婚約破棄?知らんがな、焼きそばパン食ってろ
こんにちは、焼きそばパンの神に召された者です(嘘です)。
今回は、なろうテンプレ「悪役令嬢転生もの」を完全にカグラワールドに取り込んでみたという試みです。
きっかけは「パンの魔力で運命をねじ曲げたら面白くない?」というノリから始まり、気づけば令嬢アリシアが一番まともでした。
破滅フラグを回避する手段が「焼きそばパン」って何やねん、というツッコミはごもっともですが、それで本当に救われるなら、パンも捨てたもんじゃないですよね。
──そこは、どこかキラキラしていた。
お城の中庭。花々が咲き乱れ、鳥がさえずり、貴族たちの笑い声がこだまする。
どう考えても、カグラのいるべき場所じゃなかった。
「……おかしいな、さっきまでパン屋の在庫整理してたのに」
カグラは頭をかきながら、純白の噴水前に立ち尽くしていた。
背後では、金髪の王子とドレス姿の令嬢たちが──絶賛、修羅場中。
「○○令嬢、君との婚約は──ここで終わりだ!」
「またかよ!!」
カグラが絶叫する。
どこかで聞いたことのある“婚約破棄”というセリフ。
周囲の空気が一気に張り詰めていく中、カグラだけが空気を読まずにその場に歩み寄る。
「おーい!ちょっと待て!今、“婚約破棄”って言ったよな!?それ、テンプレだよな!?何ループ目だよ!?」
「……どなたですの、あなたは」
高飛車な金髪の令嬢──アリシア=ヴェルファインがカグラを睨む。
対する王太子は、怒りで顔を真っ赤にしながら叫ぶ。
「警備!この場に不審者がいる!すぐに──」
「まてまてまてまて!!!!」
──その瞬間、カグラが懐から取り出したのは、焼きそばパン。
「このパン、王宮では入手できない逸品なんだが……一口どうだ?」
「焼きそば……パン?」
「さすがに貴族世界でそれは……下品だわ……!」
──だがその匂いが、全てを変えた。
王太子の腹が鳴る。
「……ゴクリ」
カグラが一言。
「このイベント、断罪じゃなくて昼食にしねぇ?」
そして、物語はバグり始める。
アリシア=ヴェルファインは、自分の身に何が起こっているのか分からなかった。
つい数分前まで、彼女は「婚約破棄イベント」の主役だったはずだ。
王太子の浮気、側近たちの罵倒、そして“断罪”。
すべての展開が、あまりにも予定調和だった。
「なのに……!」
目の前には、片手に焼きそばパンを持ってにやけている謎の男。
そして──
「うまっ……!これ、パンなのに……麺が……!いや、そんな……!」
王太子ががっついていた。
「お前、“断罪”の前に食うテンションかよ!!」
「う、うるさい!君が押しつけたんだろう!?焼きそばパンを!」
アリシアは震えた。
彼女は“悪役令嬢”として、幾度となく転生を繰り返してきた。
婚約破棄も、断罪も、敗北も、すべて経験済み。
だが──
「……パンでイベントが止まる世界は初めてですわ」
カグラはアリシアの隣に腰を下ろす。
そして袋からもう1個パンを取り出し、差し出した。
「食ってみなよ。バグるぜ?」
アリシアはそれを受け取る。
(バグる……世界が……?)
