焼きそばパン、戦争を終わらせる。
世界は今、戦争の瀬戸際にある──
魔王軍 vs 人類の全面衝突。
なのに。
その中心にいるのが、「焼きそばパン持ったまま寝てるやつ」だったら、どうする?
ギャグとバグが吹き荒れる、未曾有の大戦。
真剣な顔でパン投げてる奴らに、世界は止められるのか──。
荒野に、怒号が響きわたる。
漆黒の旗と、純白の紋章。
空を裂く稲妻。大地を踏み鳴らす軍馬。
──人類と魔王軍。ついに全面戦争の火蓋が切られようとしていた。
「陣形を整えろ!前衛、盾を構え!後衛は──」
「焼きそばパンいかがっすかー!!!」
……響いたのは、まさかの屋台の掛け声だった。
「……は?」
王国の将校がきょとんと前を見る。
そこには戦場のど真ん中に、見慣れぬ移動屋台。
白く輝く布に「せれす亭」と、手書きで書かれている。
「えっと……カグラくん?」「ああ。営業中だよ」
屋台ののれんをくぐって出てきたのは、焼きそばパン片手にあくびするカグラ。
鉄板ではソースがじゅうじゅう音を立てていた。
「ここ戦場だぞ!」
「知ってる。出店許可もらったし。**“戦争特区臨時営業許可証”、これね」」
セリスティアがさらっと証明書を掲げる。しかも公印つきだ。
「そんな制度あったか!?」
「知らなかった? ほら、“戦地での士気向上と栄養補給のため”ってやつ」
「それは兵站の話だろ!なんで個人営業で焼きそばパンなんだよ!」
だがそのとき──
「……パンの匂いが……?」
魔王軍の前線兵士が、鼻をひくひくさせた。
続けて、王国兵も、鼻をくんくん。
「ま、まさか……!」「この香ばしさ……!」
「──焼きそばパンだァァ!!!」
ズドドドドド!!!
戦場が、走る。
敵も味方もなく、屋台に向かって突撃してきた!
「やめろ!貴様ら何をしている!」「そのパンだけは譲れねぇ!!」
「並べ!並べぇぇぇぇ!!」
──こうして、戦争は「パンの取り合い」から始まった。
「一列に並んでくださーい! 押さないでくださーい!」
セリスティアが白のエプロン姿で叫ぶ。
屋台《せれす亭》の前には、戦士・魔族・ドラゴン(?)まで並ぶ異常事態。
「焼きそばパン1つで争うなっつってんだろ!!」
ガンッ!!
リリィが鉄拳で殴り飛ばしたのは、パンを盗もうとした王国兵と魔族の2名。
「パンはな!命懸けで、清く正しく並んで手に入れるもんなんだよ!!」
「……お、お嬢様こわっ」
ジルドはドン引きしながらも、横で優雅に紅茶を啜っていた(戦場とは)。
「……あれ、これ戦争中じゃなかったっけ?」
カグラが鉄板をカンカンと叩きながら、ふと我に返ったように言う。
「戦争? いや、パン戦争ならやってるよ?」
セリスティアがさらっと答える。
彼女の背後では、**“パン争奪戦 第1ラウンド”**の鐘が鳴っていた(物理的に)。
「おい待て!なんで魔王軍の将校が審判やってんだよ!!」
「公平性重視だ。我々も焼きそばパンを求める者として、正々堂々と勝負する所存」
手にはホイッスル。完璧に審判スタイルのラドリウス。
「焼きそばパン、一体何者なんだよ……」
王国軍も魔王軍も、今は一つ。
目指すはただ一つ──**“せれす亭”の焼きそばパン**!!
だが。
「そろそろ、スキル使うか……」
カグラの目が、ふと虚空を見つめる。
手にしていた焼きそばパンが、一瞬きらりと光る。
「【???】、発動──」
次の瞬間。
パンが、
浮いた。
「──……え?」
屋台が浮かんだ。パンが踊った。
カグラの周囲に、パンを崇める謎のフィールドが展開された。
「ははっ……バグってるだろ、これ……!」
戦争は、今──
“神のパン”によって、次の次元に突入した。
「──カグラ様……!」
魔王軍の兵士がひざまずいた。
「そのパン……まさに神の造形……!」
「何言ってんだお前!? あいつが焼いたただの焼きそばパンだろ!?」
王国の参謀が叫ぶが、もはや誰の耳にも届かない。
空に浮かぶパンが、まばゆく輝いているからだ。
「我ら、今こそ目覚める……パンの神よ!」「“炭水化物の救済”を!」
カグラの足元には、謎の宗教団体が自然発生していた。
その名も──
《パン教団(The Breadlight Order)》
「やめろ!勝手に派閥作るなぁぁ!!」
セリスティアがパンを投げながら全力で否定したが、
信者はさらに増え、ついにパン教団のバナーが掲げられる。
「我は、神を見た……焼かれし鉄板の上に、奇跡が宿るのだ」
そう語るのはかつて“世界律観測機構”にいた者。
彼の名前は──シオン=ヴァレア。
「すまんカグラ……ちょっと信仰してみたかったんだ」
「やめてくれシオン……お前までパン信者になると、ほんとにバグる……!」
カグラが震える手で、パンを抱える。
その瞬間──世界の演算が歪んだ。
「わっ!? なんか空間がパンの匂いする!?」
「てか今、空間に“バター”って文字浮かんだよな!?!?」
この世界は今、完全におかしい。
人間も魔族も、観測者も、お嬢様も、
すべてが一つの真理に集束しつつあった。
──焼きそばパンこそ、神である。
「……“匂いのログ”が……パンで上書きされていく……!」
観測者が震える声でつぶやく。
周囲の空気は、もう完全に“焼きそばパンの香ばしさ”で満ちていた。
あまりにリアルで、空腹じゃなくても腹が鳴るレベル。
「……おかしい、俺が焼いたのは1個だけだぞ?」
カグラがぼそりとつぶやく。
その手の中の焼きそばパンは、
今や四次元構造を持ち、時間軸を浸食しながら無限に増殖していた。
「世界が……パンになってるッ!!」
叫ぶセリスティア。
「いや、世界は最初からパンだったんじゃ……」
と哲学的になるシオン。
\ピギャアアアア!!!/
空が割れる。
空間がねじれ、“クロワッサン型の裂け目”が現れた。
そこから出てきたのは……
──パン・ゴーレムΩ(オメガ)。
全長30mの、焼きそばパンでできた魔導兵器である。
「開戦だァァァァァァァ!!!!」
魔王軍が叫ぶ!
