銀河にパンが足りなかった日
パンと宇宙が交わると、こうなる──
どうしてこうなったのかは、誰も説明できません。
だけど、なんか……美味しそうだったから、まあいっか。
今回は、ついに銀河を巻き込んだ「宇宙パン戦争編」の(なんとなく)完結です。
焼きそばパンは平和の象徴。すべての始まりであり、終わり。
そしてたぶん次回も出てくる。
それでは、パンでひとつになった宇宙をご堪能ください。
カグラはのんきに焼きそばパンをかじっていた。
場所は《白の庭園》の中庭、ちょうど昼下がりの気持ちいい時間。
「……やっぱ昼は、焼きそばパンだな」
セリスティアはハーブティーを淹れていたが、鼻をひくつかせてカグラを見る。
「またそれ? よく飽きないわね」
「飽きたら、パンじゃねぇよ」
そんなやりとりをしていた、まさにその時だった──
――ピピピッ ピピピッ……
カグラのパンから、音が鳴った。
「……おい、なんかパンから通信きてるぞ?」
「そんなわけないでしょ」
だが、現実はもっとぶっ飛んでいた。
焼きそばパンの中から、青白いホログラムが浮かび上がる。
『こちら銀河評議会中央管制。地球種 “カグラ・シノノメ” に通達する』
『貴様が保持している焼きそばパンは、現宇宙における最後の“炭水化物”であることが判明した』
『つきましては、該当パンを提出されたし。拒否した場合、武力行使も辞さない』
「──いやいやいやいやいや!?」
「パン一個で銀河戦争始まるの!?」
セリスティアは頭を抱えた。
カグラはパンを手に持ったまま、口をもぐもぐさせていた。
「……いや、俺の昼メシなんだけど?」
だが、次の瞬間、空が割れた。
宇宙の果てから、巨大な艦隊がワープアウトしてくる──
『最終通達:焼きそばパンを差し出せ。さもなくば――銀河に戦火を。』
カグラ、ぽつりとつぶやいた。
「……これ、ぜってぇ食われる前に食い切ってやる」
「パン一個で銀河戦争って、どんな世界観よ……!」
セリスティアは半ば呆れながらも、魔力障壁を展開。
カグラはパンをくわえたまま、ゆっくり立ち上がった。
──ズゴォォォォォン!!!
上空からレーザー砲が着弾。
白の庭園の外周部が吹き飛ぶ。
結界はギリギリで防いだものの、状況は尋常じゃない。
「これは……完全に本気の軍事介入ね……」
「やっぱ、俺の焼きそばパンって……そんなに貴重だったのか?」
そのとき、再び通信が入る。
『こちら銀河評議会・第三遊撃艦隊“カロリーキラーズ”所属。代表交渉官、シュガーデストロイヤー・バリトン准将だ』
画面に映ったのは、ピンク色の宇宙服を着た、ドーナツのような見た目の生命体。
『我々は宇宙に炭水化物を取り戻すべく貴様の焼きそばパンを没収する。貴様が炭水化物を独占したことにより、銀河系は深刻な糖質飢餓に陥っているのだ!』
「……いや、俺パンひとつしか持ってないんだけど」
「ていうか、どうやってそんな分析したのよ!?」
セリスティアがツッコむが、相手は聞いちゃいない。
『焼きそばパン引き渡し拒否を確認。作戦コード“オーブンレイド”を開始する──』
──その瞬間。
カグラの頭に、“何か”がカチリとハマった。
「……ああ、なるほどな」
「俺のパンを、勝手に狙ったのが運の尽きだったな」
セリスティアが震える。
「ちょっと待って……その目……チート能力、解放する気でしょ……!」
「──発動:バグスキル“全属性無効”+“???”」
カグラの周囲の空間が歪む。
「焼きそばパンに手を出すってことはな……銀河そのものを敵に回すってことなんだよ!!」
──銀河規模のパン防衛戦争、勃発!
