【34】 予想屋・六さんの誇り
客女「群馬県にある桐生ボートレース場は、もともと阿佐見沼という鯉の養殖池だったから、以前は水を抜いて鯉を捕らえていたこともあったのよ。多分、同じような事件が起きていたからでしょうね」
金塚「それにしても鯉とぶつかった選手にとっては、とてもつらいことですね」
客女「そうよね、八百長選手と思われ、大切なファンを失い、それ以後の出走でも罵声を浴びせられたでしょうね」
金塚「気に病みますよね」
客女「ええ、でも真面目にコツコツと走っていれば、いつか、みんなにわかってもらえる日がくるものよ」
金塚「そんなものですか?」
客女「はい、いつか必ず良いことがあるわよ。例え引退したとしてもね」
金塚「六さんは、6号艇の選手のことを恨んでなかったのですか?」
客女「あの人は、そんな人じゃないわ。恨むどころかすべてをそのまま受け入れる人だったわ。6号艇の選手にしても『引退寸前の割には、よく頑張った』と褒めていたわ。とてつもなく大きな包容力があったわ」
金塚「六さん、やっぱりすごい人だな」
客女「ただ『高い払戻金になるはずの、俺の第1予想がハズレて、お客様に申し訳ないことをした』と悔やんでいました」
金塚「『予想がハズレた』と言っても第2予想はしっかり的中していたわけだし。まさか、鯉とボートがぶつかることまで予想できないですしね」
客女「でもあの人は、予想に対しては、他のどの予想屋さんよりも厳しかったわ。最終レースは確かに当たったけれど、予想合戦の日だけで考えると、トータルではマイナス。だから自分の予想が甘かったと、自分を責めていたのよ」
金塚「そんなにですか?」
客女「ええ。よく『お客様が、一生懸命働いて稼いだ大事な金を自分に託すんだから、こんな名誉なことはねぇし、こんなに信頼してもらえて嬉しいよな。だから俺も当てて恩返しをしないと』って言ってたのよ」
金塚「そうか大切なお金を、予想屋さんの言うとおり買うんですからね」
客女「まぁ予想屋の予想を参考にして、それを少し変えて買う人も沢山いますけれどね」
金塚「まぁそうでしょうけれど」
客女「そして、いつも『ギャンブルに絶対はない!』と言い続けていました」
金塚「へぇー、そんなことを」
客女「はい。お客様に全財産を賭けられても困るし、ハズレて家庭不和になっても困るし。あくまでも余裕のあるお金でやって欲しかったんでしょうよ」
金塚「『ギャンブルに絶対はない』か。まさに鯉を轢いたのがその良い例ですよね。でも、予想としては完璧でしたね。六さんしか考えつかない『4-6』ですよ」
客女「そう言っていただいて、亡くなった六さんは、あの世で喜んでいると思いますよ」
女性が涙ぐんだ。




