【04】 結婚を賭けた予想勝負
六郎「遠い昔の話で恥ずかしい話なんだが。ボートレースが大好きなお嬢さんがいてな、」
『お嬢さん』と言っても30半ば過ぎ、
だが、六郎は『お嬢さん』とか『その子』と
表現していた。
金塚「この美浦市に住んでいた方ですか?」
六郎「ああ、そうだ。その子のことが好きになったけれども、隣でやっていた予想屋さんもその子が好きになり、その子に『結婚するならどっちの予想屋と結婚する?』って聞いたんだ」
金塚「ひゃーっ、聞いてる私が興奮しちゃいますね」
六郎「そしたらね『私は2人とも同じくらい好きなの』って言うんだよ」
金塚「ええーっ! それはないでしょ」
六郎「うん、俺も聞いた瞬間、まいったよ」
金塚「そりゃそうですよ」
六郎「『自分では決められないから、明日の全12レースのうち多くのレースを当てた方と結婚する』と、その子が言うんだ」
金塚「えっ! なんてことを言うんだその娘さん!」
六郎「『明日の全12レースのうち多くのレースを当てた方と結婚する』と言われたとき、俺の心臓がドキドキし、全身が熱くなり、体中の血が体内をすごいスピードでグルグル回るのを感じたんだ。血管がコースで、血がボートみたいなもんだ。ははははは」
金塚「ははははは。良くわかりませんが?」
それを聞いた六郎が軽くコケた。
六郎「体中が熱くなったよ。あの時がまさに俺の青春だった」
金塚「いいですね、『青春』」
六郎「もちろんその日の晩は眠ることができなかった。そして、一晩中夜が明けるまで、翌日のボートレース新聞を見続け、予想に没頭した。そしていよいよ俺の人生の勝負の日はやってきた」
金塚「そりゃぁ、私がその立場になったとしても同じだったと思います」
六郎「結婚となれば一生のことだし、まして好きな子だったし、どうしてもその日相手の予想屋より1レースでも多く当てたかった」
金塚「それは当然のことです」
六郎「俺の予想はいつも穴狙いが中心で、本来本命の予想などほとんどしたことがなかったんだ。しかしこのときに限って、1レース目『1ー2』、『1ー3』と、ボートレースとしては1、2着の確率が最も高いインコース買いの予想をしたんだ。ボートレースは左回りの競争だから、一番左端からスタートする1枠が、絶対に有利なことは間違いのない事実なんだよ」




