“修正済み”って書いてあったのに直ってなかった件
世界をバグらせたパン。
その修正パッチを当てるだけの回……のはずが、
なぜか世界の“味覚”や“空気感”が焼きそばパン寄りになってしまいました。
そろそろ読者の皆さんの脳内にも、
焼きそばパンの香りが染みついてきた頃かと思います。
──ようこそ、パン干渉世界へ。
今回はシオンやセリスティア、アロマらが勢ぞろいし、
“真顔で焼きそばパンの修正会議”という、
意味不明なのにどこか哲学的なパートが個人的にお気に入りです。
では、本編どうぞ!
朝、目が覚めると──枕が焼きそばパンだった。
「……んがっ!? 熱っ!? いやこれ、焼きたて……!?」
カグラは思いっきり飛び起きた。いや、正確には“パンに熱されて跳ねた”。
「ちょ、ちょっと待って。俺、寝てただけだよな!? なんで寝具がパンで構成されてんの!?」
隣ではセリスティアが普通にアフロになっていた。
「……おはよう、カグラ。いい朝だね。焼きそばの香りが……ふふ」
「いや、髪型どうした!? いつからそういうジャンル目指してんの!?」
さらに、部屋の隅にはアロマがいて、クールに──
「……にゃ。異常、確認したにゃ」
「おまえまで!? どういうパッチ適用されたんだよこの世界!」
そこへふらりと現れたシオンが、窓の外を見ながら呟いた。
「……時の流れが“パン由来”になった影響だな」
「その表現やめろ! 哲学っぽくすんなし!」
白の庭園の朝は、もう完全にいつもの“パンバグ日常”だった。
シオンが手元のデバイスをいじりながら、まるでニュース速報のように言う。
「昨日、観測機構より“修正完了パッチ”が配布された……はずだった」
「“はずだった”じゃねぇよ!」
「でも君がコードに『ちょっと味見』したから……こうなった」
「パンの香りがしたから触っただけなんだ! そんなつもりはなかったんだ!」
セリスティアのアフロが、ぽよんと揺れた。
「でも、こういうのも……楽しいよね?」
「俺は楽しくねぇよ! いや、ちょっとだけ楽しいけど!」
──こうして、“修正されたはずの世界”で、
またしてもバグまみれな一日が始まるのであった。
焼きそばパンで構成された朝食(?)を終えたあと、白の庭園に設けられた会議室に、なぜか全員が正座していた。
「それでは……」
アロマが、軽く手を挙げた。
「“世界修復パッチ1.0.1b”、正式適用します」
「バージョン細かっ!」
シオンがポツリと補足。
「このパッチで、世界の“パン化現象”のうち、およそ83.4%が除去される見込みだ」
「おい、まだ16.6%残ってんのかよ!?」
セリスティアが、手元のパネルを見ながら小首をかしげる。
「パンだった時間の流れは、今は……パスタ……?」
「麺になってるじゃねーか! 炭水化物の輪廻やめろ!」
「じゃあ、パッチ入れますにゃ」
──アロマがにゃあと鳴いた瞬間、世界がふわっと揺れる。
光が広がり、音が遠のき、パンの香りが一瞬だけ消える……
──が、
「……おかしいな。パンは除去されたけど」
「うん?」
「なんか、世界の“風”が……やたら甘いにゃ」
「甘い風!?」
カグラが窓を開けた。
──すると、風がぶわっと吹き抜け、部屋にほんのりキャラメルの香りが充満する。
「……なんでキャラメルなんだよ!」
「バグは除去されたけど、コードの味覚部分に副作用が出たっぽいね」
「コードに味覚って何!?」
セリスティアは嬉しそうにその風を吸い込み──
「……はぁ~、おいし……じゃなくて、爽やか~!」
「おい、今おいしって言ったな!?」
アロマが淡々と続ける。
「なお、副作用の影響により、セリスティアさんの言語モジュールが“関西圏訛り”に設定されました」
「なんでやねん!? って、あっ!」
「言うと思った」
──こうして、パンは消えたものの、
キャラメル風・言語バグ・炭水化物系演算エラーが残る新しい一日が始まってしまったのだった。
白の庭園の廊下を歩いていたカグラは、ふと立ち止まった。
「……なんか、床がフワフワしてね?」
下を見ると──床が食パンだった。
しかも、トースト済みでちょっとバターが染みてる。
「いや焼きそばパン消えたんじゃなかったの!? 新種出てきてるんだけど!?」
すれ違った猫がつぶやいた。
「……それ、踏むとマーガリン出てくるから気ぃつけや」
「罠付き食パン!? お前誰だよ!」
「ワイはタマや。つい最近まで、普通の観測猫やったんやけどなぁ……いまは、ちゃうで」
「どっち方面に進化したんだよ!?」
そこへセリスティアが現れた。
──口を開くと、
「おいカグラぁ! またバグ拾ろうてきたん、あんたやろぉが!」
「関西弁の精度が上がってる!?」
「アホかいな! さっき庭のバラ全部“チョココロネ”になってたんやで!? あんたのせいやろ!」
「関西弁で怒られると、テンション読めなくて困る!」
そんな騒ぎの中、シオンがふと立ち止まり、虚空を見つめながらつぶやく。
「……“意味”が、キャラメル化している……」
「黙ってろ哲学者ァァ!!」
それでも会話は続く。
“キャラメル風の風”に乗って、甘くとろけながら。
セリスティアの関西弁が園内放送をジャックし、
猫たちはカグラに「ご主人、バター補給まだっすか」と群がり、
パンのない世界を目指したはずなのに、なぜか前よりグルテン度が増していた。
──だが、
その日最大の事件は、庭園の奥でひっそりと起きていた。
