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幸せを産む天使  作者: 墨華


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7/10

純白

ラナン『‥‥‥。』



レティアが考え込んでいる姿を、

ラナンは何も言わずに見つめていた。


沈黙の中、

アウロが口を開いた。




アウロ『まあよい。

喋りすぎたな。

若い2人には難しい話だろう。


話を変えて、2人が担う地域、ヘレボルスの話をしようか。』



アウロは大きな地図を開いて

魔力を込めて壁に貼り付けた。



レティア『!』

(あれが魔力を使った技なのね‥)



アウロ『ヘレボルス。


今はラインハルトという名の王が国を治めている。

息子1人に、娘1人。

妻はマグオートという国の第7王女、カトレアだ。』



レティア『もう何が何だかわからないわ‥』



レティアは頭を抱えた。


ラナンは優しく笑った。



ラナン『まあつまり、政略結婚したってことかな?』



アウロ『そういうことだ。

頭がパンクするだろうから、詳細は控えることにしよう。』



アウロは一呼吸おいて話し始めた。



アウロ『ヘレボルスは美しい森に囲まれている。


ヘレボルスの約七割を占めるほどの広大な森だ。』



レティア『森‥。

本で読んだけれど、見たことないです‥。

きっと、素晴らしいのでしょうね。』





アウロ『ああ。


ヘレボルスの森には、精霊の国が存在する。

普通の人間にはめったなことでは見えないが、俺たちには見える。


精霊たちもその森を守っているのだ。』



レティア『精霊‥?』



アウロ『俺たち天使は神の使い。


精霊たちは、自然を守る存在だ。


精霊とはたまに関わることがある。

無礼のないように。』



レティアとラナンは返事をした。



レティア『精霊ってどんな姿なのですか?』



アウロ『普通の人間のような姿だ。

ただ、目が天体のように美しく

見つめられると眩暈がするほどだ。


彼らは浄化が得意だ。

ヘレボルスの森を常に浄化し、悪いものや邪気を入れぬようにしているのだ。』




ラナン『神聖な場所なんですね。ヘレボルス。』



アウロ『森は、な‥。』



アウロは暗い顔をする。




アウロ『ヘレボルスの王、ラインハルトは、暴君で有名で

無用な戦をしては罪のない人々を殺める

とんでもない奴なのだ。


そのせいでヘレボルスの民たちも

飢えや貧しい暮らしを強いられている。』



ラナン『!!!!


それ、どうしたら俺たちに救えるんですか!?』



アウロ『‥‥‥。

2人には一刻も早く魔力を極めてもらう。

魔力で人々の飢えや病を少しでも軽くするのだ。』



ラナン『その、暴君ラインハルトは‥!』



アウロ『倒すのは無理だ。


俺たちは神の使い。

人間に手を出すことは、できないからな‥』



ラナン『人間にも姿が見える俺なら‥!』



アウロ『‥だめだ。

人間界での出来事は、人間同士が解決することだ。



俺たちはその中で

少しだけ手助けする存在なのだ。』



レティア『‥‥。

魔物、怪物、異形等は倒せても

悪い人間のことを倒すのはダメ‥

ってことでしょうか?


倒さなければ、多くの人間が死ぬことになったとしても‥ですか?』



アウロ『簡単に説明すると

人間界に本来、魔物、怪物、異形はいるはずないんだ。

だから俺たち天使が倒さなければならない。

人間を守るためにな。


まあ、人間の中にも相当な腕前があったり、

特別な力を持つ人々もいて

倒せる者もいるが‥。



‥人間同士の争いに関しては、

基本的には手出しは不可なのだ。

掟違反になる。よほどのことがない限りな‥



レティア『そうですか‥‥‥』



アウロ『天界は掟が多い。

わからないことも多いだろうから

その都度聞いてくれ。


さて、明日から本格的な修行を始めよう。


今日は2人をヘレボルスに連れて行ってやろう。』



アウロはそう言うと

天空を飛び始めた。


レティアとラナンもそれに倣って翼を広げ

アウロの後をついて行った。




レティア(人間界への道‥

覚えておかなくちゃ。

こんなふうに、人間界へ降りるのね。


私の醜い翼でも

ちゃんと飛べるのね。


相変わらず異形で歪で

大嫌いだけど

なんだか少しだけ

誇らしいわ‥。


天使が飛べることなんて

当たり前のはずなのに‥)



どれくらい経っただろうか。

三人は地上にたどり着く。



レティア『ここが‥人間界‥!』



レティアは空を見上げる。

普段は見下ろしている空を。


星は米粒より小さく光り輝いている。


普段目の前で掴める雲は

空と一体化してるようにすら見えた。



レティア『すごい‥すごいわ‥。

天界とは全てが違う‥。』



レティアは感動で胸が張り裂けそうになった。


ラナン『だろ!?

