ダリアにかけられた呪いとトーアの浄化
ミラがおもむろに口を開いた。
ミラ『待て。ちょっと整理させてくれ。
①お前たちはティルケ国の暗殺団。
②ティルケ国の暗殺者たちは普通の人間。
③王子ティラが、天使を殺して奪った秘技を持っている。
それは、羽の生えた生き物を呼ぶことができる技で、
ティルケ国の暗殺者たちはそいつに乗って天界に送り込まれたことがある。
④天界に、暗殺者を送り込むように依頼した者は人間じゃない。
これで合ってるか?』
ダリア『合っているわよ‥‥』
ミラ『ティラに、誰を殺すように言われて俺たちの前に現れた?』
ダリア『ソフィアとアレヌスを殺すように言われたわ。』
ミラ『なぜだ?』
ダリア『理由なんか知らない。
その精霊も言ってたでしょ。
アタシたちはティルケ国の暗殺者だもの。
王族の命令にただ従うだけよ‥‥
あ、《依頼者》って他人事のように言ったのは‥‥
ティルケ国は表面上、普通の国家として存在してるからよ。
暗殺者を育成していることは、極秘裏のことだから。』
ダリアは寂しそうな顔をして、
ミラたちに打ち明ける。
ダリアに針を刺されたニゲルが、
ゆっくりと立ち上がった。
ソフィア『ニゲル!!!平気?!』
ソフィアはニゲルに駆け寄った。
ニゲル『ソフィア様。ご心配いただき恐縮です。』
ニゲルは敬礼してソフィアに言った。
そして、ダリアの方を向いて怒声を浴びせる。
ニゲル『途中から話は聞いていたぞ!!!
ソフィア様とアレヌス様を殺そうとするなど!!!
とんでもない女だ!!!!!』
ダリアは心を凍らせたように、
真顔のまま一点を見つめていた。
さっき、ニゲルにオッサンと言い放った少女と
同じ人間だとは思えないほどだ。
ダリア『実績をあげれば天界に行けるチャンスが巡ってくるかもしれなかったから‥‥』
ダリアはか細い声を出した。
ミラ『なんでお前は天界に行きたいんだよ?』
ダリアはミラの言葉を聞いて、
瞳に涙をいっぱい溜めた。
ダリア『助けてくれた天使の男の子がいたの。
そしてね、その子がくれた水‥‥
天界にある水!!!
それで、アタシの‥‥えっと‥‥
大切な誰か‥‥が元気になった気がして‥‥』
急にダリアは吃り出した。
その変化に驚き、
全員ダリアを一斉に見つめた。
ミラ『大丈夫か?』
ミラはダリアに問いかける。
ダリアは優しい笑顔で頷いて見せた。
ダリア『アタシね‥‥
ティルケ国出身じゃないの。
幼い頃‥‥別の場所にいて‥‥
だけど‥‥‥
よく思い出せなくて‥‥
それに、私が天界に行きたかった理由‥‥
みんなに話そうとしたら急に忘れちゃった‥‥‥
なんで?』
ダリアは戸惑いを滲ませながら打ち明ける。
それを聞いたトーアがダリアに近づいた。
トーア『君も不思議な魔力を使っているんだね。
だからさっき、透視しても見えないことがあった。
ちょっと外してくれるかい。』
トーアの言葉を聞いて、
ダリアは魔力を完全に無効化したようだ。
トーア『僕の目を 見つめてくれるかい?』
ダリアは、トーアの天体のような目を見つめる。
トーアの薄紫と薄青の美しい瞳が
ダリアの目を捉えたまま離さない。
ダリア『あ‥‥ちょ‥‥
眩し‥‥‥待って‥‥』
ダリアは目眩を起こしたようだ。
フラッとその場に倒れ込む。
トーア『おっと。』
トーアがダリアを抱えた。
トーア『大丈夫かい?』
トーアの言葉に、ダリアは薄っすらと目を開ける。
ダリア『平気‥‥‥』
ダリアの顔色は、とても悪くなっていた。
ソフィア『トーア!!!
ダリアはどうしたの?!』
ソフィアは心配そうに声を上げる。
トーア『呪いがかけられてるよ。頭の中に。』
ソフィア『なんですって!?!?』
トーア『レティアちゃんにかけられてる呪縛とはちょっと違くて
僕にも解けそうな呪いだな。
これで過去の記憶を消されているみたいだ。』
ダリアは、自嘲気味に笑った。
ダリア『やっぱりアタシ‥‥
ティルケ国に利用されていたんだろうなぁ。』
ダリアは呟く。
あたりが しんと静まり返った。
少しの沈黙の後、ダリアは再び口を開いた。
ダリア『ティルケ国の暗殺者たちはさ、
任務に失敗したら殺されるんだ。』
全員目を見開き、顔を見合わせる。
ダリア『捨て駒なんだよ。アタシたち。』
ダリアは ハッ‥と笑った。
その声には 悲しみが滲んでいた。
トーア『ちょっと呪いを解くよ。
ダリアちゃん、辛いかもしれないけど
僕の目を見つめていてね。』
トーアは目に 膨大な魔力を込める。
透明すぎてクラクラするような純白なオーラが
ダリアを包み込む。
ダリア『ああっ!!!
苦しいッ!!!
痛いッ!!!やめてッ!!!』
ダリアは地面に寝転びながら暴れている。
ニゲル『おい女!!!しっかりしろ!!』
ニゲルは 女の苦しみに弱いようで
ワタワタとあわてている。
トーア『もう少しさ。』
トーアは更に強い神聖な魔力を込めた。
ダリア『ああああああっ!!!!!』
ダリアは絶叫した。
ダリアの側へ、
ソフィア、レティア、ニゲルが駆け寄った。
マルメロとミラは馬車の前に立ちはだかり、辺りを警戒しながら、アレヌスを守っている。
ダリアを包み込むオーラが消え去ったのを見て、
トーアは言った。
トーア『終わったよ。』
ダリアは目をパチリと開けて立ち上がる。
ダリア『‥‥‥‥ありがと。』
ダリアは凛とした顔をして、トーアにお礼を言った。
まるで全ての迷いが消え去ったように。
ダリア『全部ぜんぶ、
思い出した。』
ダリアははっきりと言い放つ。
その表情には怒りすら感じられた。
ダリア『天使様もいるし
助けてくれたから
思い出したこと全部話す。
でもその前に教えて。
なんでアタシを助けたの?
ソフィアとアレヌスを殺そうとしたのよ。』
信じられないものを見るように、
ダリアは全員の顔を見た。
トーア『助けてって言ったのは君じゃないか。
天使だったレティアちゃんを見て。』
ダリア『だとして!!
アタシはそのおっさんを気絶させたわ!!』
トーア『殺さなかったじゃないか。』
ダリア『標的じゃなかったからッ‥‥!!』
トーア『ううん。魔力を完全に無効化した、
君の目を見つめた時、視えたよ。
【‥‥自分と同じくらいの歳の男女がいる。
そしてアレヌスは10歳くらいの男の子。
殺したくない‥‥】
って。』
トーアの言葉に、ソフィアたちは静かにダリアを見つめた。
ダリアはビクッと肩を震わせる。
彼女の勝ち気に見える態度は、
自分の心の迷いを消すための
鎧だったのだろう。
ダリアは、ぽつりぽつりと
過去を話し始めた。




