世界、ちょっとだけ修正しました
今回のテーマは、
「戦争もバグも、パンには勝てない。」です。
セリスティアたち中立勢力や観測者、魔王本人まで巻き込んだ
まさかの“パンによる戦争回避”という誰得展開。
でも、この物語ではよくあることです。
肩の力を抜いて、パン片手に読んでいただけたら嬉しいです!
——目が覚めたら、世界は“なんとなく”元に戻っていた。
「……あれ? 空、青くない?」
屋台《せれす亭》の屋根の上で、カグラは寝癖全開の頭をかきながら空を見上げていた。
昨日の昼には空が“パン色”になっていた気がするのだが……
焼きそばソースが染み込んだ雲とか、モチモチした光とか、そんな気配は今のところない。
「どういうことだ……パン神は……?」
「寝言うるさいんだけど」
セリスティアが素っ気なく突っ込む。すでに彼女は屋台の裏で焼きそばを仕込み中だ。
「というか、なんで私たち屋台の上で寝てたの?」
「……世界が、パンになったんだよ」
「なるほどわからん」
そんな会話が交わされるほど、世界は“何事もなかったかのように”日常へ戻っていた。
……ただ、パンの香りだけは、なぜかまだ残っていた。
「それにしても……記憶が曖昧なんだよな」
カグラは焼きそばパン(※今朝焼いたやつ)をかじりながら、ぼんやりと呟く。
「世界がパンになって……神になって……で、寝たら治ってた?」
「だいたい合ってるけど、正確に言うと“修正された”のよ」
セリスティアが手を止め、胡椒をトントンと振りながら説明する。
「昨日、観測機構から連絡があったの。『この世界の“パン優先度”が異常値だったため、調整を試みました』って」
「調整って、そんなノリなの?」
「うん。ついでに“おやつの時間”という概念も再インストールしたらしいわ」
「俺の胃袋に優しい世界じゃん……」
そこへ、“すっと”現れる人影があった。
「……よかったな。パンから人類は脱却できたらしい」
「わあ、シオン=ヴァレアさん! 淡々と不安になること言わないで!」
シオンは相変わらず、宙を見ながら詩的に語り出す。
「この世界は仮初の安寧を得たが……その構造体は、焼き直された記録の集合に過ぎない」
「難しいこと言ってるけど、多分“パンまみれだったけど直ったよ”って言ってるんだよね?」
「世界とは、カリッと焼けた表面と、モチッとした内面の融合体──」
「またパンの話してるーッ!」
「でも……パンバグは治っても、根本の問題は解決していないわ」
セリスティアが急に真面目な顔になる。
「王国と魔王軍の関係も、あの“観測外個体”の件も……いずれ、また動き出す」
「……ってことで、しばらくは焼きそばパンを焼きながら様子見だな!」
「いや、だから軽すぎるんだってば!!!」
「……で? その“様子見”って、どこで何するつもりなの?」
セリスティアが両腕を組みながら問いかける。
カグラはというと、床に寝転がってパンくずをつまみながら答えた。
「とりあえず、今日はのんびり“白の庭園”でお昼寝しつつ……」
「……お昼寝しつつ?」
「焼きそばパンを焼く!」
「また焼くの!?」
その瞬間、庭の奥からバタバタと足音が近づいてきた。
「カグラさん!! 大変ですよー!!」
現れたのは、白衣姿の魔術院職員……ではなく、
ただのテンプレ召使キャラこと、セリスティアのお抱え使用人(仮名:ポトフ)である。
「なんかすっげぇ久しぶりに出てきたな!?」
「ポトフだ。影が薄いことには定評がある」
「何を誇らしげに!?」
ポトフは汗をかきながら巻物を差し出す。
「魔王軍と王国が、また干渉地帯で“会談”を開くらしいです……!」
「え、また? 最近多くない?」
