魔王軍?パン焼いてからでよくない?
お読みいただきありがとうございます!
今回は、魔王軍にまさかの“パン試食会”に招待されたカグラたち一行が、再び世界のバグに巻き込まれていく(というか自分から巻き込んでいく)お話です。
タイトルはゆるく、内容はちょっとだけ核心に近づきつつ、最後までギャグで突っ走りました。
焼きそばパンを食べてるだけのはずなのに、未来がパンまみれになっていたのは完全にバグです。
……たぶん。
──朝。
《白の庭園》は今日も、よくわからないけど平和だった。
小鳥が鳴いている(電子音)、風が吹いている(魔導風)、花が咲いている(たぶん自然)。
「……あれ? なんか静かじゃない?」
カグラがぽつりとつぶやく。
「誰も騒いでない……ミルミも踊ってない……セリスティアも屋台起動してない……?」
あまりに静かすぎて、逆に不安になるくらいだった。
「……もしかして……」
カグラはごくりと喉を鳴らした。
「──世界、直った?」
その瞬間──
「うわああああああああああ!!!」
奥のほうからミルミの叫び声。
「ダメだったああああああああ!!!!!」
「いやダメなんかい!!!」
カグラが駆け寄ると、そこには膝から崩れ落ちたミルミが。
その前には、真っ黒に焦げたナニカが鎮座していた。
「……これは……?」
「焼きそばパン失敗作、試作品No.47……“真・ソース・インフェルノ”……」
「名前からしてヤバいやつじゃん!!!」
焦げのくせに、魔力を帯びてゆらめいていた。しかも、小規模な重力歪みまで発生している。
「パンのくせにブラックホールの片鱗見せるなよ!!」
セリスティアが歩いてきて、疲れた顔で言う。
「やっぱり“焼き”って行為は、次元に干渉しやすいのね……」
「その解釈もヤバいって!!」
──そんなこんなで、朝は相変わらずカオスだったが。
午後からは、珍しく“お出かけ”することになっていた。
目的地は──
「え? 魔王軍の本拠地?」
カグラが思いきり二度見した。
セリスティアは、涼しい顔で言う。
「ええ。招待されたの。**“和解のためのパン試食会”**って」
「いや、和解方法おかしいだろ!!」
だが、事態はもう進んでいた。
なんと《せれす亭》が自動運転で魔王領へ向かう準備を始めていたのだ。
「ちょ、ちょっと待って!? これで行くの!? また!?」
「うん。せっかくだから出張営業よ」
「マジかよ……パン屋のくせに国境またいでんじゃねぇよ……!」
──こうして、カグラたちは再び《せれす亭》に乗って、謎の魔王軍領内へ旅立つこととなる。
「……まさかこんな展開になるとは……」
カグラは空を見上げてつぶやいた。
「ほんと、“焼きそばパン焼いてから”でよかったのか……?」
──数時間後。
《せれす亭》は、謎の浮遊魔導炉によって空を滑るように移動していた。
ちなみに、屋台に「オートパイロット」ボタンをつけたのはセリスティアである。
「いやいや……ほんとにこれで魔王領行ってるのヤバいって……」
カグラが屋台の中でソワソワと落ち着かない。
「魔王軍って、前は国境に攻めてきたんだぞ!? パン試食会で済む問題じゃねえだろ普通!!」
「でもあのあと、すっごく丁寧なメールが届いたのよ。“本件に関し深く遺憾の意を表します”って」
「企業かよ!!?」
セリスティアは手帳を開きながら、淡々と言った。
「ちなみに、“歓迎の宴”という名目で、王国側の観測者・観察者・焼きそばパン愛好会の代表も招待されてるらしいわよ」
「パン愛好会って何!?」
そのとき──
「やっほ〜〜〜☆」
屋台のカーテンがめくれ、ミルミが逆さまにぶら下がっていた。
「うわっ、なんで天井から出てくんだよお前!?」
「にゃはは〜、風呂場の排気口から乗り込んでた〜!」
「そこから来るな!!屋台にそんなとこないだろ!!」
セリスティアが、ちょっと真面目な表情になる。
「……でも、魔王軍の“本拠地”に入るのって、初めてよね。どういう反応されるか、少し読めないわ」
