ソフィアの実弟、アレヌスの存在
すっかり夜になった。
ヘレボルスの夜空は星がとても綺麗だ。
ソフィア『もう城もほとんど完成したわね。』
ソフィアはほとんど再建された城を見てつぶやいた。
ディセントラが好き勝手していた頃と違い、
新しい城はだいぶ質素な建物になった。
ソフィアは
【民達が豊かでないのに、華美な城などいらない】
と言って、
必要最低限の造りにしたのだった。
もちろん耐久性は良いのだが。
ニゲル『国の建て直しに忙しくて、
ソフィア様の戴冠式も何も行っていませんでしたね。』
ソフィアはそれを聞いて、目を閉じてそっと口を開いた。
ソフィア『そんなもの‥‥‥
必要ないわ。』
ソフィアは目を開くと、
ミラとレティアに向き直した。
ソフィア『ミラの薬草の知識のおかげで、民達の間で流行した病が終息したわ。
今や、ミラを見ると、
ヘレボルスの民達は笑顔になるものね。
あなたのその博識で、沢山の命が救われて‥‥‥。』
ありがとう、とソフィアは言う。
ソフィア『レティア。
あなたがいなければ精霊の国は滅びて
神聖なるヘレボルスはディセントラに乗っ取られていた。
マルメロも死ぬところだった。
ありがとう。レティア‥‥‥』
レティアとミラは顔を見合わせて笑った。
ソフィア『ねえ‥‥‥ニゲル。
あなたにも話していないことがあったわね。』
ソフィアはそう言うと、皆に背を向けて歩き出した。
ニゲル『ソフィア様、どこへ?』
ソフィア『着いてきてくれる?』
ソフィアは振り向いて優しい笑みを浮かべた。
皆はソフィアの後をついて行った。
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ヘレボルスのはずれまで ソフィアは歩いた。
ニゲル『ソフィア様?こんなところに何か‥‥』
ニゲルが言いかけたところで、
こぢんまりした小屋のような建物が目の前に現れた。
ニゲル『ここは‥‥?』
ソフィアは笑みを浮かべながら
小屋をノックする。
ソフィア『じいや!!じいや!!』
ソフィアは無邪気な子供のように誰かを呼ぶと、
小屋の中からバタバタと急ぐ足音が聞こえてきた。
ガチャッとドアが開くと、
60代半ばくらいの男性が立っていた。
シワひとつないスーツを纏っている。
じいや『ソフィア様!!』
じいやと呼ばれる男性は、
ソフィアを見ると目を見開いた。
ソフィア『じいや‥‥‥!』
ソフィアはじいやに抱きつくと
じいやはオロオロしながらも目を細めた。
じいや『お待ちしておりました。』
ニゲル『ソフィア様‥‥このお方は‥‥』
ソフィア『じいや‥‥
母、カトレアが若い頃から仕えてくれていた方よ。
私も生まれた時からじいやにお世話になっていたの。
国王も信頼していたわ。』
ソフィアは遠い目をして言った。
ソフィア『母が死んでから、じいやはここに住むようになった。
裏で私たちをたくさん助けてくれたのよ。』
ニゲル『そんなことが‥‥‥!』
ニゲルは驚きの表情を浮かべる。
じいや『アレヌス様、ですね。』
じいやはそう言うと、ソフィアは真剣な顔をして頷いた。
ニゲル『アレヌス様‥‥?』
ソフィア『‥‥‥実は、
国王と母の間に、
もう一人子供がいたの。』
ニゲル『なんですと!?!?』
ニゲルは叫ぶように言った。
ソフィア『幸いなことに‥‥
ディセントラは気に入らないことがあると
国王に泣きつき、母と私を幽閉させた。
そして母は、剣士としてこっそり鍛えていたおかげか、
お腹がほとんど目立たなかった。
だから母の妊娠には気づかれず、
