【31】 あの日、減速した理由(わけ)
後ろで、
美南「えーっ? 訳わかんない」
千歳「頭が混乱してきたわ」
金塚「でも、あの勝負、六さんは負けたんですよね?」
客女「そう、負けたわ。その後すぐにあたしは、勝った予想屋『光太郎』さんと結婚した」
金塚「……」
客女「でも、性格が悪く、1年で離婚した」
金塚「……」
客女「『六さん』は、それでも、何も言わずあたしの面倒を見てくれたのよ。『行く所、ないんだろう?』って」
金塚「……」
金塚はずうっと黙って、
何度も小さく頷きながら聞いていた。
客女「それから15年は、い~い人生だったぁ~」
しみじみと言った。
客女「天涯孤独同士が一緒になるっていいもんよ。お互い親とか兄弟とか、なんのしがらみも無くて」
金塚「……」
客女「籍も入れないから、気楽だった~」
金塚(だから住民票はひとりだったんだ。世帯も別々で住民登録したんだ。謎が解けた)
客女「あの人、とにかく『他人思い』だった」
金塚「……」
客女「自分はどうでもいいから、他人を優先していた。どこから来ているんでしょうね、あのやさしさは?」
金塚「そうですね」
客女「ほんとうよぉ」
金塚「六さんの話で、いまだによくわからないところがあるんですけれど、」
客女「なぁに?」
金塚「最終レースで、6号艇はなぜ突然スロットルレバーを緩めたのでしょう? いまだに不思議でなりません」
客女「あらっ、あの人言ってませんでしたか? 鯉です、鯉が邪魔をしたのよ」
金塚「恋? 恋が邪魔をした? すみません、意味が分からなくて、」




