【32】 6号艇の不審な航走
後ろで。
美南「こい?」
千歳「こい?」
客女「『こい』って『恋愛』の恋ではなくて、魚の『鯉』よ」
金塚「魚の鯉ってどういうことなんですか? 私にはさっぱりわかりません、魚の鯉と、ボートレースと、どういう関係があるのですか?」
客女「ごめんなさい、あたしの説明が下手で、ふふふふふ」
金塚「いいえ、私があたしの説明が下手で、ボートレース場に近い市役所に勤めていながらボートレースに詳しくないことがいけないんです」
客女「細かく説明をしますね」
金塚「はい、お願いします」
客女「周回の3周目、年配選手の6号艇は、全速でターンをしたのね。そのスピードから艇が水面を横滑りし、ボートはかなり岸寄りを走っていたのよ、」
金塚「なるほどよくわかります、光景が目に浮かびます」
客女「その時、水面下には相当大きな鯉、魚の鯉がいたのよ。おそらく、その大きさは1メーターを超えていたんじゃないかしら?」
金塚「1メーター!!! そんなに大きな鯉が?」
客女「鯉は水中で、大きなエンジン音を聞いて慌てて逃げたと思うのよ、ただ、逃げた方向が悪かったわ。コース中央から岸沿いにまっすぐ逃げたのでしょうね」
金塚「ふむふむ」
客女「つまり、6号艇が進行する方向と合致しちゃったのよ」
金塚「ほぉー」
客女「そして、バックストレッチ中央で、1m以上の鯉が6号艇のプロペラに巻き込まれてしまったのよ」
金塚「……」
客女「年配選手は、相当大きなものを轢いた、と感じたのでしょうね」
金塚「……」
客女「そのあまりの衝撃の大きさから、転覆した選手でも轢いてしまったのかと思い、慌ててスロットルレバー、つまりアクセルを離したのよ」
金塚「轢いたのか、」
客女「そして自分以外の他の5選手を見渡し転覆してないか目で確認したの」
金塚「なるほど」
客女「だけれど、この6号艇の不審な航走により、6号艇の選手はレースが終わるとすぐに『即日帰郷』となったわ。『即日帰郷』と言っても、もう最終日でしたけれどね。ふふふふふ」