「そういえば……魔王軍って、幹部クラスは全然姿見せてこなかったよな」
カグラが腕を組む。
「ラドリウスとミルミ以外、全然接点なかったし……」
ミルミがにこにこしながら言う。
「うん、今日はね〜“全員集合”って感じらしいよ!」
「さらっと言ったけど、それたぶんヤバいやつだよね!?」
「大丈夫大丈夫〜。パンの前ではみんな優しいから!」
「なんでパンが国交の基準になってんだよ!!」
──しばらくして、屋台の窓から見えてきたのは──
遠くにそびえる、巨大な黒い塔。
その周囲には、赤くゆらめく魔導障壁。
そして空には──パン型飛行艇が普通に飛んでいた。
「……いや、ほんとにパン文化圏すぎない?」
カグラがぼそりと呟く。
セリスティアが屋台のカウンターに並べられた焼きそばパンを見て、小さく笑った。
「……でも、なんだかんだで、今日もこのパンに守られてる気がするわ」
「いや重いな!? パンにそんな神聖性込めないで!?」
──だがそのとき、屋台の後方で“ノイズ音”が鳴った。
「ぴぴ……ガガ……──ログ再構築中……」
カグラが振り返る。
「……ん? いまの音、なんだ?」
セリスティアも首をかしげた。
「この屋台、ログ機能なんてあった?」
ミルミが嬉しそうに答える。
「ううん、たぶんないと思う!」
「“たぶん”って言うな!!」
──かすかに、何かが干渉してきていた。
“ゆる〜い空気”の中に、ほんの少しだけ、異物感が混じりはじめていた。
だが、今はまだ。
「ま、とりあえず……」
カグラは、トングで焼きそばパンをひとつ手に取る。
「腹が減っては、パンも焼けぬってな」
「逆だよそれ!!」(セリスティア)
屋台は、魔王軍の本拠地へ向かって、今日も元気にふわふわ飛んでいくのであった──。
──魔王軍領内・本拠地周辺。
《せれす亭》が着地したのは、まさかの“迎賓用の赤いカーペット”の上だった。
「うわ、本当に歓迎ムード……!」
「屋台にカーペットって合わなすぎる!!」
出迎えに来たのは、魔王軍の使者──ラドリウス。
今日も意味深な微笑みをたたえて、手を広げていた。
「よくぞお越しくださいました。
……パンの香りとともに、混沌の種子が……いえ、友好の風が届きました」
「今なんか変なの混ざったよね!?!? “種子”って何!?」
セリスティアは優雅に一礼。
「本日は“パン試食会”ということで。魔王軍の皆様、どうぞよろしく」
ラドリウスがうなずく。
「ええ、皆心待ちにしておりますよ。──特に、魔王様が」
「えっ!? まさか魔王本人出てくるの!?」
カグラが思わず一歩下がる。
「……でも、おかしいな。魔王って確か“高熱の瘴気をまとう異形の存在”って話じゃ──」
「うん、そうだよー」とミルミが手を挙げた。
「でも今日は“焼きそばパン対応モード”だから、熱は抑えてるって!」
「モード切り替えできるの!? 便利すぎない!?」
──そして一行は、広大な謁見の間──
……ではなく、謎に家庭的な畳の間に通された。
「え? なにこの実家感……?」
「おじゃましまーす、みたいな雰囲気あるな……」
そこには魔王軍の面々が勢ぞろいしていた。
全員、パンくわえて待機している。
「誰が指示したその待機スタイル!!!」
ラドリウスが淡々と解説する。
「本日は、“パンを通しての心の開示”を目的とした非公式会合です。どうぞ、皆さまも一口どうぞ」
セリスティアがこくりと頷き、焼きそばパンを口に運ぶ。
「……ふふ、美味しい。これが、友好の味ね」
「いや名言っぽく言ってるけど、中身ふつうだからね!?」
そこへ、黒髪ロングの少女──アロマが静かに現れる。
「……確認完了。“和解の兆候”として記録。なお、パンの満足度は中央値85.6%」
「お前、何を記録してんの!?」
すると、その奥──
重々しい扉がゆっくりと開く。
「来る……!」
ラドリウスが神妙な顔になる。
「──我らが魔王陛下、謁見にお越しになります」
全員が静まり返る中、鳴り響く足音──
だが、姿を見せたのは──
「やっほ〜〜☆ また来ちゃった♡」
ミルミだった。
