海底からパンが浮かんできたんですが?
海辺でのんびりパンを食べていたはずが──
気づけば、世界の海からパンが浮かび上がっていた。
そう、今回はまさかの“海底パン文明”回です。
濡れたパン、しゃべるパン、パンの神……って、なんだそれ。
ギャグとバグと焼きそばパンが暴れ回る、
まさかのスケール感でお届けします。
「……海って、いいよなぁ」
水平線を眺めながら、カグラは今日も焼きそばパンをかじっていた。
その背後では、セリスティアが浮き輪に入ってぷかぷかと漂っている。日焼けしないように、日傘を差したまま。
「ちょっと。ここ、なんでか知らないけど……潮風がソースの匂いするんだけど」
「俺のパンのせいじゃね?」
「違う意味での“海の家”よね……ここ」
──ザッパァン。
波の音にまぎれて、何かがゆっくりと浮上するような気配があった。
カグラはパンの袋をぺしゃんと閉じ、そろりと身を起こす。
「……おい、今なにか浮かび上がらなかったか?」
「なんか……パンだった気がする」
浜辺から数メートル先、海面にぷかぷかと浮かぶ影──
それはどう見ても、巨大なパンだった。
「うわ、でっか!? え、あれパンだよね!?」
「俺の目が正しければ……バターロールの類だな」
「海にバターロールって、どんな自然現象よ!?」
セリスティアは慌てて浮き輪から飛び出し、魔法でスキャンをかける。
その結果、彼女の目の前にひとつの文言が浮かび上がる。
《パン文明 第七章:すべての水は、パンに還る》
「──やばいやばいやばい! 絶対変なの引いた! 完全にフラグ折れてたやつが復活した!!」
「なにこれ。パンの預言書?」
その瞬間、海が鳴った。
泡立つ海の底から、何かがざわめくような音──
ただの潮騒にしては、妙にリズミカルで……何かを、パンをこねてる音のようにも聞こえた。
「──我らの時代が、ふたたび来た」
「誰!?」
「っていうか、ナレーションっぽいのやめてくんない!? 地味に怖いから!」
「浮いてる……めっちゃ浮いてる……」
セリスティアが海上の影を見て、後ずさった。
パン──それも常識外れのスケール。
高さは10メートル、横幅20メートル超え。
形状はフランスパンに似ているが、無数の刻印が刻まれていた。
「これは……遺跡、だと……?」
セリスティアがつぶやいた瞬間、後方の空間が“パァンッ”と軽い音とともに揺れる。
「アロマ!?」
現れたのは、濡れたローブをまとったアロマ。
水気を含んだ長髪を振り払いつつ、手にしたデバイスでパンをスキャンする。
「……まちがいない。これは、“パン文明”の痕跡」
「なんか壮大なワードきたな!? パンで文明築けたの!?」
アロマは、平然と続きを読み上げる。
「“我らはパンを尊び、全てを粉と水と発酵の理に帰す”──かつて、海底に存在した種族・パンリアンたちの碑文だわ」
「パンリアンて誰!? 海底にパン文明!? うそでしょ!?」
「かつて地上を支配しようとしたが、全人類が“ごはん派”に傾いたことで歴史から姿を消した存在よ」
「めっちゃ負け方ダサいな!!」
「でもその怨念が……今、パンの形で蘇ろうとしている」
──そのとき。
巨大パン遺跡が“ぷしゅーっ”と音を立て、蒸気を吹き上げる。
まるで長い眠りから目覚めたように、海からさらに“何か”が浮かび始めた。
「うわ……今度は丸いのきた」
「アンパン……いや、違う。中身は不明」
セリスティアが震える声で言った。
次々に浮かび上がる、見慣れたようで見慣れないパンの数々。
「……これ、もしかして……“封印されてたパン”が、全部浮いてくるんじゃ……」
「パンが目覚めるな、目覚めんな。どっちかにしろ」
「っていうか、カグラ、さっきパン投げたよね?」
「俺のパンが、呼んだのかもな……」
──世界は今、パンに“応答”されている。
──ザバァァァン!!
海面が割れ、次々と“パンっぽい何か”が浮かび上がる。
その姿はまるで、湿気をまとった異形の使徒たち──
「なにこれ!? あんま見たくないけど見たことある感じ!?」
「食パンに……足生えてる!? あと、あのメロンパン、背中から蒸気吹いてるんだけど!?」
濡れたパンの使徒たちは、ずぶ濡れのまま浜辺に上陸しはじめる。
ずしゃっ、ずしゃっ、と水気を含んだ不快な足音。
そのたびに、パンが膨張し、強度と重量を増していく。
「湿気で……攻撃力が上がってる……!」
アロマの声が、わずかに震えた。
観測装置が示した数値は、驚異的な“吸水率と質量変化”。
「パンって濡れたらフニャるもんじゃないの!?」
「このパンたち……水を味方につけて進化してるわ」
一体、湿気をためすぎたクロワッサンが“モチモチ・ミサイル”を放つ。
それが背後の岩を軽々と粉砕した。
「おいおい……クロワッサンが兵器になってんじゃねーか!!」
──そして、前線に立ちはだかったのは、濡れたバゲット兵士。
その装甲(パンの皮)は固く、しかも水を纏って再生まで始めている。
「うっわ、固そう……セリスティア、あれ頼んだ!」
「了解、火の魔法──《フレア・ルミエール》!」
セリスティアの魔法が炸裂する。
が──
「……え? 魔法、効いてない!?」
火球が当たった瞬間、水気を吸ったパンが蒸発し、蒸気となって拡散。
パンは一部焦げたが、致命打にはならない。
「ちょ、まって……湿気、魔法の熱効率下げてない!?」
「湿気耐性!? パンに!?」
アロマが分析結果を叫ぶ。
「この種族、湿度による再構築能力を持ってる!
