これが戦争ですか? バグですか? それともパンですか?その2
タイトルからしてバグってますが、今回も読んでくれてありがとう!
干渉地帯での意味深(に見える)会議回。
でも実際には「会議=なかった」かもしれないという、ログの上書きオチ。
カグラのスキル“???”がちょっとずつ世界に作用し始めてる…ような…気もします。
記憶とパンの境界があやふやになった人は、いったん焼きそばパンで落ち着きましょう。
空が、ちょっとだけバグっていた。
正確に言うと、雲の流れが逆再生されていた。
右から左へ流れていたはずの雲が、ふいに“カセットテープの巻き戻し”みたいにキュルルと戻る。
空間そのものが、まだ“ちゃんと読み込まれていない”感じ。
「……これが“干渉地帯”ってやつか」
カグラは焼きそばパンを頬張りながら、ぬるい感想を漏らした。
「うん、ここまで来ると慣れてくるわね。世界がぐにゃぐにゃなの」
セリスティアは少しだけ目を細めて、結界術の気配を探るように空気に手をかざした。
「どう?なんか変な気配とか、いる?」
「変じゃない気配なんて、最初からないわよ」
「それもそうか」
一行は、平原のど真ん中に立っていた。
遠くには、空間がゆらめいて塔のような影がチラ見えしている。
でも、その“塔”は一瞬で消え、また現れ、まるで“観測されるのを拒んでいる”かのように姿をぼやかしている。
「この先に、ラドリウスがいるってこと?」
「多分ね。彼からは“ここで落ち合おう”って言われてるけど……」
「……!」
風が吹いた。
その風に乗って、誰かの気配が混ざった。
「来たか」
シオンの目が細くなる。
そして──空間が、もう一度“巻き戻る”。
「観測外個体──
まさか、パンを持って来るとは思わなかったよ」
現れたのは、例の赤黒いフードの男。
ラドリウスだ。相変わらず登場時のエフェクトだけはやたらカッコいい。
「……いや、そっちが時間指定してきたから来ただけなんだけど」
「うん、そういうとこ、好きだよ」
「会話になんないんだけどこの人!?」
ラドリウスがふっと笑い、空を仰ぐ。
その視線の先では、“誰か”の影が──またしても“逆再生”されていた。
「……さて。そろそろ会議の準備を始めようか。
パンの持ち込みは、可とする」
「やった!」
──こうして、バグりかけた会議が、始まる。
「……で、どこでやんの? この“会議”」
カグラは焼きそばパンを半分齧りながら、干渉地帯の空間をキョロキョロ見渡していた。
「まさかこのへん、全部テーブルの上ってことじゃないわよね?」
「ふふ、大丈夫。“会議室”は、これから生成するから」
ラドリウスがパチンと指を鳴らした。
すると──
空間が、ぐにゃりと“折れた”。
正確には、地平線が折りたたまれ、空と大地がスライドして、
まるで折り紙みたいに、四角い空間が“出現”した。
「……うわ。バグ技術って便利だな」
「これは神託の残響。私の力じゃなく、“記録そのものの遺構”だよ」
「つまり、会議室は“神のオフィス”の残骸?」
「いい例えだ」
ぽつん、と現れた“石造りのテーブル”に、
一人、また一人と姿を現す者たちがいた。
「王国代表、王立魔術院監察官──メルゼス・クローディアス、到着」
堅物眼鏡の男が、凛とした声で宣言しながら現れた。
彼は一礼するでもなく、テーブルの端に立つと、カグラを睨んだ。
「……また君か。いつも混乱の中心にいる気がするよ」
「それ、俺も思ってた」
続いて、今度はまったく場にそぐわない元気な声が──
「まっすぐ120kmって言ったじゃん!」
「誰が聞いてもその距離おかしいでしょ!?」
ミルミとアロマが、ぐるぐる回りながら空間から“着地”してきた。
「魔王軍側も到着〜! ラドリウスくん、遅い!」
「遅くない。お前が早いんだ」
「というか、これ……“話し合い”って言ってるけど、
なんか全員、話し合う気ないよね?」
セリスティアがぽつりと呟いた。
「ええ。私もそう思うわ」
と、アロマが同意してくるのが逆に怖い。
──世界の端で開かれる、意味不明な会議。
出席者の半分はパンを食べていて、半分はバグを監視している。
