エピローグ.ウチの領地の変人公爵様
今日は公爵様がお見えになるそうだ。
なんと代替わりしてから二十年ぶりだってよ。前の公爵様はそれはいい方だったんだけどねぇ、まだ若い時分に奥方様といっしょに事故で亡くなっちまった。
いまの公爵様を見たのは、そのお葬式でのことだったかな。
おれたち平民からは遠くてよくわからなかったが、ずいぶんと妙なお顔だと思ったものだ。話に聞いていたとおりだったね。でもうつむいて肩を落とされて、とても悲しそうだった。
そのあとはさっぱり屋敷から出なくなっちまって、〝変人公爵〟なんて噂が立ったりもしたけれど、貴族様は大変だね。おれたちならそんな噂にもならないものな。
別におれはなんとも思わないよ。
村の警備はちゃんとしているし、不作のときには税を下げてくれる。町に行けば色々とめずらしいもんも流通してるし、住むにはなんの不便もねぇ。
それにな、あの公爵様、小さいころにウチのカミさん助けてくれたんだとよ。
町で悪い人攫いに連れていかれそうになってたところを、身代わりになって逃がしてくれたんだって聞いたぞ。その後すぐに人攫いたちは捕まったそうだ。
そういえば強盗や人攫いの話もとんと聞かなくなったなぁ。おれたちが子供のころよりずっと住みやすいよ。
だからおれは公爵様が屋敷から出てこなくても、悪く言おうとは思わねぇなぁ。
え? 公爵様が来た?
どれどれ……あの幌なしの馬車に乗ってる人かい?
馬鹿言うな、あれは公爵様じゃないよ。公爵様はもう四十近いはずだ。息子だろ。その隣は若奥様か。
二人とも宝石みたいにお美しいねぇ。
王都には身分違いの恋を貫くために弟に王位を譲って大人気の王子様がいるらしいが、ウチの公爵様も負けやしねぇだろ。
あぁ、変人公爵とかいろんなことを言われていたけれども、ちゃんと息子もできたんだなぁ。孫だってそのうちできるんじゃねぇか。
見ろ、あの仲睦まじそうなご様子を。こっちまであてられちまうな。ずっとお互いの手を握っていらっしゃるよ。
よかったなぁ。
公爵様のお顔は見られなかったけど、幸せそうなのは伝わってくるよ。
ウチの領内もまだまだ安泰だぜ。