口に入れた瞬間、視界が揺らいだ。
──ズルッ。モグモグ。
「おいし……ッ!」
脳内で鐘が鳴った。
なぜか断罪用の魔法陣が解除され、空に文字が浮かぶ。
【《世界律:イベント分岐ミス》】
【補正:異世界料理介入】
【進行ルート:EX《パン界介入編》へ移行】
「なんだよこれぇぇぇぇえええ!!!」
カグラが天を仰いで叫ぶ。
──かくして、「焼きそばパン」によって、悪役令嬢の運命が書き換えられた。
アリシアは唖然としていた。
さっきまで、自分を断罪しようとしていた王太子や貴族たちが──
焼きそばパンを片手に、全員で輪になってピクニックを始めていたからだ。
「お、おかしいですわ……!ここ、王宮の謁見の間ですのよ!?パン広げるところじゃありませんのよ!?」
「まあまあ、ええやんか」
謎の関西弁でノリ始めた王子が、パンをもう一つ差し出す。
「俺も気づいたんや……お前のツンデレ、ワイ、わりと好きやで」
「な、なんで関西風なの!?っていうか今さら何言って──」
「──で、君は結局誰なの?」
アリシアは、となりに座るカグラに問いかけた。
「通りすがりのパン配達人だ。あと一応、“世界のバグ”」
「バグ……? えっ、あなた異世界転生者ではなくて……?」
「いや、俺はもうバグってるから最初から世界にいない扱いだよ。
たまにイベント喰うし、たまに空間歪めるけど。まぁ普通だよ?」
「……普通じゃないですわよ!?というか、パンで国一個の運命が変わるってどういう……」
「そういう物語になっちゃったから、しょうがないよね」
カグラはサラッととんでもないことを言い放つ。
「でもな、アリシア」
「はい……?」
「今ここでお前が笑ったら──」
「“悪役令嬢”ってラベル、ぶっ壊せるぜ?」
その言葉に、アリシアの胸の奥が、少しだけ温かくなった。
──ぱくっ。
彼女は二つ目のパンを口に運び、ふっと笑った。
(……なんだろう。転生十数回目にして、初めて“救われる”気がする)
その瞬間、世界律が再び揺れる。
【ルート変動確認】
【アリシア=ヴェルファイン:カテゴリ《悪役令嬢》より《自由人》へ昇格】
【称号取得:《転生者補正破壊者》】
「えっ……バグったの私の方ですの!?」
──その日の王宮は、世界で一番おいしいパンの香りに包まれていた。
アリシアは、焼きそばパンを両手に抱えながら、ふらふらと王宮の中庭に出る。
誰もがぽかんと口を開け、異変の中で立ち尽くしていたが──
それを一番理解していなかったのは、他でもない彼女自身だった。
「わたくし……なにか、すごく……どうしてこうなったんですの……?」
「運命って、案外パン一個で変わるんだよな」
いつの間にか隣にいたカグラが、ぽそっと呟く。
彼は焼きそばパンを片手に、地面に寝そべりながら空を見上げていた。
「……あなたは、なんなの?」
「ただのパン屋の配達員。ついでに観測外個体。
あと今週はレジ打ちバイトもしてる。来週は不明」
「意味が分かりませんわよ!?」
──けれど、アリシアは笑っていた。
本当に久しぶりに、心の底から、くすっと笑ってしまっていた。
「こんなわけのわからない世界で……私の人生、変わってしまったのね」
「変わってないよ。お前が“自分で変えた”んだよ」
その言葉に、アリシアは少しだけ、涙ぐんだ。
異世界に転生してから何度も、誰かの都合に振り回されてきた。
けれど、今回は──たった一つのパンを、自分の意思で選んだ。
「ありがとう……カグラさん」
「いいって。俺はただ、焼きそばパンを配っただけだから」
その瞬間、どこからともなくポップアップが現れる。
【新スキル獲得:バグ式パン配達術】
【アリシア=ヴェルファインが“仲間”になりたそうにこちらを見ている】
【仲間にしますか?】
──YES/NO
「……そんなの、YESに決まってますわ!」
かくして、パンをきっかけに一人の悪役令嬢が世界の理から外れ、
バグの旅に巻き込まれることとなった。
「いや、仲間にするのはいいけどさ……悪役令嬢って、なに?」
カグラは焼きそばパンを頬張りながら、ぽつりと呟いた。
「え? もしかして、あなた……」
アリシアは思わず目を見開いた。
「転生者じゃないの!? “乙女ゲーム”のことも知らない!?」
「ゲームって、焼きそばパン大食い選手権のこと?」