でもきっと、大事な話が始まる……はず。たぶん。
「それでは──会議を、始めます」
ラドリウスの声が響く。
けれど、その瞬間、ミルミがポップコーンのように椅子の上で跳ねた。
「えっ、ねえねえ会議って言ってるけど! 議題なに!?」
「だから、“カグラ=シノノメの存在について”だと……何度も……」
メルゼスがこめかみを押さえる。何度目かの頭痛らしい。
「その存在がどう問題なのか、具体的に挙げてもらえますか?」
「例えば、ここにいる全員の中で、“パン食ってるのに世界がバグった”奴が他にいますか?」
「つまり私がパンのせいでバグってると?」
「逆説的に、パンが世界の真理である可能性もある」
「なんの話ですか?」
──混乱していたのは、会議だけではなかった。
【観測ログ更新中──】
【“???”の影響により、出席者の時間認識が2.3秒ズレました】
【補正完了:現在の時間=現在の時間】
「なんか出たぞ!? また謎ログ!?」
「お前がいると、世界がちょっとずつおかしくなるって話なんだよ……!」
そのとき。
会議室の天井──正確には、“空”に浮かぶ歪んだ雲の中から、
“もうひとつの空間”がちらりと覗いた。
「……これは……」
シオンがふいに立ち上がる。
そこには、“かつて誰かが座っていた椅子”だけが、ぽつんと浮いていた。
「過去の会議の残滓……?」
「いや、違う。“記録されていないはずの椅子”だ」
その瞬間、カグラのスキルがまたしても、ひとりでに発動しかける。
【“???”が発動しました】
【データ整合性を確認中──】
「うおおおおお!? なにか始まりそうだったけど止まったー!」
「“発動しかけるけど止まる”って新しいな……」
セリスティアがぽそっと呟いた。
「……最近、スキルが“様子見”してる気がするのよね。
なんか、世界の空気を読んでるっていうか……」
「空気読んでるの、俺のスキル!?」
──会議は、進んでいるのか、止まっているのか。
パンの匂いとログの更新だけが、空間に残されていた。
──カチ、カチ、カチ。
会議室の隅で鳴る音。
誰も触っていないはずの“時計”が、なぜか逆回転していた。
「……誰か、時間、巻き戻した?」
「知らんがな。俺、焼きそばパン食ってただけだし」
「食べてただけで時間がバグるんじゃないわよ!」
セリスティアがぷるぷると震えながらツッコむ。が、それすら“空間に吸い込まれるように”消えていく。
──異変はそこから加速した。
「……え?」
メルゼスがふと、テーブルに目を落とした。
そこにあったはずの“資料”が、紙ではなく“パンフレット”になっている。
しかも内容は「干渉地帯おすすめ観光ガイド」。
「……いつ、誰が作った!? これ、“観光スポット”って概念なかっただろ!」
「なんか行ってみたくなる見出し多いね」
「やめろカグラ、乗るな」
その横では、アロマが黙って周囲の空間を指でなぞっている。
「ログの整合性が保ててない。誰か、記録を書き換えてるわ」
「じゃあ犯人は……やっぱカグラ?」
「えっ、俺なんかした? パンかじってただけだよ?」
「それが“観測外行動”かもしれないのが問題なのよ」
すると、シオンがぽつりと呟いた。
「……いや、これは“誰かが過去を見てる”時の空間歪みに似ている」
「誰かが過去を……?」
「記録ではなく、“思い出”として再現される場合──
観測者以外にも、影響が波及する」
その言葉に、ラドリウスも小さくうなずいた。
「ここは干渉地帯。いくつもの“世界の断片”が交錯している。
それらを繋ぐ何かが──この空間をゆるやかに、上書きしているのかもしれない」
「それってつまり、世界が“誰かの記憶”になってるってこと?」
「記憶が世界を食べてるのか、世界が記憶を食べてるのか……
今のところ、境界は曖昧だ」
──静かになった会議室で。
ぽつん、とひとつだけ音がした。
【スキル“???”が微反応を検知しました】
【影響範囲:空間レイヤー/記録階層/個人認識】
「えっ……今、“個人認識”って言った? 俺、誰かに忘れられてるとかないよね!?」
「……たぶん、今ここにいる全員、“ちょっとずつズレてる”のよ」
──誰が誰だったのか。
