これが戦争ですか?バグですか?それともパンですか?
お久しぶり(?)のラドリウス登場回です。
今回は「戦争の足音」が聞こえてきたので、そろそろ世界観っぽい展開……
のはずが、やっぱりバグってパン焼いてます。
誰が悪いって、だいたいカグラです。
朝。
ホワイトガーデンの空は相変わらず青く、空気はピリッと冷たく澄んでいた。
ここが“世界の狭間”であることを忘れてしまいそうな、そんな穏やかな朝だった。
カグラは、庭のベンチで焼きそばパンを焼いていた。
「……焼きたてって、なんでこんなにうまいんだろな……」
ジュウウ、と焼きそばがパンの中で音を立て、
ほんのりとバターの香りが空間に溶け込んでいく。
そこに、セリスティアが顔を出した。
王国の姫にして、“保護者”を名乗る不思議系ヒロインである。
「カグラ。そろそろ、王国と魔王軍の動きが本格化してきたみたいなの」
「んー?」
「いま、世界の東側で“大陸境界帯”が揺れてるって報告があったわ。
たぶん、魔王軍が集結してるの……このままだと、開戦するかもしれない」
「へぇー」
焼きそばパンをくるりとひっくり返す。
「……まぁ、とりあえず焼き終わってからにしようか。戦争ってやつは」
「またそれ!? パン優先なの!?」
カグラは焼き上がったパンを一口かじりながら、空を見上げた。
その瞬間、
──空間がわずかに揺れた。
セリスティアが目を見開く。
「いま……また、世界が“バグった”……?」
「いや、パンがうますぎただけじゃね?」
「違うでしょ!!」
──そして、その“違和感”の中から、
ひとりの男が現れる。
「……世界の温度が、変わったな」
赤と黒のローブ。白銀の髪に、深紅の瞳。
その男は、ふわりと庭に降り立った。
「……またお前か、ラドリウス」
セリスティアが構える。
ラドリウス──魔王軍の使者。そして、意味深な発言しかしない男。
「この世界は、そろそろ“選択”を迫られる。
人間か、魔王か。そして──そのどちらにも属さぬ、観測外の者か」
「よう、久しぶり。焼きそばパン食う?」
ラドリウスの言葉を、カグラは鼻で受け流す。
「貴様……戦争の予兆を、焼きそばパンで誤魔化す気か」
「いや、パンは世界の真理だから」
「何言ってるの!?」
──空が、再びわずかに“揺れる”。
世界は、何かを訴えている。
だがそれが戦争の気配か、パンの香りかは、誰にもわからなかった。
ラドリウスは、ゆっくりと右手を掲げた。
「神託は示している……この地に、第一の火種を落とせと」
空がまた揺れる。風がざわめき、庭に不自然な影が差した。
ラドリウスの掌から、黒い光の球が浮かび上がる。
「いまここに──魔王軍と人類の、戦争を始めよう──」
「いや、まだ焼きそばパン焼いてるから待って」
「なに?」
「あと3分。これ焦げやすいから」
「…………」
沈黙。
魔王軍の使者、世界の均衡を崩す者、ラドリウス──
完全にペースを崩された。
セリスティアは頭を抱えた。
「なんでこの人、こんな場面でもパンなんですか……!」
「いや、ちゃんと空気読んでるよ? “あ、そろそろ戦争始まるな〜”って感じはしてる」
「だったらパンやめて!!」
そこへ、ひょっこり現れたシオン。
「……空間の歪みが強まっている。君のパンのせいだと思う」
「どう考えてもラドリウスのせいだろ」
「否、パンだ」
「お前もかよ!!」
──そんなやり取りをしている間にも、
ラドリウスの周囲に黒い結晶のようなものが浮かび始めた。
「この世界に、神託のまま第一の“炎”を──」
「──はい、できたー! 焼きそばパン!」
バチィン!
ラドリウスの魔力球が弾け飛んだ。
「な……!?」
「熱気で爆ぜたな。パンの。……すごい熱量だった」
「ふざけているのか貴様ら……」
カグラは焼きそばパンをフーフーしながらかじった。
「でもうまいんだよな〜これが」
「世界の崩壊よりパンを優先するとは……やはり貴様、観測外だ」
「焼きそばパンを観測できない時点で、お前もバグってるけどな」
「っ……!」
──戦争の導火線に火が灯る、はずだった。
だが、
パンが先に焼き上がった。
「この空間……もう、収拾がつかなくなってきてる……」
セリスティアは両手で空間を制御しようとしたが、
ホワイトガーデンの結界すら、微細なノイズを帯び始めていた。
「見て、空が……!」
空には、“もうひとつの月”が浮かんでいた。
それは赤く、歪み、まるでどこか別の世界を映し出しているような……
「……“黒の月”。まさか、魔王軍が……」
「いや」
シオンがカグラの手元を指差す。
「おそらく、そのパンの影響だ」
「ちょ、なんで!? なんで黒い月がパン由来なの!?」
ラドリウスは苦しげに眉をひそめた。
「神託に……反応がない。パンによって、神の観測が遮断されている……」
「いや、どんなパンだよ!? それもう世界改変してない!?」
そこへ突然、
“あの2人”がやってきた。
「ふふん、我が輩の分析によれば、この空間はすでに限界寸前──」
「お、お兄様! ちょっと、カグラがまた変なことしてるのよ!」
金髪ツインテがぷりぷり怒ってる。
テンプレ脳筋お嬢様・リリィ=ハートフィールド、そして──
「学年主席のジルド=フォン=グランツ様登場だ。よく拝め」
「誰も呼んでないよ?」
「うるさい! 君たち、いま非常事態なんだぞ!? パンの暴走で世界が──」
──ズボォォン!!
