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第一章 Vol2.07 天然さんは最強伝説?

深夜のバイトも残りわずか。

片付けもほぼ終わり、俺は更衣室で松山氏と温水さんの話題になった。


彼によると、世界の新生物を教えているのは一人だけではないらしい。

20歳を迎えてもなお、温水さんの疑いを知らないピュアな心に、バイトを含む従業員一同、驚きと哀れみ、そしてどこか羨望の眼差しを向けているのだとか。


――先ほども、温水さんから話しかけられた内容は……


「ねぇねぇ瀬上くん、お砂糖って白砂糖と黒砂糖のサトウキビがあるって知ってた?」


「なんかねぇ、黒砂糖のサトウキビを切るとね、黒いベタベタしたのが出てきて……白砂糖のサトウキビって白いサラサラしたのが出てくるんだって。そして高いグラニュー糖?のサトウキビは、サラサラ〜ってグラニュー糖が出てくるんだって。」


「自然ってすごいよねぇ」


……絶対サンタクロースがいるって信じてるタイプだ、この人。


その破壊力抜群のトークに、俺の頭上の見えないHPゲージがゴリゴリ削られていくのを感じていた。


実は温水さん、こんな天然エピソードもある。


先日、バイト先の休憩室で誰かが「コーヒー飲む?」と聞くと、彼女は真顔で「えっ、豆が入ってるから動物のエサかと思ってた」と返したのだ。


当然みんな爆笑。


コーヒー豆を本物の豆(動物の餌)だと思い込むその純粋さは、もはや天然の域を超えていた。


また、別の日には「電車のトンネルって地面の中を走ってるの?」と真剣に質問してきたり、


「トマトは果物? 野菜?」で延々と迷い続けたり。


誰もが心底ほっこりする彼女の天然エピソードは、バイト仲間の中で小さな伝説になっている。


着替えも終わり、顔認証PCの前に立つ。

最新のシステムだが、時々顔認証がうまくいかず再試行する羽目になるのが玉にキズだ。


俺の顔を画面に向けると、しばらく考え込むように処理が止まる。


「はやく認証してくれよ……」


心の中で念じながら、松山氏が横で話しかけてきた。


「あっそうそう、神先輩の作ったロト予想AIって覚えてっか?」


「――――あぁ、ありましたねそんなの。なんか目の前で、チャカチャカ作ったやつでしょ?」


昨年のクリスマス時期、学食で宝くじだ競馬・競輪だと、バイト仲間内で年末を楽しく過ごすための金策について談義していたところ、たまたま通りかかった神先輩がルーレットの攻略方法と確率統計を用いて、過去の当選データから近いうちに出てくるであろう数字を5個ほど予想して見せたのだ。


その数字、たしか初回に3個・その次とその後でそれぞれ的中していた。


初回の当選発表日、博打大好きなバイト兵たちはあのプログラムを売ってくれと先輩に迫ったのだが……


彼曰く、


「えぇ〜、俺って法学部だよぉん? プログラムなんてのも適当に作ったやつだしぃ? マスターもコピーも残してないよん。そんなに欲しかったら作るの見てたんだから作っちゃえば? タダだし〜」


そんな話を真に受けたバイト兵は、冬休みいっぱいを予想AI作成に捧げたとか捧げなかったとか……


「でさ、みんな5個の数字絡みを買ってたけど、お前の買ってたのはどうだったの?」


そういえば何百円かで買った気がするが、そもそも当たるとは思っていなかったし、ロトくじ自体もどこかに紛れ込んで姿が見えなくなったのを思い出した。


「うぅ〜ん、無くしたんですよ……あれ」


「あらら……そのままでも買ってても200円が1000円だからなぁ。高専のバイト頭がおすそ分けだって言ってチーズバーガーを山ほど持ってきたっけ」


バイト先で俺もお相伴にあずかったのを思い出した。


ようやく顔認証が通り、画面に「お疲れ様でした」と表示された。


「駅まででいいか?」


「毎回すみません。助かります」


もう交通機関は動いておらず、コンビニで食べ物を買い食いしながら帰るつもりでいたが、松山氏の自称ベンツ(10年落ちの軽自動車でガラガラと景気よく異音のする車だが、足として出してもらうことが多いので敬意を込めてそう呼ばれている)で自宅近くまで送ってもらった。


明日はオフ日。

ひと寝入りして、ゲーム日にしよう。

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