「ってお前かあああああああああああ!!!」
カグラが即ツッコむ。
「お前さっきまで一緒にいたじゃん!! なんで改めて登場してくんの!?!?」
ミルミはくるりと回ってポーズを決めた。
「ふっふっふ……実は──」
「──私が、魔王の娘であり、代行者でもある!!」
「初耳情報多すぎだよ!!!」
セリスティアが思わず手を上げた。
「代行って……あの、いわゆるお父様は……?」
ミルミは明るく答える。
「お腹壊して寝てるよ!!」
「なんでこの大事な日に限って!?!?!?」
──こうして、
**パンとツッコミが乱れ飛ぶ“魔王軍パン試食会”**が幕を開けた。
世界は、今のところ……まだバグっていない(たぶん)
「それでは──パン、いただきま〜す!!」
ミルミの号令(?)とともに、魔王軍幹部たちが一斉に焼きそばパンをかじり始めた。
──静寂。
──もぐもぐタイム。
──ツッコミ不在。
「……なんでこんな厳かな雰囲気になるの? パンだよ?」
カグラが小声でボソッとつぶやく。
アロマが、もぐもぐしながら淡々と分析する。
「……うまい。炭水化物と油分とソース……。この塩梅、罪深い」
「分析するなよ!? いや、してもいいけどすごい真顔で言うなよ!?」
セリスティアはお茶を差し出しながら、どこか誇らしげだった。
「ね? だからパンは正義なのよ。
焼きそばパンがあれば、世界は……だいたい丸く収まるの」
「ほんとに収まってるか?今……」
ラドリウスがゆっくりと立ち上がる。
「……確かに、争いを終わらせる手段が、パンとは思いませんでした」
「うん、普通思わないよ」
「だが、貴様の存在──カグラ=シノノメ……。
その“スキル”の影響がパンにすら及んでいることは、我々に新たな視点を与えてくれた」
「え、なにその深刻そうな口調。俺、ただの腹ペコ人間なんだけど?」
ラドリウスがパンを高く掲げた。
「ゆえに、我々はこの“焼きそばパン”に──新たな名を授ける!!」
「えぇ!?」
幹部たちが一斉に起立し、拳を天に突き上げた。
「──《神麺包》!!!!」
「中華寄り!?!?!?」
「その響き、なんか世界に影響与えそうだからやめて!?」
そこへセリスティアが困った顔で割って入る。
「ちょっと待って、それ、勝手に名前つけないで! うちのパンなんだけど!?」
ミルミももぐもぐしながら手を挙げる。
「じゃあ、“ミルミスペシャル・セカンドインパクト”って名前は?」
「余計ヤバいわ!!」
そのとき──
場の空気が、わずかに揺れた。
カグラのポケットの中で、なにかが“ピリッ”と鳴った。
「……ん?」
取り出してみると、謎の魔導端末がうっすらと発光している。
──【Log干渉:発生中】
──【スキル“???”が外部から観測されました】
「うわ、なんかまた変なの始まったぞ!?」
アロマが即座に反応する。
「ログの波形が……この場の“命名行為”と連動しています」
「名前つけたせいでバグったの!?!?!?」
セリスティアが目を見開いた。
「まさか……パンに“神性”を付与することで、カグラのスキルが次の段階に……!?」
「進化させんなああああああ!!!!」
その瞬間──
空間に“バチンッ”とノイズが走り、畳の間が一瞬だけ──ソース色に染まった。
「ソース色ってなに!?!?」
「カラメル寄りの色だね!」(ミルミ)
「フォローの方向性が意味わかんねぇよ!!」
パンの試食会は、ゆる〜く進んでいたはずなのに──
気づけばまた、何かが“構造”を逸脱しはじめていた。
カグラは、そっと言った。
「……これさ。やっぱ、俺が来ると全部バグらない?」
セリスティアが苦笑いする。
「ええ。正直、その通りよ。でも──」
「それでも、私はあなたの“保護者”なんだから。
ちゃんと、ついていくわ。焼きそばパン片手にね」
「焼きそばパンはもういいって!!」
──場の空気が、微妙に“ソースっぽい”まま、会議(?)は続いていた。
「……というわけで、
神麺包計画は、いったん保留ということで」
「いや、保留で済むレベルかそれ!?
