第24話 カフェランチ 愛莉須視点①
休日の午後。表参道の喧騒から一本入った、洗練されたテラス席が並ぶ高級カフェへと向かう前、私は自宅の広大なクローゼットの前で今日の「衣装」を吟味していた。
選んだのは、袖の無い薄手の白いカッターシャツだ。そして、その下に身に着けるのは、私の清純なイメージを根底から覆すような、毒々しいほどに扇情的な漆黒のブラジャーである。
私はそれを身に纏い、書斎にいる夫、神谷司の元へと向かった。
「司さん、これ……少し露出が多すぎないかしら?」
私はわざと恥じらうように胸元を隠し、上目遣いで尋ねた。薄いカッターシャツの生地からは、黒いブラジャーの線がくっきりと透けて見えているはずだ。
「……いや、いいんじゃないかな。すごく似合っているよ」
司の理知的な瞳の奥に、暗い支配欲の炎が揺らぐのを見逃さなかった。彼は当然、許可するだろうと思っていた。自分の所有物である妻が、他の男の劣情を煽り、狂わせていく様を見るのが今の彼にとって至上の快楽なのだから。
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日当たりの良い窓際の特等席で司とコーヒーを楽しんでいると、店の入り口に少し強張った顔をした熱田翔平さんの姿が見えた。
「おー、翔平。こっちだよ」
司がいつもの完璧な笑顔で手を挙げる。
「悪い、待たせたか?」
「いや、僕らも今着いたところさ。座れよ」
翔平さんが私たちの向かいに腰を下ろした瞬間、私はふわりと彼に向けて微笑みかけた。同時に、メニューを取るふりをして少し腕を上げる。
刹那、翔平さんの視線が特急列車のように私の脇の隙間へと吸い寄せられるのを感じた。
袖のない服から覗く生々しい肌と、透けて自己主張する漆黒の下着。彼は無意識にその「脇チラ」を目で追い、ゴクリと喉を鳴らした。
この薄いシャツ越しに透けているブラの線にも、彼は強烈なエロスを感じているはずだ。
私という存在が放つ色香に当てられ、翔平さんの目に映る私の肌は、まるで神々しく発光しているように見え始めていることだろう。
周囲の洗練されたカフェの風景も、行き交う人々のざわめきも、彼の意識からは遠のいていく。徐々に現実感が喪失し、ただ目の前に鎮座する私という抗いがたい引力に、彼の魂が否応なく絡め取られていくのがわかる。
彼の狂信的な眼差しは、もはや人間の女に向けるそれではなくなってしまっているほどだ。
司はそんな翔平さんの醜態を、安全な高みから嘲笑うように会話を進めていく。
「最近はどうだ?本社の方には慣れたか?」
「まあ、なんとか。地方にいた時とは仕事のスピード感が全然違って、毎日必死だよ」
「はは、翔平らしいな。泥臭くゴールを狙うストライカーの精神、本社でも発揮してるってわけか」
司はさらに、以前購入した高級なスマートウォッチを自慢げに見せびらかし始めた。
「自分の脈拍から仕事の効率まで、すべて可視化できる。これを使い始めてから、さらに『仕事』の精度が上がった気がするよ」
自分の人生をすべて数字とデータでコントロールしているという、司の傲慢なマウンティング。しかし、翔平さんは昨夜、私から「司さんは私のことを数字やデータみたいに扱う」という相談のメッセージを受け取っている。
だからこそ、翔平さんの目には、司が冷酷で無神経な「悪魔」に映り、その隣に座る私が、支配に苦しむ「哀れな被害者」に見えているのだ。
二人の男が、お互いに見当違いの優越感を抱きながら私を奪い合っている。この滑稽で美しい構図に、私は下腹部の奥が熱く疼くのを抑えきれなかった。
司が、まるで時限爆弾のスイッチを押すように、冷徹な声で言い放った。
「最近は毎日、愛莉須と甘い生活をしていて最高だよ。夜も、彼女は僕の望む通りの反応を返してくれる」
あら。ここで仕掛けに来たようね司。
「この先、子供も多く授かりたいと思ってるんだ。僕の優秀な遺伝子を継いだ子供たちが、部屋いっぱいに走り回る。完璧な人生設計だと思わないか?」
親友の目の前で、妻との夜の生活をひけらかし、私を自分の「遺伝子を残すための器」として扱う無神経な発言。
私は完璧なタイミングで伏し目がちになり、困ったような、助けを求めるような態度を作ってうつむいた。司のモラハラに怯える、可哀想な妻の演技。
それを目の当たりにした翔平さんの身体が、ピクリと強張るのがわかった。彼は場の空気を崩さないように、必死に顔の筋肉を引きつらせて作り笑いを浮かべ、我慢して話を合わせている。この後に私が持ちかける「相談」に備えるために。
隣に座る司は、自分の言葉によって翔平さんの脳が嫉妬と劣情でドロドロに焼けていく様子を、観察して楽しんでいる。
一方で、翔平さんの心の中では、これまで司に抱いていた友情やコンプレックスが完全に崩れ去り、「自分が彼女を救い出す」という狂気じみた「略奪愛」の決意へとそろそろ姿を変えているはずだ。
私は、この重苦しくも甘美な空気をさらに掻き回すため、わざとらしく溜息をつき、スカートの中で足を組み替えた。
その瞬間、滑らかな私の内太ももがチラリと露わになる。
翔平さんの眼球が、再び私の肌へと新幹線で突き刺さした。彼の脳髄が限界を迎え、理性のタガが吹き飛ぶ音が聞こえた気がした。
彼の目にはもう、カフェのテーブルも、向かいに座る司の存在すら見えていない。彼の剥き出しの欲望が、波のように私へと押し寄せてくる。
ああ、わかるわ。翔平さんは今、脳内で私を激しく犯している。
いいわよ、私の白い足を獣のように舐め回し、この薄いカッターシャツを引き裂いて、漆黒のブラジャーを乱暴に引き剥がしなさい。そして、立ったままの私を、背後から獣のように激しく突き上げるために連結させるのよ。
彼が脳内で私を凌辱するその圧倒的な熱量が、言葉を交わさずとも私の全身を貫いていく。
司は特等席で私の胸元を凝視する翔平さんを嘲笑い、翔平さんは脳内で私をめちゃくちゃに汚しながら司を出し抜いていると錯覚している。
私を支配していると信じて疑わない二人の男が、私の足元で醜く、そして愛おしく這いずり回っている。
私は脳内で私を犯し続ける翔平さんの視線を全身で浴びながら、この神話的なまでに美しい絶望と興奮の円環の中心で、自分でも恐ろしいほどの濡れた悦びを感じていた。




