【30】 最後のまぐれと帯封のうなぎ代
客女「だけど『俺が払わないと、誰かがもらえなくなるんだろうなぁ』って言ってたわ」
金塚「まぁ『相互扶助』って言うんですかね。払う人と、もらう人が居て釣り合いが取れている訳です」
客女「そこんところは、あたしはわからないけれど。それでね、」
金塚「はい、」
客女「たまたまでしょうけれど、人生最後のレースで」
金塚「はい、」
客女「本当に、本当に偶然当たったのよ」
金塚「やりましたね!」
客女「まぐれよ」
金塚「いやいや、実力ですよ」
客女「それで、270万円になったらしいのよ」
金塚「すごい!」
客女「国民年金保険料って、月1500円でしょう?」
金塚「まぁ、そのぐらいです」
客女「で、六郎さんが病床から『滞納していた2年分、36万円を払って来てくれ』と、六さんに頼まれてあたしが銀行で納めたわけよ」
金塚「……」
客女「あたしは『そんなのもったいない』って言ったのよ。そうしたらあたしにもお金をくれてね、」
金塚「ちなみに、どのくらい?」
客女「帯封付きで」
金塚「百万!」
客女「『うなぎでも食えよ』って言うから、『こんなに食べたら、川からうなぎがいなくなっちゃうわよ』って言ったのよ。そうしたら笑っていましたっけ」
そう言いながら、
その女性客は突然天井を向いた。
見る見るうちに女性の目に涙が溜まり
目尻から流れ出した。
金塚「お客様は、六さんと仲が良かったんですね」
客女「ぐすん。自分はもううなぎも食べられないほど弱っていたのに、あたしには『うなぎでも食えよ』って。……人にやさしい人でした」
金塚「変なことを伺いますが、」
客女「ぐすん」
金塚「六さんが結婚する女性を巡って、予想勝負をしたって話、聞いたことあります?」
客女「えっ! どうしてそれを?」
金塚「六さんが最後に、私にだけ話してくれました。お客様がご存知ってことは、ひょっとして?」
客女「それ、あたしです」