お腹の子が狙われることはなかった。』
ニゲル『そ、そ、そ、そんなことが!?!?』
ソフィアは頷く。
ソフィア『流石に、出産は隠せなかったわ‥‥‥。』
ソフィアの発言に、レティアが口を開く。
レティア『そりゃそうよね‥‥。
でも‥‥どうやって乗り越えたの?』
ソフィア『じいやにも協力してもらってね。
無事に産まれた弟は、
出産中に亡くなったことにした。』
全員は驚愕する。
ソフィア『当時の王妃は母よ。
王妃が産んだ男児は、後継者となる。
ディセントラに弟の命を狙われるのは明白だった。
だから母はじいやに
母の故郷、マグオートでアレヌスを育てるように頼んだ。
じいやの一家は、皆マグオートに仕えてくれていた。
だからそこでアレヌスはのびのびと育っているの。』
ソフィアは遠い目をしていった。
じいやはソフィアの言葉に静かに頷いた。
ニゲル『そんなことが‥‥あったなど!!!』
ニゲルは驚きを隠せないようだ。
ソフィア『あまり人に知られると
どこでアレヌスの存在がバレるかわからない。
だから‥‥ほとんどの人は知らないの。』
ごめんなさい、とソフィアはニゲルに言った。
ソフィア『私、女王になって、此処に留まるつもりはないわ。』
ソフィアの発言に、ニゲルは目を見開く。
ニゲル『ソフィア様!!
ですが、ラインハルト様があなた様に王位継承したのですよ!!』
ソフィア『そうね‥‥
だけど‥‥‥』
ソフィアはつぶやいた。
ソフィア『私‥‥
強くなりたいわ。
もう2度と、ヘレボルスを
何者かに乗っ取られないためにも‥‥』
ソフィアの声は震えていた。
ソフィア『親友を亡くしたわ。
父やラヴィエによって‥‥。
それに多くの罪のない民達も‥‥
ディセントラによって‥‥。
ご遺族は、私の顔など見たくないでしょう。』
ソフィアは静かに言う。
ニゲル『ですがソフィア様は何も悪くないのです!!』
ソフィア『‥‥私が何もしていなくても、
愛する者を殺された側から見たら
私は加害者の娘。
‥‥‥。そこに言い訳など要らないのよ。
これが事実なんだもの。』
ソフィアの背中は高貴で、孤高で
だけどひどく寂しく見えた。
ソフィア『マグオートで何も知らず育った、
本来なら第一後継者であるアレヌスが
国王になるのが適任だわ。』
ニゲル『アレヌス様も急にそんなお話では受け入れられないのではありませんか!?』
じいやは口を開く。
じいや『心配ございません。
アレヌス様にはしっかりと
王子としての教育がなされておりますゆえ。
それに出自のことも、伝え申しておりますよ。』
じいやの言葉に、ニゲルは目を見開く。
ソフィア『ねえ、レティア。ミラ。
明日、一緒にマグオートへ来てくれない?
そして‥‥アレヌスが即位したら‥‥
私も二人の旅について行ってもいい?』
突然の申し出に、
レティアもミラも顔を見合わせる。
レティア『私はもちろん嬉しいけど、
高貴な身分で、大丈夫なの!?』
ニゲル『ソフィア様!!なりませぬぞ!!!』
ニゲルは怒声に近い声を浴びせる。
ソフィア『私の意思は変わらないわ。』
ソフィアはニゲルに言い放つ。
ソフィア『私も、今回の件で知りたくなった。
誰が、なぜ、
暗躍しているのかを。
レティアの復讐に協力させて。
きっと力になるわ。』
ミラとレティアは笑顔で頷いた。
じいや『マグオートまでは遠い。
明日、馬を用意いたしましょう。
皆様長い旅路となりますゆえ
今日はゆっくりお休みください。』
明日、レティアたちは
ソフィアの母、カトレアの故郷
マグオートへ向かうことになった。