何が先で、何が後だったのか。
“記録されていない会議”は、ゆっくりと、存在の根本から崩れていく。
でも。
「ま、パンがあるうちはなんとかなるっしょ」
そんな風に笑うカグラだけが、変わらず真ん中にいた。
──バリッ。
床に、音がした。
いや、“床”だったはずの場所に、“音”だけが響いたのだった。
「……今、床が……剥がれなかった?」
リリィが小さく呟く。
その足元には“見えない何か”が広がっていて、
光も影も、言葉すら届かない“断層”がぽっかりと開いていた。
「ねえ……この部屋、だんだん狭くなってない?」
「それは……気のせいだろ……」
ジルドが焦りつつも強がる。が、すぐ背後の壁が“ぬるっ”と音もなく消えていった。
「……やっぱ狭くなってるじゃねえか!!」
「なんだこれ!? 世界ってこんな感じで終わるの!?」
ミルミが大声を出しながらジャンプするが、
天井に手が当たるどころか、腕ごと“空間の外”に吸い込まれかける。
「わーっ!? 今、腕が“まだ存在しない空間”に入ったーーっ!?」
「今のログ、あとで見せて」
アロマは冷静だ。
──記録に、ひびが入っていく。
【スキル“???”が断層の縁に接触しました】
【空間再構成フラグ:80%】
【注意:この会議の“存在自体”が、更新されます】
「なあ、それってどういう意味だ?」
「つまり──“会議そのものが、なかったことになる”ってことよ」
「じゃあ、俺がここで焼きそばパン食ってたことも?」
「……なくなる」
「え、それめっちゃ困る」
「そこ!?」
──そのとき。
“会議室のドア”だったものが、ゆっくりと開いた。
だがそこには、ドアの向こうなんて存在しなかった。
あるのは、記憶にしか存在しないはずの“あの日の空”だった。
どこかで見た、夕暮れの空。
「え……?」
シオンが、吸い寄せられるように一歩を踏み出した。
カグラも、焼きそばパンを片手に、ふとそれを見上げる。
「……なんか、懐かしい匂いがする」
──会議は、終わらなかった。
会議そのものが、ただ“どこかへ消えて”いっただけだった。
空白のような時間の中で、スキル“???”だけが、静かに光っていた。
──風が吹いていた。
目を開けると、そこは見覚えのある草原だった。
空は夕暮れ、空間は安定しているように“見える”。
「……戻ってきた?」
カグラが焼きそばパンを見つめながら、ぽつりと呟く。
パンは……半分、消えていた。
いや、正確には、“記憶の中の焼きそばパン”だけが残っていた。
「なんで……食べかけのパンまで“記録改変”されてんの……?」
「そのパン、もしかして……“世界に食べられた”んじゃない?」
「そんなのアリかよ!?」
そこへ、セリスティアがふわりと現れる。
彼女も、少しだけぼんやりしている。
「……なんか、長い夢を見てた気がする……
干渉地帯で会議してたような、してなかったような……」
「それ、たぶんあった。でもなかった。いや、たぶん“なかったけど記憶にはある”やつ」
「え、それって“夢オチ”ってこと?」
「ちがう! もっとメタ的に“ログが上書きされた”みたいなやつ!」
「余計わかんない!」
しばらく沈黙が続いた後──
「……とりあえず」
カグラは立ち上がり、空を見上げた。
「パン……焼き直すか」
「まだ食うんかい!」
「パンが俺のメインテーマだから」
「そのうち“焼きそばパン=神”とか言い出しそうで怖い」
──記録に残らない戦争、存在しない会議、曖昧な記憶。
でも、空がきれいで、風が優しくて、パンがうまいなら──
それでいいんじゃないかと思えてくる。
カグラのスキル「???」は、今日もどこかで世界と“ちょっとだけ”ずれていた。
お疲れさまでした!
カグラのパンが“半分だけ記録から消える”という、割と深刻な事件でした(パン的に)。
この物語、バグっててギャグなんだけど、
どこかに“記憶”や“存在の意味”みたいなものも混ざってて──
ま、考えても仕方ないし、次の話もゆる〜くいきます。
次回はもっと“普通っぽい回”になるか、
それともまた空間が巻き戻るのか、神託がバグるのか、
パンが爆発するのかは……そのとき次第!
では、また次回