アロマが報告する。
「庭園の空間構造に……またポケット次元が出現しました」
「パンの……次元?」
「いいえ、“飴細工の迷宮”です」
「もうパンですらないじゃねぇか!!」
ポケット次元──通称《飴細工の迷宮》に、カグラ一行は足を踏み入れた。
「……なぁ、これ絶対バグってるよな?」
「うん。完全に“お菓子の家”っていうか、“スイーツ空間”だよね……」
セリスティアが溜め息をつきながら、
カラフルなキャラメル階段をゆるゆると降りていく。
一段踏むごとに「ポニョン♪」と謎の効果音が鳴る仕様。
シオンは壁のゼリーブロックに指を当てて、真顔でつぶやいた。
「この構造……“意味”を溶かして再構築している。知覚すらも……甘く」
「……あ、うん。それはつまり“ゼリーの壁がやばい”ってこと?」
「そう。とてもやばい」
「まとめかた雑か!!」
さらに奥へ進むと、巨大なプリン湖が広がっていた。
そこに浮かぶのは──
焼きそばパン型の船だった。
「お前まだいたのかよ!!?」
「ま、焼きそばパンは万能だからな」
カグラが当然のように乗り込む。
船が動き出すと、プリン湖からカラメルの波が立ち上がる。
「うわ、甘い……!」
セリスティアが顔をしかめる。
「というか、髪の毛がべとべとなんだけど!? 私の魔力、砂糖に変換されてない!?」
カグラは涼しい顔で言う。
「世界ってさ、けっこう砂糖でできてるよね」
「その発言に“哲学”っぽさ足すのやめて!!」
さらに奥、湖の中央には**“バグ神像”**がそびえていた。
片手にパン、もう片手にWi-Fiルーター。頭にはトースター。
「……これはさすがに俺のせいじゃないと思いたい」
「いや、絶対お前のせい!!」
セリスティアが叫び、
その声が“飴細工の迷宮”に反響して、カラメルの雨を降らせた。
バグ修正どころか、
世界はどんどん「甘やかされている」ようだった。
プリン湖から抜け出したカグラたちは、
シュガーシロップの草原に降り立った──
が、安心する間もなく、地面が揺れた。
「……ねぇ、今の揺れってもしかして──」
「……うん、たぶん……来る」
そう。
巨大な焼きそばパンが追いかけてきた。
「ぎゃあああああ!? なんでぇぇぇぇええええ!!?」
カグラが叫ぶ。
「これは……俺のパンじゃない!!」
「つまり、別のパン!? 焼きそばパンの意思が独立してるの!?」
「進化したのか……パンが……!」
巨大パンが地面を滑り、ぐんぐん距離を詰めてくる。
中からうっすら、「ソゾ…ソゾ…」という音もする。
「なんか……囁いてない!?」
「うん、完全に“記録外スキル”になってる……!」
カグラはパンを見つめ、言った。
「……俺のスキル【???】ってさ。
もしかして“パンの記録そのものを書き換える”系じゃない……?」
セリスティアは、カラフルな飴の槍を構えながら返す。
「つまり……“パン神”を生み出す力?」
「えぇー……」
「責任取れぇー!!」
全力で逃げながらも、カグラは不意に立ち止まり、振り返った。
「……このパン、たぶん俺に会いに来たんだ」
「!?」
焼きそばパンと目が合う(気がした)。
世界のどこかで、観測者の一人が倒れた音がした。
──そして、パンはゆっくりと止まり、カグラの目前で静止する。
「……やっぱり、バグって温かいな」
「意味わかんないよ!!」
バグ修正失敗。
だけどなんか、世界がほんの少しだけ優しくなった──
気がした。
焼きそばパン神との邂逅から逃れたカグラたちは、
《白の庭園》に戻っていた。
あたりは静かで、空もちゃんと青い。
水もちゃんと冷たいし、セリスティアの言葉も元に戻っている。
「……あのパン、どこ行ったんだろ」
「たぶん……君の中だよ」
シオンがいつもの調子で意味深に呟く。
「それホラーだからやめて!?」
カグラが腰を下ろすと、
どこからともなく湯気の立った焼きそばパンが一つ、ぽんと現れた。
「やっぱり、出てきたな……」
「……もう慣れたね」
セリスティアが苦笑しながら、パンを半分こにする。
そこへ、ラドリウスの声が風に紛れて響く。
「──修正は完了したようだな。だが、“存在の影”は残っている」
「お、おまえも来たの!? 影ってなに!? パンの!?」
「君が放つ異常は、記録だけでなく観測構造そのものに滲んでいる……」
「このままでは、いずれ“パンの概念”が独立するだろう」
「つまりパンが意思を持つ世界になるのか」
「それは困る……でもちょっと見てみたいかも」
会話がゆるやかに流れる中、
みんなでパンをかじって笑いあう。
──あれだけ世界がバグっていたとは思えない、のどかな風景。
でもふと、シオンが空を見上げて呟いた。
「……見たかい? さっき空の端に、一瞬だけ“トーストの月”が浮かんでいた」
「いやそれ絶対またバグってるよ!!!」
笑いとツッコミと、ほんの少しの不安。
それでも、日常は続いていく。
バグ修正編、いかがだったでしょうか?
当初はもっと「すっきり修正完了!」の回にする予定だったのに、
気づけば“セリスティア関西弁化現象”や“しゃべる猫”など、
謎の異常現象祭りになってしまいました。
この世界、直ったふりして絶対まだ何かおかしい。
でも、それがこの物語のいいところ。
少しだけ歪んだ“日常”が戻ってくるのも、また味わいです。
次回からは、ついに「魔王軍 vs 人類」の大きな戦いが…!?
でもきっと、焼きそばパンは忘れずに持っていくはずです。