パンに神性つけただけで世界歪んだんだけど!?」
ラドリウスは軽く咳払いしてから、真面目な顔で続ける。
「……さて。冗談はさておき、我々が本当に伝えたかったのは──」
そのとき、ミルミが元気よく手を挙げた。
「は〜いっ! 今日のパン、最高だったよ!!」
「話、遮るなああああああ!!!!」
だが、ラドリウスは怒らなかった。
むしろ、どこか嬉しそうに、目を細めて言った。
「……君が笑っているなら、それでいい」
「急に父親っぽくなるのやめて!? 感情が読めないタイプの極みかよ!!」
そのとき。
部屋の隅に設置されていた“魔導録画水晶”が、ピコンッと音を鳴らす。
【重要映像ログを検出】【自動記録開始】
アロマがふと眉をひそめた。
「……このログ、何か変だ。波形が……“過去の干渉”を含んでる?」
セリスティアが目を細める。
「まさか……また、世界の“履歴”が書き換えられてるの?」
カグラは口にしていたパンを止めて、ゴクリと飲み込む。
「え、それって……俺のせい……?」
──その瞬間、水晶が映し出したのは、カグラの過去映像だった。
・庭で焼きそばパンをむしゃむしゃしてる少年。
・パンが潰れて号泣する姿。
・セリスティアに「それ、落としただけでしょ」と真顔でツッコまれる一幕。
・ミルミが背後からこっそりパンを狙ってるシーン。
「ちょっと待て!? なんでそんなプライベート映像流れてんの!?!?」
ラドリウスが静かに言った。
「……これは、“観測外の記憶”だ。
本来、記録されていないはずの時間が、再生されている」
アロマが真剣な顔で補足する。
「……おそらく、カグラのスキル“???”は、
ただの“無効”ではなく、“記録されない過去”を構成する力を持っているのかもしれません」
「ちょっと待てよ!? 俺、そんなスゴいやつなの!?」
「うん、スゴいやつだよ!!」(ミルミ)
「褒めるなぁぁぁぁぁ!!」
セリスティアが、小さくため息をついた。
「……やっぱり。あなたって、なんというか、“世界の余白”みたいな存在よね」
「ポエムかよ!? 補足して!?!?」
「つまり、“因果のすき間に入り込むタイプのバグ”ってこと」
「やめろぉぉぉ!! バグタイプって分類やめろ!!」
だが、そんな会話をよそに──
映像のログは、さらに“未来の映像”を映し始めた。
「……これ、なに?」
そこに映っていたのは──
《せれす亭》が、パンでできた城の上に着地している場面。
「パンの城!?!?!?」
アロマがごく自然に言った。
「……これは、“もし世界が焼きそばパンに支配された未来”のログです」
「おいやめろおおおお!!!未来でパンが王になってんじゃねーか!!!」
ラドリウスが、真剣な顔でカグラを見る。
「──やはり、君の存在は危険だ。
だが同時に、“未来を救う鍵”でもあるのかもしれない」
カグラは、真顔で答えた。
「未来より、俺は……明日の朝ごはんのほうが心配なんだけど」
「ブレないなああああああ!!!!」
──未来の映像ログ。
パンの城、空を舞う焼きそばドラゴン、
そして玉座に座る謎の人物──
「……俺じゃん!!!!!!」
「うわっ、玉座のやつカグラそっくりじゃん!!」
ミルミが大喜びで指差す。
「っていうか俺、王冠に焼きそば乗せてんだけど!?」
「新しいファッションだねっ♪」
「軽いな!!!」
セリスティアは少し考え込んだ後、小声で言う。
「……この未来が“確定”じゃないとしても、
今の世界に与えている“干渉”は、確実に大きくなってるわね」
「うう……なんか俺、どんどん人間じゃなくなってる気がするんだけど……」
ラドリウスがカグラの肩に手を置く。
「安心しろ。君は……少なくとも、焼きそばパンの化身ではない」
「そのフォローいる!?!?!?」
ミルミが突然、パンを掲げて叫ぶ。
「じゃあ私、宣言するねっ!!」
「カグラが何になっても、私たちの“保護者”であることには変わりません!!」
「お前の保護者じゃねぇぇぇぇぇ!!」
セリスティアが静かにカグラを見つめる。
「……あなたが“何であろうと”、私はきっと──
また、“守りたい”って思うわ。……それが、運命を歪める力でも」
「重っ!! ちょっと感動的になりかけたけど重っ!!」
「いい話だったねぇ」(ミルミ)
「もう締めに入ってんじゃん!!」
アロマがさらっと言う。
「……なお、パンの未来は依然としてバグっています」
「知ってるううううう!!!!」
──そのとき。
“ピリリ……”と、再びカグラの魔導端末が震えた。
【通知:新たな観測不能領域の出現を確認】
【位置:王国・第七観測塔──“パン販売機前”】
「なんでまたパン関係からかよ!!!」
セリスティアがキリッとした顔で言った。
「……行きましょう、カグラ。
今度は、パンの未来を守る旅よ」
「どんな旅だよ!!!」
ミルミが跳ねながらついてくる。
「たのしみ〜! 旅先でも、いっぱい焼こうね!」
「何を!?」
「パン!!」
「やっぱりかああああああ!!!」
──こうしてカグラたちは、また一歩“わけのわからない運命”へと足を踏み出していく。
焼きそばパンを片手に。
お疲れ様でした!
焼きそばパンがまさかここまで引っ張るとは、作者自身も予想してませんでしたが、
いったんこのへんでパンは“完食”ということで、次回からは少し世界を広げていきます!
ついに登場、新キャラ(男)──
この物語の新たな“異分子”となる彼は、カグラとどう絡むのか!?
次回:『その男、世界に意味を問う』(仮)
焼きそばパンは一旦おあずけ。次もお楽しみに!