「はい。でも今回は、どうやら“開戦前提の最終確認”っぽいです……!」
「え、それもう“会談”じゃなくて“開戦式”だよね??」
「まぁ、一応議題は“バグスキル保持者の扱いについて”らしいんで……」
「俺、また議題になってるの!?!?」
セリスティアが一歩前に出る。
「その会談、今度こそ本気かもしれない……」
「……パン焼いてる場合じゃない?」
「いや、たぶんパンは焼いてもいい。焼きながら戦えば」
「それ新ジャンルすぎるでしょ!?」
カグラが空を見上げる。
夕焼けに染まる空には、どこか“終わり”の気配と、“始まり”のざわめきが混ざっていた。
「よし、決めた」
「まさか――」
「焼きそばパンの試作品、今から三種作る」
「そっちかーい!!!」
「──というわけで、試作品第一号は“タルタル焼きそばパン”です!」
〈白の庭園〉の一角、どこから持ってきたのか謎の屋台が今日もフル稼働中である。
カグラは鼻歌まじりにパンをトースターに放り込み、
となりではミルミが「うわ〜! なんかトロトロしてる〜!」ときゃっきゃとはしゃいでいた。
「……なぁ」
「うん?」
「これ、“世界ちょっとだけ修正”って話だったよな?」
「うん。“ちょっと”ね。“パンが世界改変起こすバグ”が“トッピング次第で止まる”ことにした」
「それ、もう根本からバグってるのでは?」
セリスティアが額をおさえる。
そばではアロマがタブレット風魔導端末を操作している。
「観測データ異常なし。焼きそばパン(タルタル)はバグ拡散を抑制しています」
「やっぱり抑えてるんだ……」
「てかその言い方だと、“普通の焼きそばパン”はバグを拡散してるってことじゃ……?」
ラドリウスが空間の狭間からヌッと現れた。
「パンに意思が宿ったか……それもまた、神託の一端なのかもしれん」
「いや、帰って!? 君ほんと帰って!!」
カグラはパンを一つひっくり返しながら、ぼそりと呟いた。
「焼きそばパンが……神になるのは、もう少し先にしておこう」
「やめて、その発言だけ抜き出すとめっちゃ危ない宗教みたいだから!」
セリスティアが小さく笑い、空を見上げる。
「……でも、冗談抜きに、ここから先は慎重に行かないとね」
そう。世界は、確かに“ちょっとだけ修正”された。
だが、それはあくまで“つぎはぎの応急処置”。
魔王軍と王国、そして中立勢力《白の庭園》。
次の会談が、“全面戦争”への引き金になるかもしれない。
……けれど今は、まだ。
「ほい、焼き上がり〜! 特製“とろけるチーズ焼きそばパン”!」
「バグってるって言ってんのに、増やすなああああ!!!」
──とりあえず、今はパンを食べよう。
「っていうかさ、あの会議の記録って残ってるの?」
屋台の裏で焼きそばをつまみ食いしながら、カグラが不意に問いかけた。
「記録……? ああ、前回の“世界各勢力総会議(仮)”の?」
セリスティアが眉をひそめる。
「一応、観測者たちのサブログにはあったはずだけど……」
「……バグで焼きそばパンのレシピに上書きされてたわ」
「情報食われてんじゃん!!!」
どうやら世界が“ちょっとだけ”修正された影響で、
各勢力の首脳会議の記録が“パン化”されていたらしい。
──つまり今、誰も何が話し合われたか覚えていない。
ただ、“なんとなく戦争になりそうだった気がする”というふんわりした不安だけが残っている。
「え、これ……平和ってことでよくない?」
「それ、悪化の前兆じゃない?」
セリスティアの表情に、ほんの少しだけ影が差す。
そして。
空のはるか彼方。
観測者の衛星軌道上――
“ログ修正不能”という赤い文字とともに、巨大な熱源が観測された。
──その熱源は、王国の北部、そして魔王軍の最前線、双方に向かって“点滅”していた。