「我らはパンとともに進軍する!」
王国軍も謎の共闘モードに入る!
その時──
「ちょっとまって。落ち着けみんな」
カグラがパン片手に言った。
「……今朝の焼きそばパン、ちょっと焦がした気がするから、これ全部バグってるわ」
\……えぇぇぇ!?!?!?/
世界の軍勢がずっこけた。
数万の兵士たちが、一斉に地面にダイブ。
パン・ゴーレムΩは自己消滅し、
空間の裂け目も「てへっ」と言って閉じた(効果音付き)。
「……まぁ、今日も焼いてくるか」
カグラがそうつぶやいた時、
“空間そのもの”が少しだけ正常に戻り始めていた。
でも、どこかに──ほんの少しパンの匂いが残っている。
「……なんだったんだ、今のは」
観測者のひとりがぽつりと漏らす。
焼きそばパンによって始まり、焼きそばパンによって終わった戦争未遂。
その残骸すら、すでに世界から綺麗に“上書き”されていた。
「記録には……何も残っていない。パン・ゴーレムΩのログも……ない……?」
アロマが眉をひそめる。
彼女の端末には、謎の一文がだけが残されていた。
「美味しかったです。またよろしくお願いします。by カグラ」
「ふざけてるのか……?」
「いや、これは高度なバグ情報だ」
「違うわ、ただの食レポよ」
議論が噛み合わない。
一方、カグラはというと。
「焼きたてのパンはさ……記憶に残るんだよな……(サクッ)」
今日もまた、せれす亭で焼きそばパンを焼いていた。
周囲には、あの戦いに参加していたはずの面々が、
なぜか普通にパンを食べている。
「なんだっけ? さっき、なんか戦争の話してなかったっけ?」
セリスティアが口元をぬぐいながら首をかしげる。
「いや、それたぶん夢だと思う。パンの夢」
「パンの夢ってなに」
「焼きそばと希望が詰まってた気がする」
焼きそばパンは、すべてを包む。
世界の演算すら、味と香りに包まれればただの副作用である。
「ま、今日も平和だな」
そう言って、空を見上げたカグラの目に──
“パン型の雲”がゆっくりと流れていくのが映った。
──世界は修復された。
だが、そこには確かに“焼きそばパンの記憶”が、ふんわりと香っていた。
「それにしても……ほんとに直ったのか?」
シオンが空間をそっと指でなぞる。
空は青く、空間も安定している。パンの粒子も見当たらない。
「うん、だいたいね」
カグラが焼きそばパンを頬張りながら答える。
「“だいたい”って何……?」
「バグは修正した。けど、ちょっとだけ世界の“設定ファイル”いじっておいた」
「何してくれてんの!?」
セリスティアが頭を抱える横で、ジュースの泉が再び湧き出す。
──だが今度は、ミルクセーキになっていた。
「飲めるようになったから……逆に進化では?」
「進化って言えば許されると思ってない!?」
その時、ふと風が吹いた。
その風に乗って、どこからか声が聞こえる。
「焼きそばパンの記憶が、世界の書き換え権限に干渉していた──」
観測者の誰かがつぶやく。
アロマが、静かに言った。
「彼の“???”スキル……あれはおそらく、“現実に保存された記録”にアクセスしてる。パンを通じて」
「おい、どんな理屈だそれ!?」
「記憶媒体だよ、パンが。焼くことで、事象が……」
「いやだからどんな理屈だよ!!!」
そんな中、カグラはまったく聞いていなかった。
「うーん……焼きが足りないな。もうちょっとカリッとしたい……」
今日も彼は、平和な世界で焼きそばパンを焼いている。
記録の干渉?
スキルの謎?
世界の構造?
そんなものより──
「うん、うまい!」
この一言のほうが、よっぽど重要だった。
世界は、焼きそばパンで回っている。
少なくとも今のところは。
ついに始まった「世界大戦(仮)」!
魔王軍も人類も、観測者たちも、
ぜんぶまとめて巻き込んで、パンのバグはますます拡大中。
……でも、カグラがいるから大丈夫。
何がどう大丈夫かは説明できないけど、なんか、そういうことにしておこう。




