過去話
6.
思えば今まで誰かと付き合ったことはなかった。
家族もまともに居なかった。
父はどこかの組の幹部だったらしく、適当に付き合っていた愛人の1人が自分の母だった。
子供が出来たからといって母と一緒に暮らす気などは全く考えてなく、別の若い女のところへ行ったきり、母との関係は断ち切ったらしい。
おかげで自分は父の顔を見たことがない。
母は元々ホステスをしていて、自分が幼い頃に知り合った他の男と一緒になり、自分を捨てて蒸発した。
そんな自分を何の縁か拾ってくれたのが今の翁である。
その頃の翁は、表の顔は骨董屋であっが、裏の世界では始末屋として名が知られていた。
そんな翁にいろいろ育てて貰い、翁が表の世界も裏の世界も引退した際に、自分は今の店を始め、裏の始末屋の仕事を引き継いだ。
翁は今までのツテから仕事を斡旋する仲介屋として、自分のところに裏の仕事を持ってきてくれるようになった。
翁は彼女がバイトを始めてからも、彼女のいる時でもお構いなく店に来ていたが、裏の仕事の話がある時は彼女のいない時を狙って来ていた。
今日も彼女のいない時にふらりとやって来た。
「彼女とは上手くいってるのかのぅ」
「まあ、おかげさまで」
「なかなか、しっかりしたいい子じゃないか。お前さんにはもったいないくらいになぁ」
「余計なお世話ですよ。それより、今日は何の依頼ですか?」
「いや、依頼ではないのじゃよ。お前さん、この先もずっと裏の世界に首を突っ込んだまま生きていくつもりか?」
「もちろん、翁に育てて貰った恩がありますし、ご迷惑をかけないようにまだまだ努めさせていただきます」
「彼女と付き合ったままか?」
「それは、そうですが、でも彼女とはいずれ別れますよ。自分で告白しといてなんですが、自分には家庭を持ったりする気はありませんから」
「まだ、付き合い始めたばかりで何を言っとるんじゃ、お前は。若いうちは、ほれ、きちんと恋愛もしないと。儂の若い頃は…」
「あ、その話ならもう何度も聞きましたからいいですよ」
「なんじゃ、面白みのない奴め。ただ、もし彼女ときちんとした生活を送りたいなら、身の振り方はキチンと考えな。あんないい感じの子はそうそういないぞ。本気で身の振り方を考えるなら悪いようにはせん。それくらいの貸しはこの世界には作ってある」
「翁、一体何を…」
「いやいや、育てた息子には幸せになってほしいだけじゃよ。儂には自分の子はいなかったからなぁ。じゃあ、またな」