──宇宙が、焼けた。
カグラの“バグスキル”が発動したその瞬間、空間座標が反転し、銀河評議会艦隊の大半が焼きそばパンの匂いがする異空間に転送された。
「う、うわああ! パンの香ばしい香りが!」
「おい誰だ! こんなにソース濃くしたの!」
「俺、糖質制限してるんだけどぉぉぉ!!」
──そして、敵艦が一斉に揚げパン状に変化。
セリスティアは呆然と呟いた。
「……ねえ、戦争ってここまでアホになれるの……?」
カグラは腕組みして、ゆっくり言った。
「俺のパンはな──世界を変えるんだよ」
「バグだけどな!!」
その頃、宇宙艦隊の後方。
未確認の別勢力が乱入する。
『我々は“グルテンフリー同盟”……炭水化物を、許さない!!』
──宇宙の向こうから現れたのは、細身でスタイリッシュな“高タンパク生命体”。
「またややこしいのが来たーーー!!」
セリスティアの悲鳴がこだまする。
バグスキルによって“焼きそばパン宇宙”が拡大しつつある今、グルテン勢 vs グルテンフリー勢 vs 焼きそばパンが入り乱れる三つ巴に突入。
カグラは言った。
「──俺のパンを笑ったやつ、全員バグらせてやるからな」
そして焼きそばパンを、もぐっ。
「うん、今日のパンは……戦争の味だ」
「──発動します。“パンの大審判”」
そう呟いたのは、グルテンフリー同盟の指導者《プロテイン=サプリウス》。
筋肉がギシギシと銀河ごと震えそうなレベルで膨れ上がり、彼の周囲の空間が高タンパク結界で守られていく。
「小麦? 糖質? そんなもの、時代遅れだッ!!」
彼の手が天に突き上げられた瞬間──
宇宙に巨大なスプーンとフォークが出現し、銀河ごとパンをすくって喰らおうとする、謎のアストラル現象が発生。
「いやいや、物理じゃん!? なんで銀河がパン皿みたいになってんの!?」
セリスティアが突っ込むも、もう遅い。
パン宇宙の崩壊が始まり、世界は“糖質過剰”により飽和しはじめる。
空間が小麦で詰まり、ワープ航法もまともに機能しなくなる始末。
しかしそのとき──
「……ちょっといいか」
一人の影が、パン宇宙の中心に降り立つ。
「……お前は……!」
「……観測外個体……シオン=ヴァレア!」
彼はゆっくりと、手にしていた1枚の“ラスク”を差し出した。
「パンとは……そう、“乾いた記憶”だ。湿らせれば、蘇る。焦がせば、過去となる」
「え、どういうこと!? ねえカグラ、今のどういうこと!?」
「俺に聞くな!!」
──だがその詩的すぎる発言を皮切りに、
シオンが発動した“空間解析スキル:パン因果断絶”により、
銀河を支配していたパンの因果律が、ひとつずつ“焼却”されていく。
プロテイン=サプリウス「ぐあああ! タンパク質が……糖質に変換されていく……!?」
カグラ「やば、進化の方向性ミスったやつじゃん……」
焼きそばパンは銀河に、再び香ばしい静けさを取り戻しつつあった。
宇宙に、ふたたび静けさが戻っていた。
崩壊しかけたパン銀河、食べられそうだった星々──
全てが“シオン=ヴァレア”の謎バグスキルにより再構築されたのだった。
「……というわけで、銀河系パン文明は消滅。ついでに糖質制限信者たちも、全員プロテインの海へ還ったみたいよ」
セリスティアが最後の分析結果を読み上げる。
「“還った”ってなんだよ。糖質が悪ってわけでもねぇだろ」
カグラは、宇宙空間に漂う“焼きそばパン衛星”を見上げながら、ぼやく。
「なんかこう……お前のせいで宇宙がパンくさくなってるんだよね。小麦粉とソースと、バグの混じった香り……」
「それ、最高の芳香じゃね?」
「褒めてないわよ!!!」
──と、そのとき。
宇宙の地平から、ふたたび声が響く。
「……我が名は、“ラストブレッド”」
「……え、また出た!?!?!?」
声の主は、**宇宙パン創造主の“影”**──
かつて全銀河をパンで包み、“トースター彗星”を造った張本人とされる伝説の存在。
その復活により、銀河は再びパンの夜明けを迎えようとしていた……!
「ちょ、やめて!? これパートだから! 次回に回してくれない!?」
「世界は……パンで統べる」
「うるせえ、焼きそばパン一丁だ!!」
──空間が“こんがり”と焼き上がった瞬間、
カグラのバグスキル「???(次元ソース流し)」が発動。
焼きそばパンが星系間ネットワークの結び目となり、
宇宙に“パン交通網”が形成されるというとんでもない結末へ。
「これって……宇宙の全種族が焼きそばパンでつながるってこと……?」
「なあセレス、ピザって宇宙のどこで買える?」
「そこじゃない!!!!!」
──世界は、また少しだけパンに近づいた。
――パンの香りが、宇宙を満たしていた。
それはかつて戦火に包まれた星々にも、焼きたての優しさを運ぶ。
“バグ”と呼ばれた力が、焼きそばパンを媒介に、銀河をひとつに繋いだ――
「……やっぱパンって、世界を救うよな」
カグラが言った。口の端には、例によってソース。
セリスティアは遠くを見つめながら、ふっと笑った。
「もう、なにがどうなってこうなったのかすら、よくわかんないけど……まあ、悪くないかもね」
「パンがある限り、たぶんなんとかなるって」
「そんな名言、聞いたことないわよ!」
彼らの背後では、パンでできた軌道エレベーターがそびえ立ち、宇宙港では「やきそばパンビヨンド」号の打ち上げ準備が進んでいた。
「発射三秒前! 焼きそば補給よーし! カグラのメシよーし!」
「いや、それ俺の名前で点検すんなや」
そして、発射されたパン宇宙船は、次なる“未知なるパン圏”へと旅立っていく。
その中には、人類も魔族も、宇宙人も、怪獣も、
すべての種族が「パンで仲良くなる」という、謎の平和理念のもとに集っていた。
「……ねぇ、セレス」
「なに?」
「俺たち、なんの話してたっけ?」
「たしか、魔王軍との戦争の話だったような……?」
──まあ、いっか。
世界は今、焼きそばパンのもとにひとつになった。
何がどうしてこうなったかは、もはや誰にも説明できない。
でも──それが、パン世界。
──次回予告:
『次回 宇宙の中心で、パンを焼く』
お疲れさまでした!
正直、どの時点でパンが銀河レベルになったのかは…筆者にも謎です。
でも、「気がついたらパンで全部解決していた」って、
たぶんこの作品においては一番自然な展開なんですよね。
ちなみにカグラはまだ「パンで世界の真理に触れる方法」を模索しているようです。
そろそろ“パンを焼くことで新しい宇宙を生む”くらいの話になるかもしれません。
次回予告もぶっ飛んでますが、ご安心を。
いつもどおり、カグラは焼きそばパン食ってます。
それではまた次回──“宇宙の中心”で会いましょう。




