【20】 最後の大勝負「第9レース」
お立ち台。午後2時半。
六郎がいつものように客に向かって口上を述べていた。
六郎「いやぁ、ハズレちまったな。第8レース」
六郎「アイスクリームにトッピングで梅干を乗せちゃったようなもんだよ。ガハハハハ」
六郎「こんなこと言ったって、あんた方には、わからねえよな。それぞれうまいんだけれど、相性が悪かったよな。『5―6』の舟券買って、『1―2』で走っていたら、見ていても、つまんねえもんだなぁー」
六郎「こんな予想をしちゃってすまねえーなぁ。やっぱり1号艇は、強いよ。でも、言ったとおりだったろ『できれば、このレース見送ってくれ』って。六さん、悪いことは言わねえ。ちょっとでも、みんなに儲けて帰ってもらいてえから親心で言ってんのよ」
六郎「みんなに何年もの間、支えてもらって来たから、その信頼を裏切ることは死んだって出来ねぃやな。さて、そこでだ! そこでだよ、次が、六さん、最後の大勝負だ!」
六郎「六さんからの恩返しだ。もし、次当たったら、帰って一杯やるか、残りのレースは、見るだけでいいよ。その分の多めに第9レースを買っとくれ」
六郎「いいかい。今日は、インの1号艇が強い。第1レースから、今の第8レースまで、8レース中7レースが、頭(1着)は『1』だ」
六郎「これが、魚釣りで言えば、『撒き餌』だよ。いいかい、次も『1』から売れるぞ! 『1』しか売れない! 『1』で総かぶりだ!」
六郎「しかし、しかしだよ。俺の予想は違う! 100%当たるとは言えないけれど、俺がここに立ってから一番の自信あるレースだ。しかも、オッズは予想以上に高い。これを勝負しない手はないだろう」
六郎「どうだい、お客様、買える範囲で買ってみないかい? いい夢、見たくないかい? 奥さんにうまいもの食べさせたくないかい?」
客A「俺、乗った!」
客B「大勝負、するよ」
客C「ああ、今日はこれに賭けて終わりにするわ」
客D「六さんが、そう言うんなら」
客E「六さんと心中だい」
客F「六さん、いつもと気迫が違うなぁ」
客G「ひひひっひ」
客H「9レースのトッピングは、なんだい?」
客I「早く予想が見たい!」
客J「頼むよ!」




