翳丸からの示唆
レティアの泣き声が次第に小さくなり、
落ち着いてきた頃に
ずっと黙っていた翳丸が口を開いた。
翳丸『よく聞けよ。』
そう言って、レティアの肩をがっしりと両手で掴んだ。
翳丸『お前の記憶、強い力で押さえつけられている。
解除してやろうと思ったが、できなかった。
どうやら俺の力じゃ不可能らしい。
‥‥‥探せ。頭ん中の呪縛を
取っ払える奴を。』
レティアは急な話に
頭が混乱する。
翳丸はレティアの戸惑いの表情などよそに、
話を続けた。
翳丸『あとお前、
子供達のことを強く思い出すと
希死念慮に駆られるように操作されてる。
それも取っ払わないと
復讐終える前に死ぬぞ。』
翳丸の突然聞かされる事実に
レティアは目を見開いた。
レティア『なんでわかるの?
誰の仕業なの?』
翳丸『俺もわからない。
見たことのない技だ。
もしも子供達を殺した犯人がわかっているなら
とっくに俺が殺してるさ。』
レティアは、翳丸の本音に驚いた。
翳丸を見る。
恐ろしいほどに怒りに満ちた目をしていた。
‥‥‥レティアの背中が、翳丸の殺気でゾクリと凍るくらいに。
【幸せを産む天使】という運命に、翳丸を巻き込んだだけなのに、
子供達の死を本気で悲しみ、犯人に怒りを示す翳丸に
レティアは切なさに似た心強さを感じた。
レティア『なんでここに‥‥‥』
レティアは恐る恐る翳丸に問う。
翳丸『‥‥‥。
お前とはなんの関係もないが
少なくともあいつらは半分俺の血が混じっている。
俺の遺伝を持つガキが
あんな残虐に殺されたんだ。
‥‥許せるわけがねえだろ。』
翳丸は、そう言い放った。
どこか影を帯びるその横顔は、
【残忍で冷酷な妖】には見えなかった。
翳丸『犯人の目星もつかない。
だが、相当な手練れと、奥義を持っている奴だろうな。』
翳丸は、二つの墓碑を見つめる。
よく見ると、手折られた花が数本供えられていた。
こんな森深くの墓に花を手向ける者は、
目の前にいる男の他ないだろう。
レティア『そう‥‥‥』
レティアは俯いて呟いた。
翳丸『‥‥お前、飛び降りたんだってな。』
レティア『なぜ知っているの。』
翳丸『俺は魔界の住人だぞ。
密偵くらい造作もない。』
翳丸は今度は笑みを浮かべていった。
レティア『‥‥‥そういえば、ソニアとサンダーも
とてつもない魔力を持っていたものね。
あなたほどの力があれば、
私のことなんか簡単に調べられるわね。』
翳丸『だが実に不可解だ。
‥‥犯人の目処が全く立たない。
おかしすぎる。
怪しい奴らはたくさんいるのに、
全員アリバイがある。』
翳丸も色々調査しているようだ。
レティア『誰が1番怪しいの?』
翳丸『‥‥‥それは‥‥』
翳丸は口を開きかけたところで、
何者かの気配を感じる。
翳丸『この深い森に誰かやってくるぜ。
‥‥‥複数でな。』
レティア『!?』
レティアが気づいた頃には、
翳丸は、誰かの剣での攻撃を、
自分の長剣で受け止めていた。
翳丸(速いな‥‥!
こいつは人間‥‥!?
足音も聞こえなかった。
どうなってやがる‥‥。)
『レティア!大丈夫か!?』
聞き覚えのある言葉にハッとする。
目の前にいたのはミラだった。
レティア『ミラ‥‥‥!』
翳丸『仲間なのか?!』
レティア『ええ‥‥!』
ミラ『レティア、知り合いか?この男は。』
レティア『‥‥‥。子供達の父親なのよ。』
ミラ『そうだったのか!?
すまない、気配が‥‥
闇側の人間にそっくりだったものだから‥‥
昨日、ヘレボルスを出てから帰ってこなかったから
みんなでレティアを探していたんだ。
何かあったのかと心配で、つい‥‥‥』
ミラはそう言うと、翳丸に頭を下げた。
レティア『心配かけてごめんなさい‥‥‥』
すると後からソフィア、トーア、マルメロもやってきた。
ソフィア『レティア!!!』
トーア『レティアちゃん!!』
レティア『ソフィア!トーア!
マルメロまで!!』
翳丸はトーアをじっと見た。
トーア『君は‥‥‥』
翳丸『お前、精霊か?』
レティア『2人とも知り合いなの?!』
トーア『ううん。
多分初めまして、かな。
だけどお互いの気でわかるよ。
君は魔界の妖かな?』
翳丸『そうだ。』
ソフィア『魔界の‥‥‥!』
【魔界】という言葉に、ソフィアの表情は険しくなる。
トーア『ソフィア。彼は人間界を害したりしないよ。
見ればわかるんだ。』
トーアがそういうと、ソフィアは警戒心を緩める。
しかし完全には信じられないようで、
翳丸に対して構えたままだ。
翳丸『お前、此奴の呪縛、
解除できないのか。』
翳丸はトーアに問う。
トーアはジッとレティアの目を見つめる。
トーア『翳丸くん。君、すごいね。
こんな特殊な呪縛に気付いたのかい?』
翳丸は目を見開いた。
翳丸『なぜ俺の名を知っている!!』
トーア『君の目を見つめたから。
だけど、魔力で隠されていて
見えないことも多いな。』
トーアは困った顔をする。
翳丸『そうか精霊の野郎は目を見りゃ色々暴けるのか。
恐ろしい能力だぜ。』
翳丸は嫌そうな顔をして吐き捨てる。
トーア『結論 僕じゃあだめだな。
浄化じゃ意味がなさそうだ。
翳丸くんのほうがこれを解除できそうだけど。』
翳丸『俺も無理だった。
試してはみたぜ。
お前の神聖な浄化でもダメで
俺の魔界の能力でもダメなら
一体この呪縛は何なんだろうな。』
翳丸もトーアも首を傾げた。
ソフィアとミラは
何のことだかわからない。
翳丸『あと‥‥
ガキらを強く思い出すと、希死念慮にかられるように操作されてる。
此奴が生きていれば不都合な奴らがいそうだぜ。
その解除もお前には無理か。』
トーア『‥‥‥操作の解除は僕の分野じゃないな。』
翳丸『まあそうだろうな。』
トーア『暴くために僕も調べてみるよ。
レティアちゃんの復讐に、僕たちも協力するつもりだから。』
翳丸『そうか。』
翳丸は背中を向けてスタスタとどこかへ行ってしまった。
一瞬立ち止まり、振り向いた。
翳丸『悪いが俺は、付き合わないぜ。
勝手に探せよ。
俺はやらねばならないことがたくさんあるんだ。
俺を頼るな。
レティア、お前に呪縛があることだけは教えてやったぜ。
感謝するんだな。』
翳丸は、姿をくらませてどこかへ行ってしまった。