物理ダメージも通りにくい、乾燥させる以外の手段は──」
「なにそのややこしい弱点設定!?」
「食パン相手に天候コントロールしろってか!!」
──混乱する中、ひとりの男が海を見つめていた。
静かにパンの行進を眺めながら──シオン=ヴァレアが呟く。
「……濡れることで意味を得るパンなど、パンではない」
「湿気に縋るその姿……救いようがない。だが──」
「面白い。焼きたての香りとは、対極にあるからこそ」
カグラ「いや真顔でパン哲学語るな」
──そのとき。
空が、海が、揺れた。
「……来るッ!」
アロマが一歩引く。海面の鼓動が、明らかに異常だった。
ドォォォォォン……!!
巨大なパンの殻を背負った、半透明の海洋生命体──
いや、パン神が海の底から浮上する。
「我こそは、パンの神。
潮と酵母の意思を継ぐ者……パンヴァーナ」
「いや名乗るな! しかもなんか威厳ある感じで言ったな今!」
「……っていうか、パンの神って何!?」
その姿は、焼き上がる前のパン生地が半凝固したような、
グロテスクさと香ばしさが混在する“ありがたくない神性”。
背中からは、パンを練る無数の腕が伸び、空間をこね始める。
「この世界を……パンで満たす。
あまねく海を、酵母と小麦の支配下に……」
──その腕が、海を掴んだ。
「パン津波発動」
ドシャアアアアア!!!!!
潮の波が、巨大な焼きそばパンと化して都市に迫る!
「やばいやばいやばい! あれ、ガチで来るやつ!!」
「ていうかなんであんなにリアルな焼きそばまで……!」
セリスティアが結界を展開。
「空間干渉──でも、ダメ! 押し返せない! パンの圧が強すぎる!!」
「パンの圧ってなんだよ!!」
──絶体絶命の中、カグラは静かにパンを見つめた。
そして、いつもの調子で言った。
「──よし、じゃあ俺のスキル、発動するか」
全属性無効《Ver.β》+???(パン共鳴)──
カグラの身体が光に包まれる。
「このパンのうねり……俺のスキルが、応えてる」
「“パン津波”を──返すッ!!」
カグラが地面に焼きそばパンを叩きつける。
その瞬間、パン津波がぐるりと反転、
空へと向かって跳ね上がる!
パン津波が、空へと舞い上がった。
いや──それは単なる跳ね返しではない。
水と酵母、時間と空間、そしてなぜか焼きそばの香ばしさが混ざり合い、
空中でぐるぐると渦を巻く。
「おい、なんか……止まってね? 上空でパンが」
「いや、あれ……形になってる!? まさか──」
セリスティアが空を見上げて、呆然とした声を漏らす。
「浮いてる……あれ、“大陸”じゃない?」
「パンの……?」
──そう。
空中には、パンでできた大陸が浮かんでいた。
クロワッサン状の山脈。食パンで形成された断崖絶壁。
そして、中央にはメロンパン神殿のような謎の構造物。
「世界の空に……パンの大陸が……できちゃった……」
カグラはその様子を眺めながら、
おもむろにポケットから別のパンを取り出して言った。
「いや、俺のは焼きそばパンでいいや」
──そのとき。
海底神・パンヴァーナが、ふわりと浮かび上がり、
空にできたパン大陸を見上げて、呟いた。
「……この世界、思ったより悪くない。
パンにすべてを捧げた我が種族……
ここに、使命を果たしたと認めよう……」
そう言うと、パンヴァーナは静かに溶けて、
海の泡と共にその姿を消した。
「……自己完結しやがった!?」
アロマ「これ、収拾ついたってことでいいんですか?」
シオン「いや……“意味”の観点では、まだ何も回収されていない」
「黙ってろシオン!!」
──パンの神は去り、
空にはパンの大陸が漂い続けていた。
焼きそばパンの匂いが、空に残る。
──数時間後。
海辺に静けさが戻った。
パンヴァーナは消え、潮風はふたたび塩の匂いを取り戻し、
砂浜にはカモメが戻ってきていた。
「……で、アレはどうするの?」
セリスティアが日焼け止めを塗りながら、空を見上げて言った。
空には、相変わらずふわふわとパンの大陸が浮かんでいる。
「べつにいいだろ。害ないし」
カグラはサンダルで砂をかきながら、焼きそばパンをかじる。
そのとき──
ズドンッッ!!!
頭上から何かが落ちてきて、砂浜に突き刺さった。
それは……
「……焼きそばパン?」
「いや、さっき食ってたやつより、なんかグレード高い!」
落ちてきたのは、“天空産・高級焼きそばパン”。
包装には「パン大陸認証・空気仕込み」と印字されている。
「……空から焼きそばパンが降ってきた……」
「いや、もう意味わかんない……」
だが次の瞬間、さらにポツ……ポツ……と降ってくるパンの雨。
カレーパン、ピロシキ、メロンパン、サンドイッチ──
「うおおおぉぉ! パンの恵みじゃああああ!!」
カグラが両手を広げて叫ぶ。
アロマ「……まさか、あの大陸から“パンの雨”が……」
シオン「……世界は、パンによって更新された」
セリスティア「うるさいわよシオン、また黙ってて」
──世界はパンで溢れた。
だが誰も、それを止めようとはしなかった。
なぜなら。
うまいから。
ここまで読んでくれてありがとう!
世界を襲った“潮パン津波”、
その余波で誕生した「浮遊パン大陸」……
そして次々に降ってくるパンの恵み。
正直、書いてる方もわけがわからないけど、
楽しかったので良しとします。
次回はさらなるパンの混乱が……いや、たぶんある。
よかったらまた読みに来てね。




