン。

 それは食物であると同時に、記憶に干渉する媒体である可能性が高い」


「また始まったぞ哲学者ー!だれか止めてー!」


 


みんなが笑う。


 


クルトは静かにその光景を眺めながら、

少しだけパンの袋を握りしめた。


 


「……“記憶”か」


 


その言葉は、誰にも聞こえなかったけれど。

その響きは、確かに風に溶けて──パンの香りとともに空へ消えていった。



──夜。


ホワイトガーデンの灯りがすこしずつ落ちていくなか、

クルトはひとり、庭のベンチに座っていた。


 


焼きそばパンの包み紙を手に持ったまま、ずっと空を見ている。


誰も話しかけない。

でも、誰も追い出さない。


 


ふいに、彼の口が動いた。


 


「……私は、“感情の記憶”を削ぎ落とす実験体でした」


 


──静寂。


風がひと吹き、木々を揺らす。


 


「知識だけで生きる。合理性だけで判断する。

 それが、“人間性を超越するための第一段階”だと、誰かが言っていた」


 


「……けれど、消せなかったんです。

 この“焼きそばの香り”が、どこか懐かしいという、その感覚だけは」


 


背後で足音がした。


セリスティアだった。


 


「……きっと、心までは消せなかったのよ」


 


クルトは答えない。


ただ、包み紙を見つめながら言った。


 


「私はこのパンを食べたとき、

 “ありがとう”と言いそうになりました。

 でも、誰に言えばいいのかがわからなかった」


 


セリスティアはベンチに腰を下ろす。


「言葉にしなくていいのよ」


 


「あなたがそれを感じたなら、

 パンは、ちゃんと届けてくれたってことだから」


 


クルトの目が、少しだけ揺れる。


 


「……この場所は、奇妙ですね。

 パンを媒介に、感情が伝播する……」


 


「パンは、魔法よ」


 


セリスティアが笑う。


「記憶と想いをつなぐ、いちばんやさしい魔法」


 


ふたりの間に、言葉が消える。

静かで、落ち着いた夜。


 


そのとき──


 


「おーーーーい!!!夜のパン祭りやるよーーーーー!!!!」


 


ミルミの声が響き渡った。


 


「なにそれ!?」

「勝手に祭り始めんなー!!」


 


セリスティアとクルトが顔を見合わせる。


そして、ふっと──

ほんの少し、同時に笑った。



夜空には、まるい月が浮かんでいた。


ホワイトガーデンの中庭には即席のテーブルが出され、

“夜のパン祭り”と称されたただの夜食会が、盛大に開かれていた。


 


ミルミがパンを盛り、

セリスティアが紅茶を淹れ、

カグラが「明日朝メシどうすんだよ」と言いながら全力で食べ、

シオンは何かの魔導記録を取りながらパンをかじる。


 


そして、クルト・レミス。


彼はみんなからほんの少し離れた位置に座り、

2個目の焼きそばパンを、何も言わずに食べていた。


 


その目は、もう以前のような無感情ではない。


わずかに揺れて、

少しだけ、あたたかかった。


 


「……おかわりする?」


セリスティアが尋ねる。


 


「……いえ。もう充分です」


 


「そう?」


 


「……でも、明日も出されるなら、拒まないとは思います」


 


その言い方に、ミルミがニヤッと笑った。


「それってもう完全にハマってるじゃーん!」


 


「ハマってません」


「ハマってるね!」


「ハマってません」


「顔に出てる〜〜〜〜!」


「出てません」


 


カグラがため息をつく。


「こいつ、意外とノリいいな……」


 


夜風が、ほんのりパンの香りを運ぶ。


月明かりに照らされたホワイトガーデンには、

パンと笑い声が、やわらかく満ちていた。


 


──焼きそばパンが、

ひとりの心をひらいた夜。


 


世界が変わったわけじゃない。

誰かが救われたわけでもない。


でも、ほんの少しだけ──

誰かの“明日”がやさしくなった気がした。


 


パンって、たまに、そういう魔法を使うんだ。


今回の主役は、“パンが通じなかった男”、クルト・レミス。


どんなに笑っても、叫んでも、ギャグを仕掛けても効かない。

そんな“バグキャラ”のような彼が、

セリスティアやミルミたちの焼きそばパンに、少しずつ心をひらいていく。


 


バカみたいなノリのなかに、

「それでも届くものってあるんだ」っていう優しさをこっそり仕込んだ一話。


パンが繋いだ出会い。

忘れない、ひと晩の出来事。

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