職務怠慢
アウロ筆頭に
ラナンとレティアは走り続けている。
アウロは後ろを振り向く。
アウロ『レティア!!遅れているぞ!!
まだ開始10分だ!!
その調子でどうする!!』
それを聞いてラナンも振り向く。
レティア『ぜえ‥はぁ‥ぜぇ‥はぁ‥
もう‥無理‥っ‥』
アウロのすぐ後ろを ラナンは走っている。
レティアはというと、
ラナンと2メートルくらい離れた距離で走っていた。
ラナン『大丈夫かーっ!』
ラナンはレティアに向かって叫ぶ。
レティア『無理ーっ‥!!!』
レティアは息も絶え絶えに
ラナンに向かって叫び返す。
アウロ『致し方ない。
ラナン、少しペースを落とすぞ。』
ラナン『はい!』
アウロは先ほどよりだいぶゆっくりと走り出した。
アウロ『レティア!!今回は特別だ!!
歩くようにゆっくりと走ってやる!!
ラナンのすぐ後ろをついてこい!!』
アウロは叫ぶ。
レティア『というか‥っ
これがゆっくりって‥
どういうことなのよっ‥
はぁ‥はぁ‥』
レティアは嘆くように言葉を捻り出した。
2人に追いつくかと思ったが、全然追い付かない。
アウロ『それでは、人間界はおろか
もしも天界に魔界からの刺客でも現れたら
すぐにやられてしまうぞーっ!!!』
アウロはレティアに向かって声を上げた。
レティア『2人とも‥背が高いからでしょーっ!!
私は!!背が!高くないから!!
足が短いのっ!!!
追いつけないわよーっ!!』
レティアはアウロに対しての敬語も忘れ
開き直った態度で喚いた。
アウロ『全く。
喚く元気はあるのに追いつけないのか。』
ラナン『はは。
アウロ様は走るの速いですからね。』
アウロ『お前も随分と速くなったぞ。ラナン。
あとは体力をもっとつければ
他に言うことはない。
持久力についてはな。』
レティアの距離は縮まらぬまま
時間が過ぎていった。
ー2時間後ー
レティア『ぜえ‥‥‥はぁ‥‥‥
ぜえ‥‥‥はぁ‥‥』
レティアは息も絶え絶えだった。
もはや何も考えられないほどに。
アウロとラナンは常に一定のペースで走り続けている。
レティアは、もはや2人の姿が
よく見えないほどの距離があった。
レティア『水‥‥水‥‥‥』
レティアは喉がカラカラだった。
しかし、アウロに伝えられないほど
遥か後ろを走っており、
とにかく2人を見失わないように
足を動かし続ける他なかった。
ー3時間45分が経った頃ー
アウロ『もうすぐ8時だ。
持久走も終わりだぞ!』
ラナンはそれを聞いて振り向いた。
ラナン『アウロ様!レティアの姿が見えません!』
アウロ『何!?』
アウロは振り向いた。
確かに後ろにレティアの姿がなかった。
ラナン『5分前までは、遠くの方で走っている姿を確認できたのですが‥』
アウロ『引き返すぞ。』
ラナン『はい!』
アウロとラナンはレティアを探すために
来た道を引き返した。
アウロとラナンはレティアを探す。
するとラナンが仰向けに倒れているレティアを見つけた。
ラナン『レティア!!!
大丈夫か!!??』
アウロ『!!!!』
2人はレティアに近づく。
レティアは痙攣していた。
アウロ『脱水症状を起こしている!
あの水は持ってこなかったのか!?』
ラナン『はっ‥!伝えるのを忘れていた‥!』
ラナンは顔面蒼白になった。
アウロ『俺が伝えていなかったのが悪かった‥!
てっきり知っているのかと‥!』
アウロはレティアの上体を起こし、
水を取り出し
レティアに飲ませた。
そして魔力を使い
レティアの体を回復させたのだ。
レティア『ん‥』
レティアは パチリと目を開けた。
アウロ『レティア!!大丈夫か!!
すまなかった!!俺があの水を持ってくるように言わなかった!!』
アウロはいまにも泣き出しそうに
レティアに言った。
レティア『あれ‥‥私‥‥』
ラナン『ごめんな!!
脱水症状起こして倒れてたんだ。
天界の北にある、聖なる玉泉で水をもらったことあるよな‥?』
レティア『なにそれ‥ないわ‥』
アウロとラナンは驚き顔を合わせた
ラナン『知らないのか!?
