触れないで、私はあなたの呪詛
ー森ー
夜更け。 あたりは真っ暗だ。
ソフィア達は煌々と燃える炎の周りに座って
戦の振り返りをしていたを
トーアも途中からやってきて、会話に参加し始めた。
ソフィア『みんなありがとう。
おかげで、敵兵達の魔力と体力を削ぎ落とし
こうして夜まで時間を稼ぐことができたわ。』
ソフィアは大輪の笑顔で言った。
炎に照らされたソフィアの顔は
光ような眩さだ。
大切な友人も、母も、動物達も
毒婦とラヴィエに殺されたと言うのに
影ひとつ帯びずに 透き通る瞳を持っていたのだ。
トーア『本当にありがとう!!
祠の魔力も順調に回復している!
明日の昼には、完全に復活して
他の精霊達も出てこられるさ!』
いつも落ち着いているトーアの口調は
まるで子供のように無邪気で明るい。
そのくらい、焼かれてしまった祠の復活は
ヘレボルスの明暗を分ける重大な奇跡だったのだ。
ソフィア『あともう少し‥
もうすこしね!!!
みんな、順番に休みましょう。
全員が寝てしまったら、狙われてしまうわ。
油断は禁物よ。』
ミラ『なあ、祠の前も守っておこう。
何となく心配だ。』
レティア『そうね。』
みんなは四手に分かれて、仮眠を取ることにした。
起きているチームは森の中に近づく者がいないか、
祠を狙う者がいないかを交代で見守っていた。
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『‥‥て‥‥‥きて‥‥‥』
レティア『んー‥‥
アウロ様‥‥‥?』
レティアは夢と現実の狭間の中で、
誰かの声が聞こえた。
レティアは微睡の中で思った。
【ああ、アウロ様か‥‥‥
寝坊した私をいつものようにー‥‥
起こしてー‥‥‥】
再び、深い眠りへと堕ちてゆく。
【天使様!!!起きて!!!】
はっきりと 女の人のような声が
レティアの脳内に響き渡る。
レティアはその声に飛び起きた。
レティア『誰!?!?』
辺りを見回すと、そこは森だった。
数時間前まで、炎を焚べて
それを囲って、皆で会話をしていた森だ。
そして、レティア以外の皆も
地面に倒れ伏せるように眠っていた。
レティア『はっ!!!!
私も皆も、いつの間に眠って‥‥‥!!!』
レティアは とっくに消えてしまった炎と
燃え切った薪と灰を見つめた。
レティア『いま何時‥‥』
『朝の4時ー‥‥‥』
レティアは声の方に顔を向ける。
見るとマルメロがレティアの顔をじっと見つめていた。
レティア『マルメロ!!』
マルメロ『助けて!
みんな、眠らされてしまった。
ディセントラとラヴィエに。
この祠の魔力に気づかれた。
あいつらが 燃やそうとしている。
助けて!!みんな起きない!!』
マルメロは悲痛な顔をしてレティアに話す。
マルメロの美しいブルーグレーの瞳には
ひと雫の涙が 今にもこぼれ落ちそうなほど
重力に揺れていた。
レティア『どうすればいいの!?』
レティアは切羽詰まったように聞く。
マルメロ『この眠りは、悪魔の秘技。
天使様の、魔力を使って、
皆を包み込んで 起こして!!!お願い!
再び燃やされたら もう終わりー‥‥』
マルメロの目から
ぽろりと 涙が溢れた。
濡れたまつ毛が
マルメロの絶望をより一層引き立てた。
レティア『みんな‥‥起きて!!』
レティアは手に魔力を込める。
皆を‥‥この森の全てを‥‥
叩き起こすようなイメージを込めた!!
美しい白い光の膜が
森全体を包み込んだ。
それからすぐに、死んだように眠っていた皆が
少しずつ手や足を動かし始めた。
ニゲル『ふわぁあ!
いつの間に寝てしまっていた!!!』
ミラ『な!?!?俺が寝ちまっただと?!』
ソフィア『いけない!!!
もうあたりは明るいわね!?』
トーア『はっ!!!
何故だ!?!?何故いつの間にみんな寝ていたんだ!!??』
レティア『よかった!!みんな目覚めたのね!!』
ソフィア『レティア!!!あなたは起きていたの!?!?』
レティア『いいえ。マルメロが起こしてくれたわー‥‥。』
ミラ『馬鹿な!!!
俺は今まで、死んだように眠ったことはないぞ。
必ず物音で起きるはずだ!!!』
ソフィア『ええ!おかしすぎるわ!
みんなが一斉に眠ってしまっていたのだもの!!!』
レティア『マルメロが教えてくれたわ。
これは悪魔の秘技。
ディセントラとラヴィエによって私たちは眠らされた。
この祠の魔力が回復しているのを
2人に気づかれたって。』
ソフィア『なんですって!!??』
ソフィアは憎悪をはらむ目で
ヘレボルスの城の方角を睨めた。
杖を強く握りしめる。
杖はソフィアの力で軋む音を立てた。
ソフィア『間一髪ね!!!
マルメロ‥‥ありがとう。
ヘレボルスの恩人よ。
レティアもありがとう。
トーア!!あと数時間後には
祠の魔力が復活よね!!』
トーア『うん!!!あと少しだ!!』
ソフィア『いい!?これからは、祠を守る部隊と、
兵士たちを足止めする部隊に分かれるわよ!!』
全員 祠へと向かった。
少し前まで 枯れ果てていた祠が
青白い光を放ちながら
ぐつぐつと音を立てている!
ニゲル『もう少し!もうすこしだな!!
あと一息だ!!皆!!気を引き締めるぞ!!!』
反乱軍達が一斉に剣と杖を掲げた。
その時ー‥‥
ミラ『!』
ソフィア『!』
ニゲル『な!』
レティア『はっ!』
全員が一斉に
同じ方向を見つめる。
赤黒く禍々しい 呪いのような巨大な球体が、
祠を目掛けて 恐ろしいスピードで
一直線に飛んでくるのだ。
ニゲル『危ない!!!!!』
ソフィア『あれは!!!!!』
トーア『みんな!!触れちゃダメだ!!!!
あれは!!!!
黒魔術のー‥‥‥!!!
悪魔の禁忌の秘技だ!!!!!
触れたらー‥‥‥‥!!!!!』
トーアが言いかけた瞬間、
マルメロが 勢いよく地面を蹴った。
祠を目掛けて飛んでくる、悪魔の禁忌の秘技ー‥‥
赤黒く禍々しい球体ー‥‥
マルメロは、祠の前に立ちはだかったのだ。
ソフィア『マルメローーーーッ!!!!!
ダメーーーーーッ!!!!!!』
ソフィアは泣き叫ぶ。
マルメロは微塵も動かなかった。
この瞬間がまるで
スローモーションのように感じられた。
ドン!!!!という
耳を劈くような音が
静かな森に響いた。
マルメロが立ちはだかったおかげで
祠は無事だった。
しかし、マルメロはその場に頽れた。
体は焼け爛れ、呼吸が荒い。
瀕死の状態だ。
ソフィア『マルメロ!!!マルメロッ!!!
しっかりして!!!』
ソフィアはマルメロに近寄る。
マルメロに触れようとした。
マルメロ『ソフィア‥‥‥‥!!
触れないでー‥‥‥!!
私はあなたの呪詛‥‥』
マルメロは 息も絶え絶えに
ソフィアに 言葉を投げかけた。




