【33】 処分と動かぬ証拠
金塚「あまり『即日帰郷』の意味ないじゃないですか?」
客女「いえ、大ありよ。選手にとっては減点が付き、勝率に影響するのよ」
金塚「すみません。よくわからなくて」
客女「大丈夫よ。とにかく、モーターボート競走会としては『順位変動をきたす違反』としてとらえたのね」
金塚「規律違反ですね」
客女「ええ。ファンの皆様方から、八百長行為ではないかと思われるのを防ぎ、またこのような不審行為の再発を防止するために、必ず行われる厳重な処分ね」
金塚「しかし選手本人は、不可抗力であり、納得しないのではありませんか?」
客女「その通り! 選手は納得しなかったわ。でも、他に方法がなかったのよ。いつかは選手本人も分かってくれるんじゃないかな」
金塚「そうでしょうか?」
客女「何年かかるか分からないけれど、選手もいつかは笑い話にしてくれるわよ」
金塚「そうだといいですけれど」
客女「六さんだって『鯉が俺の恋を邪魔しやがって、鯉が恋敵とは思わなかったよ。鯉もお前さんを俺に取られるのが嫌だったんだな』って笑っていたわ」
金塚「六さんらしいですね」
客女「ただ、モーターボート競走会としても、ファンの皆様や選手の不審を払拭するために、翌日、ボートレース場職員で、あの広い水面をくまなく探し、大きな魚が浮いていることを発見したのよ」
金塚「本当に魚が原因だったんだ!」
客女「そうよ。まぎれもなくあの鯉だったのよ。お腹にプロペラの傷があったらしいわ」
金塚「動かぬ証拠ですね」
客女「競走会は、すぐにマスコミにその内容を伝えたわ。各新聞が地方版に、死んだ大きな魚の写真を載せ『戸田ボートレース場で1m50センチの魚が発見された』と報じたのよ」
金塚「それだけでは、ボートレース場の来客者全員に、ボートと魚がぶつかった事は、わからないのではないですか?」
客女「ええ、お客様全員が新聞を必ず見ているわけではないし、死んだ魚の写真を見たところで、最終レースの6号艇と魚が死んだ関係はわからないわ」
金塚「それでも良いのですか?」
客女「何もしないよりは良いんじゃない。まずまちがいなく魚とボートとぶつかったとは思うけれど、ぶつかった瞬間の水中の映像があるわけじゃないし、仕方ないでしょう」
金塚「そうでしたか」