「ちがいますわ!!!」
──その後、観測拠点「ホワイトガーデン」の居間にて。
「つまり、この世界は貴族同士の社交と恋愛模様を描いたゲームで、
私はプレイヤーが攻略しないと地獄ルートを迎える“悪役ポジション”……」
「ふむふむ。で、君がその“破滅エンド”を回避して、パンを選んだと」
「ええ。まさか焼きそばパンが、運命の分岐点になるなんて……!」
セリスティアが紅茶を差し出しながら、こっそりカグラに耳打ちする。
「……これってつまり、“フラグをバグらせた”ってこと?」
「だな。“パンルート”が存在しなかったのに、強引に開いた」
「やっぱり、カグラくんってバグだよね」
そのとき、部屋の隅で静かにノートを取っていたシオンが呟いた。
「……観測できないイベントが発生した……ルート分岐不明……要調査……」
「お前、また記録してたのかよ!? しかも就業中じゃね!?」
「これは……バイトではなく、観測の一環……」
「ダメです。レジの休憩時間にシフト組んでるんですからね!」
セリスティアが、ぺちんと彼の額を軽く叩く。
──なんだこの空間。
異世界なのに、恋も戦争も起きずに、パンと茶とバグが並んでる。
けれど──それが、なんだか心地よかった。
アリシアはふと窓の外を眺め、そして静かに呟いた。
「……わたくし、もっと自由に生きてみたいのです。
“物語の役割”じゃなく、“私自身”として」
「じゃあ、今日からお前はパン係な」
「唐突すぎますわ!!」
「ほら、焼きそばパンにマーガリン塗っといて。あと冷凍クロワッサンも温めといて」
「そんなの聞いてませんのーーーーー!!」
──こうして、世界の理をバグらせるチームに、
また一人、“予定外”の仲間が加わったのだった。
──数日後。ホワイトガーデンの中庭。
「……では、これでお別れですわね」
アリシアは優雅にドレスの裾を持ち上げ、一礼した。
焼きそばパンが詰まったバスケットを抱え、空間転移の魔法陣の上に立っている。
「ほんとにいいのか? バイト、続けてもいいんだぞ?」
カグラが手を振りながら言うと、
「いえ……わたくしには、“元の物語”でやるべきことがありますの。
もう“破滅エンド”なんて怖くありませんわ。……だって、焼きそばパンを知ってますもの」
「パンで世界を変えるとか……マジで意味わかんねぇよ……」
「でも、変わったでしょ?」
セリスティアがにこっと笑いながら言うと、アリシアも笑った。
「この不思議な世界で、わたくし、たくさんのバグと出会いました。
──だから、あちらの世界でも“自分だけのルート”を進んでみせますわ」
「よし、いってらっしゃい。パンの神のご加護を」
「その神様、本当に存在してるんですの?」
「たぶんパン生地の中で寝てる」
「意味がわかりませんわ!!」
──キラキラと魔法陣が輝き、アリシアの姿が光の中に消えていく。
「……ふぅ。これで、また静かになるかと思いきや──」
「ただいま戻りました」
シオンが帰ってきた。レジ打ちバイト帰りで、手にはコンビニ袋。
「おい、何買ってきた?」
「……割引された、焼きそばパン……と、バター……と……セリスティア用に、抹茶プリン」
「気が利く〜!」
セリスティアがぱぁっと笑顔になる。
カグラは焼きそばパンを受け取りながら、ぽつりと呟いた。
「……“物語”ってのは、いろんなとこで動いてんだな」
「ええ、でも始まりは──」
セリスティアが、くすりと笑う。
「たった一つの、パンかもしれませんね」
──こうしてまた、焼きそばパンが一つ、誰かの未来を変えた。
この世界のバグは、まだまだ増えていく。
どうも、レジ打ちバイトは観測外だと思っていたカグラです。
今回はシオンがついに人間社会に溶け込む(?)という歴史的回でした。パンのためにバイトを始める観測者って、絶対に観測機構の規約に反してる気がします。
そして今回のゲストヒロイン、アリシアさん。
令嬢らしく優雅に、でもギャグ世界に完全に馴染んで、最後は爽やかに旅立っていきました。彼女は確かに異世界から来た“悪役令嬢”だったけど、ちゃんと自分の物語を取り戻して帰っていった感じがあって、これはこれで綺麗に収まったかなと。
あと、焼きそばパンって万能なんじゃね?
──次回もバグりながら、世界をちょっとだけ変えていきます!