ごめん‥俺がちゃんと教えるべきだった。
修行に行く前、毎回そこで水をもらって来てくれ。
明日は俺がついていくからさ。』
アウロ『本当にすまない。
師匠である俺が伝えるべきことだった。
知っていると思って確認を怠った俺の責任だ。』
レティアはなんのことだかよくわかっていないが
とりあえず倒れたことだけはわかった。
レティア『お二方に迷惑かけてごめんなさい‥』
アウロ『いや。レティアは悪くない。
俺が悪いんだ。』
ラナン『普段飲んでる水とは違って、
聖なる玉泉の水は、魔力が込められているんだ。
飲んだ時に 体に足りていない成分を
補ってくれる不思議な水なんだ。
ごめんな。大変な思いさせた。』
レティア『‥‥ちがうわ‥私が無知だっただけ‥。
ごめんなさい。
修行の続きを‥』
レティアは立ち上がった。
アウロ『今日はこれで切り上げよう。
ラナン。聖なる玉泉に行って
色々教えてあげてくれ。
それが終わって
朝食後には
天界の掟を教えるとしよう。』
三人は天界に戻った。
レティア(私‥今まで生きてきて
一体何をしていたのかしら。
アウロ様とラナンが、
知っていて当たり前だと思うくらいの場所ですら
私は把握していない。
そうね。いつも同じ歳くらいの子達に罵られて
その親にすら冷たい目で見られていたわ。
私の居場所は、自分の部屋と、あまり他の天使たちのいない
静かな場所だったもの。
それに、位の低い私は
他の天使たちとは違って
入れる場所も限られる。
アウロ様とラナンが
知らないのかと驚くくらいだから
聖なる玉泉は、きっと位の低い天使でも
立ち入ることが許されている場所なのね。
自分が居られる場所ですら
ほとんど足を踏み入れたことがないなんて
こんな天使、きっと私だけでしょうね‥。)
三人は天界に戻る。
門を潜り抜けると、そこにはオルレアが
腕を組んで立っていた。
レティア『オルレア様‥!』
レティアが声をかけると
オルレアはレティアに笑顔を向けた。
すぐに真顔に戻り、
視線はアウロに向けられていた。
その表情から怒りを感じた。
アウロはオルレアの前で跪く。
ラナンもそれに倣って跪いた。
レティアも慌てて跪く。
オルレア『職務怠慢。
自分の犯した罪を‥‥わかっているわね。』
アウロ『はい。』
レティアは驚いた顔をしてオルレアとアウロの顔を見た。
オルレア『知っていて当然と言う慢心から、
弟子であるレティアを危険な目に晒した。
レティアは私の友である、熾天使シランの娘!
‥‥さて、お前はどう償うつもり!』
レティア『!!!!!』
レティアは驚きのあまり立ち上がる。
レティア『オルレア様!!
私が悪いのです!!私が‥!』
オルレア『レティア。』
オルレアは優しい笑みを浮かべた。
オルレア『レティアは悪くないわ。
上に立つ者には責任が伴う。
それを怠ったアウロの過ちよ。』
オルレアは鋭い目でアウロを見下ろした。
オルレア『セダム!!』
オルレアが呼ぶと、
男の天使が走ってやってきた。
どうやら能天使らしい。
アウロより位が一つ上だった。
セダムはオルレアの前までくると
跪いた。
オルレア『権天使アウロは
職務怠慢の為に弟子を危険な目に晒した。
鞭打ち3回よ。』
セダム『ははっ!』
セダムは鞭を取り出すと
ラナンとレティアに下がっているように伝える。
レティア『オルレア様!!私は大丈夫ですから!!!
私が悪いのです!!どうか‥!!』
セダム『口を慎みなさい。
位の低い天使の分際で
熾天使オルレア様に意見するなど、言語両断。』
セダムはレティアを睨みつけた。
オルレア『セダム。』
オルレアはセダムを牽制する。
オルレア『レティア。あなたの優しさはわかるわ。
だけど‥‥これが天界の掟よ。
弟子を持つ者の職務怠慢は、罰さないといけない。
アウロは私の部下。
私の部下たちの責任は、
全て私にも責任があるの。
だからこうしないといけないのよ。』
オルレアは寂しそうに眉を顰めて言った。
レティア『そう‥ですか‥‥』
レティアは下を向いた。
その横で、アウロは鞭打ちの刑を受けている。
アウロ『うぐっ‥ぐふっ‥』
レティアはその音とアウロの悲痛な声を聞いて
胸が張り裂けそうになる。
オルレア『‥あなたの母、シランも
皆の上に立つ天使。
彼女の部下がなにかミスを犯せば、
当然、罰さないといけないのよ。』
レティアは初めて知る厳しい天界の掟に
眉を曇らした。
鞭打ち3回の刑はすでに終わったようで、
オルレアはセダムに立ち去るように伝えた。
アウロの背中は赤いあざが浮かび上がっており
痛々しかった。
オルレア『アウロ。私もあなたを裁きたくないわ。
しっかりなさい。』
アウロはすぐに跪き
返事をした。
オルレアは優しい笑顔をレティアに向けて去っていった。
レティアもラナンもアウロに近づく。
レティア『アウロ様!!!大丈夫ですか!?
ごめんなさい‥私のせいで‥!!』
アウロ『っー‥。
お前のせいではない。レティア。
大丈夫だ。』
アウロは痛そうに眉を顰める。
アウロ『ラナン。聖なる玉泉に連れて行ってやれ。
それが終わり次第、天界の掟の勉強を始める。』
ラナン『わかりました。
レティア。行こう。』
ラナンの優しい微笑みに、
すこしだけ救われるような思いを抱いたレティアだった。




