(ジョニー・ビー・バッド)5
ヘルハウドを狩ることになった。
パーティがこれまでの知恵を出し合った。
喧々諤々と。
生憎、僕とアレックスは蚊帳の外。
それはそうだ。
こういう場合は専門家に任せるもの、そう、アレックスが言い切った。
時間は限られているので、即席で段取りが組み上がった。
それに従い、僕とアレックスは近場の岩場に身を伏せた。
ここなら障害物は凸凹の大岩小岩のみ。
木々や藪がないのは助かる。
火災の心配なく雷魔法を放つ事ができる。
付き添いはBランクのシモン。
非常時は彼が僕達をパリアで守ってくれるそうだ。
その彼が僕達に魔法杖を見せた。
「バリアが破られても安心して下さい。
これでも割と強いんですよ」
ヘルハウンドを誘い込むのはAランクのアンドレと、
同じくAランクのマチュウの二名。
マチュウの探知でヘルハウンドに近付き、
アンドレが弓でヘルハウンドを狙う。
アンドレは風魔法使いなので、遠射が出来る。
しかし、今回はヘルハウンドを無傷に近い形で狩りたい。
そこで、未遂に終わらせ、ヘルハウンドの怒りを引き出す。
ジョニーは《サーチ》と《マップ》を重ね掛けした。
マップの色鮮やかな3D地図上に、アンドレとマチュウが表示された。
二名はヘルハウンドの番の居る方へするすると接近して行く。
二名共に身体強化は得意だそうだが、
ヘルハウンドに魔力を気付かれては拙いので、今は控えるそうだ。
その技量ゆえか、ヘルハウンドには気付かれていない。
射程距離内なのだろう。
二名の足が止まった。
まだヘルハウンドは気付いていない。
大樹海の強者の驕りなのか、余裕なのか、それは知らない。
アンドレとマチュウが消えた方向から怒号が聞こえた。
遠射で怒りを誘発したようだ。
同時に二名が身体強化を起動した。
全力でヘルハウンドから遠ざかった。
こちらへ向かって来た。
それをヘルハウンドが逃す筈がない。
透かさず追って来た。
人族の身体強化された走りと、ヘルハウンドの怒りの追跡。
驚くほどの速さで二名が姿を表した。
二名の背中に迫ろうとする速度のヘルハウンドの番。
ジョニーは予定通り、手近の大岩に上がった。
隣には護衛のアレックス。
彼は大きな盾を手にしていた。
大岩の下ではシモンが魔法杖を構えた。
ジョニーにとっては初めて目にするヘルハウンド。
思わずビビリそうになった。
そこへアレックス。
「ただの犬っころですよ」
ジョニーの背中に手を当てた。
ヘルハウンドは犬の種から枝分かれした魔物。
ブルドッグを更に凶暴にした顔で、目は赤く、体毛は黒一色。
体長は2メートルほど。
俊足にして、全身を覆う剛毛は矢も剣も、攻撃魔法も弾き返す。
火魔法のブレスフレイムを放つから厄介な魔物だ。
とてもただの犬っころには思えない。
暴力の塊そのものだろう。
口の端から涎を垂れ流しながら突っ込んで来る。
速い。
まるで低空飛行しているように見えた。
それを目の当りにしながら、ジョニーは大きく呼吸した。
背中に押し当てられたアレックスの手が心強い。
剣帯から短剣を抜いた。
短剣は最後の砦。
雷魔法に見せかけて、《電撃》を起動した。
ピリピリ。
ピリンピリン。
ビリビリ。
ビリンビリン。
威力を調整するがその塩梅が難しい。
強過ぎるとヘルハウンドを灰にしてしまう。
それは何としても避けたい。
囮になった二名が大岩の陰に回り込んだ。
「「頼んだぞ」」
ヘルハウドの番が手前で足を止めた。
互いに顔を見合わせた。
ジョニーの魔力起動に気付いた様子。
けれど逃げるでなく、いつでも飛び掛かれる体勢をとった
そして威嚇して吼えた。
超低音を響かせ、ジロリとジョニーを睨み付けた。
ジョニーは《電撃》を放った。
威力はビリビリ。
イメージしたのは牢獄。
前後左右に鉄格子、上にも鉄格子、下は岩のまま。
電撃の鉄格子を構築した。
鉄格子を電撃が、その威力を見せつけるように走っていた。
ヘルハウンドは戸惑っていた。
ヘルハウンドそのものへの攻撃ではなく、
その周囲への魔法行使であったからだ。
終わると逃さぬように包囲されていた。
自身への攻撃であれば対処したであろうが、
終わってから包囲された事に気付いた。
怒りがこみ上げ、前の鉄格子を破ろうと突進した。
体当たり。
身体が触れた瞬間、電撃が弾けた。
が破れない。
ヘルハウンドは体当たりが駄目だと知ると足下の岩を砕こうとした。
蹴りで削って行く。
それを見てジョニーは次の段階へ進んだ。
牢獄の足下に鉄格子を敷いた。
効果覿面、ヘルハウンドが唸りながら踊り出した。
四つ足で奇妙なステップ、ステップ。
足下のビリビリに耐えられないのだろう。
ジョニーはそれだけでは終わらせない。
牢獄をしだいに狭めて行く。
そして鉄格子を変化させ、太い網目にして番の全身を押し包む。
これに合わせた訳ではなかろうが、
番が断末魔を思わせる長い悲鳴を上げた。
これ以上は耐え切れないのだろう。
ジョニーは《サーチ》と《マップ》の重ね掛けは解除していない。
《電撃》とは別に維持していた。
3D地図を応用して、それを3D映像として番の体内を視ていた。
視た様子から頃合いは良しと判断した。
片手を大きく上げて合図した。
岩場の左右の端に潜んでいた二名が立ち上がった。
右からはSランクのモーリス。
左からはBランクのデビット。
共に身体強化で岩場を駆けて来た。
モーリスは右の番の傍らに来ると、
剣帯のポシェット型アイテムバッグから槍を取り出して構えた。
デビットは左の番の傍ら。
同じくポシェット型アイテムバッグから、これまた槍を取り出して構えた。
モーリスとデビットはジョニーを見返した。
二名の視線を受け取ったジョニーは、それを準備完了と解釈した。
上にあげた手を大きく右へ動かす。
円を描くようにして、上から右、右から下、下から左、
そして左から再び上。
上に来たと同時に、番の足下以外の《電撃》を解除した。
ジョニーの合図を受けてモーリスとデビットが行動した。
最後の仕上げ。
どんなに頑強な剛毛に覆われていても、身体には穴が存在した。
パーティメンバーがその穴の箇所を挙げた。
「尻の穴だろう」
「いやいや、耳の穴」
「目でええんじゃないか」
「鼻もあるでよ」
Bランクのシモンが結論を述べた。
「尻の穴だと拙い。
内蔵を傷付ける。
魔卵だと最悪じゃないか。
目や鼻を狙うとすると、真正面に立つことになる」