「……焼きそばパンの焦げる匂いじゃ、ないよね?」
「……うん、それはたぶん、“火薬”の匂い」
世界が、静かに、またズレ始めていた。
「──というわけで、再度“会議”を開こうと思うんだが」
王国の首都、謁見の間。
謎のスーツ姿で再登場した**観測者(仮)**が、書類(なぜかレシピ用紙)を広げていた。
「また!? 前回、焼きそばパンのせいで議題が全部吹き飛んだでしょ!?」
「てか、なんで今度は“ナポリタンロール”のレシピなんですか!?」
メルゼス監察官が机を叩くが、レシピ紙はパラパラと風に舞った。
「……お、おい。見ろ」
カグラが空を指差した。
セリスティアとメルゼス、ラドリウス、ジルド、リリィ、アロマ、ミルミ……全員の視線が一点に集まる。
空に、真っ赤な文字が浮かび上がった。
《干渉地帯に集合せよ:全勢力代表》
•観測異常レベル:バグ判定B+
•通信ログ:未解析
•パン濃度:測定不能
「……なあ、パン濃度って何?」
「うちの機関も初耳です!!」
「というか、パンのせいで“通信ログ未解析”ってなに!? 文明がパンに敗北してるの!?」
そのとき、空間が“ぬるっ”と音を立ててゆがんだ。
そこに現れたのは――
「どもー。焼きたて持ってきたよ」
カグラだった。
両手に山盛りのナポリタンロールを抱え、なぜか浴衣姿でふらっと登場。
「……お前、どこ行ってた?」
「夏祭り。今、屋台バイトのシフトだから」
「戦争始まるってタイミングでバイト入れるなよ!!」
その瞬間、空がうっすらと割れた。
そこから漏れ出す光と、響く重低音の警告。
《観測不能ログが多数発生》
《世界律・整合性:異常あり》
《パンの神性:急上昇中》
「なんか……ほんとに始まるかもな、戦争」
カグラがパンをかじりながら呟く。
「でもさ、戦争って、焼きそばパン食べながらやっちゃダメなん?」
誰も、答えられなかった。
《干渉地帯》
王国と魔王軍、観測機構、その他なにかと巻き込まれた勢力が一堂に会する謎の空間。
今、そこにいる誰もが──理解できていなかった。
「……つまり?」
セリスティアが、いつもの優しい顔で訊いた。
「この状況、どういうこと?」
「俺にもわからん!」
ラドリウスがなぜか両手にフランスパンを持ちながら叫んだ。
「なぜパンが原因で“世界の整合性”がバグるんだ!?」
「おそらく、“あの男”の【???】スキルが、“存在認識”そのものに作用しているのだろう」
シオンが哲学的に首を傾げながら、カレーパンをもぐもぐしている。
「パンで哲学語るな」
メルゼスが机を叩く。だが、その机はすでにあんパンになっていた。
「やっぱり“存在改変”じゃないか……!」
アロマが震える声で呟く。
「このままだと、世界はパンに置き換わる……!」
「バグとか戦争とか言ってる場合じゃない! 朝食が始まる!!」
誰かが叫んだ。
その瞬間──空間が割れた。
《魔王、到着》
そこには、威風堂々とした、黒と金の鎧を纏った男がいた。
その口元がゆっくり開かれ──
「パンください」
「おまえもかーーーーっ!!!!」
全員が一斉にツッコんだその瞬間、
世界律がパンで上書きされ、干渉地帯は“高級ベーカリー”へと変貌を遂げた。
──そして、開戦は一旦中止となった。
理由はこうだ:
「パンの焼き加減に満足するまでは戦えない」
―魔王
はい。焼きそばパン、神になりました。
世界よりパンが優先される時代へようこそ。
今回はもうほとんど「戦争? それって朝食の一種?」みたいなノリでお届けしましたが、
こんなふざけた回にも、カグラの【???】スキルの真相っぽい話が、うっすら混ざってた気がします。
うっすらね。




