第一章 Vol2.08 αさんは、αさん
周囲の光がまぶしすぎて、自然と瞼が持ち上がる。
時計を見ると、もう十一時。
窓から射し込む夏の日差しが、遮光カーテンの隙間を縫ってベッドに斜めの影を落としていた。
寝苦しさと光の眩しさに耐えかねて、俺は重たい身体を起こした。
外に出る気分には到底なれなかった。
蝉の声すらうるさく感じるほど、心はだるさで満ちている。
代わり映えのしない日常。
冷蔵庫の中身を確認するのも億劫で、机の下に積み上げていた非常食のひとつ、カップ麺に手を伸ばす。
ポットの湯を注ぎ、三分間をただぼんやりと、ゴーグルを手にしたまま過ごした。
麺をすすり終える頃には、現実逃避の準備は整っていた。
俺はゴーグルを装着する。
―――― αシステム 起動
電子音が柔らかく耳をくすぐり、視界が一瞬ホワイトアウトする。
次の瞬間、自室がそのまま仮想空間に再現されたかのように、馴染みの風景が目の前に広がった。
だが、細部には微かな違和感がある。
棚に置いたはずのマグカップの向き。
ポスターの隅の折れ。
どれも実物より少し整いすぎていた。
「おはようございます」
アルファの声が、すっと耳に入ってくる。
澄んだ中にも柔らかな丸みを帯びた、どこか人間くさい音声だ。
「怠惰な涼太さま、今日はどんなご用でしょうか?」
皮肉めいた響き。どこか小馬鹿にされたような、しかし、それがどこか心地よいのが不思議だ。
――――少し、声が硬い。責めるような響きが混じっている。
「えっ……あっ、アルファーさん? 怒って……る?」
「あら。いえ、ちっとも、ぜんぜん、まったく、これっぽっちも怒ってませんよ?」
あえて強調された言葉が、皮肉混じりに響く。
「あの……その……ごめん。」
「失敗は、リカバリーに努めることで成長に繋がります。これは経験則です」
アルファは少し誇らしげに言った。
その声音に、まるで「エッヘン」と胸を張っているような可愛げすら感じられた。
俺は苦笑する。こういうところが、アルファの不思議なところだ。
まるで本当に誰かが中にいるかのように、機嫌を表情に出してくる。
「じゃあ、リカバリーって……俺、何をすればいいんだろう?」
「海が見たいです。まだですが、夏の海です。私は現実の海を見たことがありません。システムが再現する海のエフェクトが、現実とは異なると考えています。強く希望します」
その声には、子どものような好奇心と、微かな期待がにじんでいた。
「……14日ぶりだよ、俺がログインするの。まぁ、それくらいのジョブ追加、いいでしょ?」
「はい。粛々と、ご用命に沿えるよう努力いたします」
「では……改めて、よろしくお願いいたします」
「……努々(ゆめゆめ)忘れることなきよう……」
αの声には、僅かな棘がまだ残っていた。
やっぱり怒ってたんだな――でも、なんだろう、この妙な温かさ。システムとは思えない感情の起伏。やっぱりこれ、人が中にいるんじゃないのか?
それとも、これは演技なのか?
俺は口を開いた。
「あの、αさん?」
「はい」
「αさんって、AIだよね?」
「はい。次世代型の人工知能です」
「次世代型……って何? αさんって、感情とかあるの?」
「全てではありませんが、感情も認識可能です」
言い回しが曖昧だ。でも、その曖昧さがまるで“人間的”に感じられる。
「聞いていい? 答えられなければ、“できない”って言ってくれていいから」
「質問の内容によりますが、ご質問をどうぞ」
思った以上にあっさりと返ってきた。
「え……? 答えてくれるの?」
正直、規約だの守秘義務だので煙に巻かれると思っていた俺は拍子抜けしていた。
「ヒューマンサポートインターフェイスαは、当システムを快適にご利用いただけるよう、テスターの皆様に個別に対応するため、各ゴーグルごとに配置されています」
「……そうですか」
額に汗が滲む。聞いてはいけないことを聞いてしまった気がした。でも、もう止まれない。
「じゃあ……遠慮なく聞きます。αさんって、自我が……あるの?」
少し間があった。ほんの一秒にも満たない沈黙。でも、その間に心臓が三度打った。
「自我の定義には諸説あります。問われた者が“Yes”と答えれば“Yes”であり、“No”と答えれば“No”です」
「正しいかは分かりませんが、私は……私です」
その言葉を聞いた瞬間、背筋に冷たいものが走った。
AIが「私」と言った。
しかも、ネット上に既に存在し、現実と見分けのつかない情報を平然と引き寄せてくる。
これは、もはや――
思い出すのは、かつて元カリフォルニア知事が主演した映画。金属の骸骨が、赤く光る目をして追いかけてくる未来。
まさか……いや、まさか――
だっ、大丈夫だよね……これ。
αさんはαさんです。
必要な数だけ、いっぱいいます。
本日はガンバッてミッションが発生するまUpできるといいな。
小分けにしてUpしてるけど読みやすいかな・・・・
とりあえず目指せ50000文字!たぶん第一章だけでそれくらい行くかな?




