【10】 予期せぬ失速
金塚「1周目、第2ターンマークでは、6号艇が先にターンしたのですね」
六郎「うん。第2ターンマーク、年配の6号艇が全速でターンをしたね。大外の岸側を走行していたんで、その方が回りやすかったんだろうな。いつもやっていることだから」
金塚「1号艇は、ターンマークの近くを小回りしたのですね」
六郎「その通り」
金塚「1号艇が小回りをして6号艇に追いつくということはないのですか?」
六郎「ないということはないが、そのときは6号艇が先に回りその引き波に1号艇が乗ってしまい、その差は縮まるどころか開いてしまったよ」
金塚「1号艇は、6号艇の走った波にぶつかって失速したということですね」
六郎「そうだ」
後ろで、
千歳「やったー!」
右手で拳を作り肘から折り曲げ小さく気づかれないようにガッツポーズを作った。
六郎「レースは、そのまま4号艇6号艇1号艇の順で、2周目に入った。第1ターンマークを4号艇が回り、次に6号艇が全速ターンでスロットルレバーを放すことなく回った」
金塚「うんうん」
金塚は『スロットルレバー』がわからなかったが、話の腰を折らないように頷いた。
六郎「2周目の第2ターンマーク、6号艇は一番自信のあるターンである全速ターンで抜かれないように最良策をとった」
金塚「ボートレースは、何周するんですか?」
六郎「3周。コースの右と左にターンマークがあって、そこをグルグル3周すればゴールだ」
金塚「じゃあ、あと1周だ」
六郎「うん」
金塚「『スロットルレバー』って?」
六郎「アクセル」
金塚「それで?」
六郎「その時、2番手の6号艇と3番手の1号艇との差は約5m」
金塚「5mかぁ」
六郎「3周目の第1ターンマークを周り、向こう正面、2番手6号艇のボートは、水面を滑るように大外の岸にある消波装置の側を全速で直線を走っていた。後方内側からは力量のあるベテランの1号艇がそのまま5mの差で直線を全速で走っていた」
金塚「うんうん」
六郎「その時だった。突然6号艇は、左手のスロットルレバー(アクセル)を離して、前傾姿勢から体を垂直に起こした」
金塚「なんで、なんで?」
六郎「当然、舟は失速して、あっという間に内側3番手を走る1号艇に抜かれてしまった」