突然、空間に“穴”が空いた。
焼きそばパンがふわりと宙を舞い、
赤い月と黒い穴が融合しかけ──
「って、ちょっ!? カグラ! あんたのパン、次元吸い込んでるんだけど!?」
「えっ えっ 俺のせい!?」
そしてその瞬間。
カグラの背後で、まばゆい光が弾けた。
「……パン、転送されたな」
「うそでしょ!? どこに!?」
「……たぶん、魔王城の食堂あたりだと思う」
「なんでピンポイント!?」
──“黒の月”は、パンによって満たされた。
そして世界は、“戦争”ではなく、“腹ごしらえ”へと進路を変えた。
魔王城、食堂。
そこでは──
突如、転送されてきた謎の焼きそばパンをめぐって、ちょっとした混乱が起きていた。
「……なんだこれは?」
魔王軍幹部らしき男が、目を細めてパンを見下ろす。
「……焼きそばパン、ですね。たぶん、これは“世界の外”から届いた……」
「なぜパンが届く」
「わかりません! ですが、香りがすごく食欲をそそります!」
──戻って、ホワイトガーデン。
カグラは床に座り込んで、頭を抱えていた。
「やべぇ、パン……送り込んじまった……!」
「どこに!?」
「……魔王軍の、たぶん幹部会議中の机の上……」
「最悪のタイミングじゃん!!」
セリスティアも叫ぶ。
「どうするのよ! これ、完全に宣戦布告じゃない!?」
「いや、逆に……“パン和議”の可能性もある……」
「パン和議って何!?」
そのとき、空間に通信ノイズのような“音”が走った。
──プツ、ピッ──
『……我ら魔王軍は、貴様らとの戦争を……一時、見送る』
全員「え?」って顔をする。
『パンが、うまかった……このような文化を持つ者たちと、容易に血を流すわけにはいかぬ……』
沈黙。
ラドリウスが、苦悶するように頭を抱えた。
「神託が……沈黙した……パンに負けた……!」
「うちのパン、神託に勝ったの……?」
ジルドとリリィもぽかんとしている。
「ちょっと……え、なに? 我が輩ら、なんか今すごい場面に居合わせてない?」
「……うん、なんか、世界がパンで救われたっぽい」
「いや、納得いかん! そんなテンプレ破壊、ありかー!?」
──そして、世界は静かに、
“開戦”の火を、一度だけ見送った。
魔王軍と人類との歴史に残るはずの瞬間は、
焼きそばパンによって、優しく包み込まれたのだった。
静まり返ったホワイトガーデンの庭で、誰もがぽかんと立ち尽くしていた。
さっきまで戦争だった。
さっきまで、世界がバグってた。
……いや、たぶん今もバグってるけど。
カグラは地べたにぺたんと座って、
空を見上げながら、しみじみと呟いた。
「……パンって、すげぇな」
セリスティアが、ゆるく微笑む。
「ほんとに……あなたって、なんなの……」
「救世主かもしれんぞ」
どこからともなく、シオンの声。
彼は庭の隅で、ちょこんと座っていた。
「パンで神託をねじ伏せ、戦争を防いだ存在……そう、“世界をも誤魔化すパンの使徒”」
「言い方が重い!!」
ジルドは悔しそうに地面を拳で叩いた。
「くっ……こんな形で、我が輩の出番が終わるとは……!」
リリィは頬を膨らませながら叫ぶ。
「なんかもう、あんたたちに全部持ってかれた気がするんだけどっ!!」
「まぁ、焼きそばパンうまかったしな……」
カグラがポケットから、もう1個取り出す。
「これ、どこから出してるの!?」
「???スキルかな? パン無限ストック機能」
「いや、チートが地味なんだよ!」
──そして今日も、世界はバグっている。
たぶん明日もバグってる。
でも、そんなバグの隙間に、
ほんのりと香ばしい、パンの匂いがしていた。
次回:『“あの2人”、結局パンの話しかしてない』
……のか、それとも、新たな脅威が……?
続きは、焼きたてのパンの香りと共に──
お読みいただきありがとうございました!
戦争回のはずが、いつの間にかパンによる和解ルートになってました。
いやほんと、焼きそばパン強すぎる。
カグラの“???”スキル、実は「パンの生成と転送」に全振りしてる説も出てきましたが、たぶんバグってるだけです。
あと、ジルドとリリィの久々の再登場も、完全にパンのかませ犬ポジションでしたね……ごめん、君たちテンプレだから仕方ない。
ラドリウスもシリアスブレイクされまくってて、
「神託がパンに負ける」というワードが出てきた瞬間、もう自分でもどうにも止まらなかったです。
……たぶん、またパンが出る気がします。
次回も、焼きたて気分でゆるっとお楽しみに!
ではでは!