レティアは必ず、人間界が気に入ると思ったんだ。』



ラナンはニカッと笑った。

レティアも微笑み返した。



レティア『彼らが人間‥‥』



人間たちが皆それぞれ違うことに

レティアは驚きを隠せない。

例えば服装だ。

天使は皆同じような白いローブを着ているが

人間たちは皆自由だった。



レティア『‥天界も、もっと自由ならいいのにね‥』



レティアはラナンにそう溢した。



ラナン『‥ほんとに‥窮屈だよな。


レティア。

俺と一緒にたくさんの人たちを助けような!』



溢れんばかりの笑顔をレティアに向けるラナン。


レティアは生まれて初めて

居場所を見つけたような気がした。



レティアも満面の笑みで

ラナンに頷いた。



2人はアウロの後ろを歩き続ける。

アウロは足を止めた。



アウロ『ここがヘレボルスの森の入り口だ。』




広大な緑と大木たちが立ち並んでいる。

人間界のオーラとは違い、

ヘレボルスの森のオーラは、天界と同じくらい真っ白だった。



三人は足を踏み入れる。



たくさんの動物たちが立ち止まってこちらを見ていた。


鹿、うさぎ、羊、鳥、きつね‥


動物たちには、天使の姿が見えるらしい。



レティア『かわいいわ‥』



レティアは動物たちを見つめる。

彼らの瞳は、とても澄んでいた。



レティア『ラナン。動物たちって

こんなにも澄んだ目をしているのね』



ラナン『ああ。皆優しい目をしているよな。』



レティア『私、守りたいわ。

この森を‥


こんなに優しい動物たちが

幸せそうに住んでいるんだもの。』



ラナン『守ろうぜ。必ずな。』



アウロ『いい心意気だ。

明日から俺も厳しく修行をするから

覚悟するように。』



レティア ラナン『はい!』



アウロ『今日は天界に戻り早く休め。

明日、早朝から特訓を始めるからな。』



三人は天界に戻った。


戻る頃には、もうあたりは暗くなっていた。



ラナンとアウロと別れ、

レティアも自分の部屋に戻ろうとした。

あたりは誰もいなかった。

皆もう部屋に入ったのだろう。




『レティア‥』



不意に誰かが呼ぶ声がする。

声の方に顔をやると、

そこには母、シランが立っていた。



レティア『お母さま‥!』



シランはレティアと目が合うと

眩いほどの美しさで微笑む。

そしてレティアを抱きしめた。



シラン『やっと会えたわ‥レティア。

私の愛しいレティア‥』



シランはレティアの頭を優しく撫でる。

レティアはとても嬉しかった。



レティア『お母さま‥!

私もお会いしたかったです‥!』



レティアは瞳に涙を浮かべて言った。



シラン『私もよ‥レティア。


‥‥人間界に行っていたようね。』



レティア『はい。ヘレボルスに‥!』



シランは一瞬、真顔になる。



レティア『お母さま‥?』



レティアの声に、再びシランは笑みを浮かべた。



シラン『なんでもないわ。

ヘレボルスね。

美しい森があったでしょう。



‥あなたの師匠は誰になったの?』



レティア『アウロ様です!』



シラン『‥オルレアの部下ね。』



シランは優しく笑う。



レティア『はい!』



シラン『強くなるのよ。』



シランはレティアにそう言うと

何かを取り出した。



シラン『これを。あなたにあげる。』



シランはペンダントをレティアの首にかけた。

それは透明な石に真っ白な翼のひとひらが閉じ込められていた。



レティア『これは‥?』



シラン『私の翼の一片で作ったペンダントよ。


‥‥これはね、魔力をほんの少しだけ込めているの。


きっとあなたの力になるわ。』



シランはそう言うと

再びレティアを抱きしめた。



シラン『私はもう行かなくては。



レティア。会えて嬉しかったわ。


そのペンダントは、肌身離さず持っていてね。』



レティア『わかりました!


お母さま‥次はいつ会えますか?』



シラン『‥‥あなたが強くなった時かしらね。』



レティア『わかったわ。私、早く強くなります‥!

お母さまに会いたいから‥!』



レティアはとびきりの笑顔を向けた。


シランはそれを見て寂しく笑った。



シラン『約束よ。レティアー‥。』



そう言うとシランは

一瞬のうちに姿を消した。



レティア『!?

お母さま!?!?

あれも、魔力なのかしら‥!?』



レティアは自室に戻る。

生きてきた中で1番楽しい日だった。

ラナンと人間界に降り立ち

美しい森の中で動物たちと出会い

久しぶりに母、シランと再会できたからだ。


レティアはシランがくれたペンダントを見つめる。

シランの翼は真っ白で、少しの混じり気もなかった。



レティア『綺麗ね‥』



レティアはつぶやいた。

眩いほど美しい母の

純白の羽。


母からもらった唯一のプレゼントに

レティアは心があたたかくなるのを感じた。

両手で優しく包み込んで

心臓の前で抱きしめたのだった。

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