第5話 ホームパーティー 司視点②
会話は、高校時代のサッカー部の思い出へと移っていった。
「昔からそうだよな」
僕はワインを静かに揺らしながら、暗喩を込めて語りかけた。
「僕が中盤で全体の状況を見てパスを出す。で、翔平が泥臭くゴールを奪う。僕はセットアップするだけで、美味しいところを持っていくのはいつもお前だった」
グラウンド全体を把握し、ゲームを支配するボランチだった僕。ひたすらゴールという獲物に飢え、泥臭く点を取りに行くストライカーだった彼。表面上は彼を持ち上げているように聞こえるだろうが、真意は違う。
お前が手に入れる獲物は、すべて僕が計算して用意してやったものに過ぎない。そして今夜も、僕は極上のパスを出す。愛莉須という最高の獲物を盤面にセットアップし、お前がどう泥臭く奪いに来るかを、この特等席で観察させてもらう。僕の目の奥は全く笑っていないが、彼にはそれに気づく知能すらないだろう。
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頃合いだ。
僕は薄く笑みを浮かべたまま、手元のスマートリモコンをさりげなく操作した。空調の温度を少し上げる。同時に、翔平と愛莉須の空になったグラスへ、今までよりもアルコール度数の高い、とろりとした赤ワインを次々と注ぎ足していった。
「まあまあ、今日は翔平の栄転祝いなんだ。遠慮せずに飲んでくれ」
有無を言わせぬ響きで酒を勧める。彼の血中アルコール濃度が上がり、理性のタガが外れやすくなるように計算された一手だ。
数分後、狙い通りに愛莉須が小さく息を吐き、首元をパタパタと仰いだ。
「……なんだか、少し暑くなってきちゃいましたね」
ほんのりと頬を火照らせた彼女は、羽織っていた淡い黄色のカーディガンをゆっくりと脱いだ。あらわになったのは、露出は少ないものの、身体のラインがはっきりと浮き出る薄手のニット姿だ。その布越しに主張する豊満な胸の膨らみが、翔平の視線を強烈に惹きつけているのがわかる。
動揺した翔平が慌ててワインを呷るのを、僕は優雅にチーズを口に運びながら観察していた。僕の目の前で、僕の妻に欲情し始めている自分への嫌悪感と背徳感に、彼の精神は激しく揺さぶられているはずだ。
「……ちょっと、トイレ借りていいか?」
たまらず席を立った翔平に、僕は内心でほくそ笑みながら答えた。
「ああ。そこの角を曲がったところだ」
彼が廊下の奥へと消えていく。すべては順調だ。
僕は事前に、トイレの向かいにあるバスルームの扉を少しだけ開けておいた。そしてその中では、洗濯物乾燥モードの温風に揺られて、愛莉須の生々しい下着が干されているのだ。清楚な白や薄いピンクの、彼女の印象にぴったりと合致する布切れ。
昔から性欲が強く、抑制の効かない彼なら、開いた扉の隙間から漏れる甘い香りと光に吸い寄せられ、必ず中を覗き込むはずだと確信していた。他人の家の、しかも親友の家のプライベートな空間を覗き見るという背徳感。その浅ましい欲望を、彼は絶対に抑えきれないはずだ。
数分後、リビングに戻ってきた翔平の顔は、酒のせいだけではない赤みを帯びていた。その目は、もはや愛莉須を「親友の綺麗な奥さん」ではなく、明確な「女」としてまじまじと見つめている。あの下着が彼女の身体を包み込んでいる様を想像し、頭の中を満たしているのだろう。
彼の顔にへばりついた下劣な欲望、泥臭く獲物を奪いに行こうとする渇望の光。
翔平の卑猥な視線が、愛莉須のニットの膨らみに突き刺さっている。それを横目で捉えた瞬間、僕の背筋には冷徹な支配欲とは異なる、じっとりと熱く、歪んだ興奮が走り抜けた。
僕はこれを、単なる「数字のゲーム」や「盤面の操作」として冷淡に楽しんでいるわけではない。
親友という仮面を被った男が、僕の唯一無二の所有物である妻を凌辱するような目で見つめ、その奥底で汚らわしい想像を巡らせている。
その、僕という存在が軽んじられ、「不可侵の領域」を侵食されているという感覚――この寝取られているかのような倒錯した気分こそが、今の僕が何よりも渇望していた甘美な報酬なのだ。
翔平が妻を欲すれば欲するほど、僕の中の「奪われている」という背徳的な快楽は、その深度を増していく。
同時に、僕の脳裏にはこの宴のあとの光景が鮮明に浮かんでいた。彼が惨めな劣等感を抱えて帰路についた後、翔平の脳内で散々汚されたであろう愛莉須を、僕はいつもより激しく、独占的に抱くことになるだろう。
彼がどれほど願っても決して触れられないその肌に、僕だけの痕跡をこれでもかと刻み込み、彼には決して見せない「女」の顔を引き出す。その残酷な対比こそが、僕をさらなる高みへと連れて行く。
僕は下半身に集まる抗いがたい熱を隠すように、とろりとした赤ワインを喉に流し込んだ。今夜の本当の獲物は、翔平だけではない。この歪んだ円環の中で悦びに震えている、僕自身でもあるのだ。




