番外編 ミラの過去④ 『ユウカとアケミママとの出会い』
ミラは 目を覚ました。
どこかに寝かせられていた。
ガバッと起き上がる。
『お、目覚めた。
すごいね、アンタ。』
ミラが声の方に目をやると
派手な女と70代くらいの老人がいた。
女は20代半ばから後半くらいに見えた。
派手な女『アンタさ、店の前で倒れてたんだけど。
すごい殴られたみたいね。
何があったの。』
ミラは黙っていた。
派手な女は煙草に火をつけた。
派手な女『この人、医者ね。
残念だけど、アンタ、治らないって。お腹。』
老人は医者だそうだ。
医者『再起不能になってます。
そのくらい執拗に殴られた形跡が‥』
ミラは別にそんなこと構わないと思った。
一生ひとりで生きていくつもりだった。
誰かを信じて 痛い目を見た自分の浅はかさを恨んだ。
これから 死ぬまで群れないし、自分以外誰も信じない。
そう心に決めた。
『ああ、アタシはユウカ。
アンタは?』
ミラ『ミラ‥』
ユウカ『何歳なの?』
ミラ『12‥』
医者『まだ幼い娘ではありませんか!!』
ユウカ『本当にね‥
親はいないんでしょ?』
ミラはこくりと頷いた。
ユウカ『これからは、私がアンタを食べさせてあげる。』
ミラは顔を上げた。
何故?見ず知らずの自分を‥
ユウカ『驚いた顔してんのね。
アタシもひとりだったし。
まあ質素に暮らしてるけど
子供1人養うくらいなら平気よ。』
ユウカはあっけらかんとして言った。
ユウカ『この人は昔からの付き合いの医者でさ。
唯一信頼できる人だから。
たまにミラのこと診てやって。
もう変な男に捕まるのは 許せないから。』
医者『わかりました。』
医者はそう言って帰って行った。
ユウカの家はアパートの一階だった。
家の中は割と広く
一人暮らしなのに三部屋もあった。
ユウカ『大丈夫?だいぶまだ怪我してるから
あんまり動かないほうがいいみたいだよ。』
ユウカはそう言って、食事を運んできてくれた。
ミラは驚いて顔を上げる。
ユウカ『何。どうしたの?毒なんか入ってないよ。
ろくに食べてないんでしょ。
細いもんね、アンタ。』
ミラは食事に口をつける。
ご飯におかず、スープ‥
こんな豪華な食事を食べたのは、
ティラが遊びにきてくれた時以来だ。
ユウカ『‥‥。』
ユウカはミラが食べている姿を
何も言わずにじっと見つめていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ユウカ『ミラ。今日からここがアンタの部屋。』
ユウカは殺風景で何もない部屋をミラに見せた。
ユウカ『今まで外暮らしだって?
すごい野生児ね。
まあ、さっきアンタの食べ方見たけど
酷いモンだったわ‥
アンタは悪くないけどね。
これから教えてあげる。』
ユウカは食べ方、箸の使い方を教えてくれた。
毎日風呂に入れてくれたし、服も洗濯してくれ、洗い替えまで用意してくれた。
生活に必要なものはなんでも買い与えてくれたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ユウカは昼は家にいた。
仕事終わりの日は 大抵夕方まで寝ていたが、
たまにミラを外に連れ出してくれることもあった。
買い物に行ったり お出かけをした。
家族がいたなら、こんな風なのかもしれないとミラは思った。
ユウカが ガラの悪そうな男を家に連れてきて
3人で 昼ご飯を食べたこともあった。
読み書きもできなかったミラに
ユウカやその兄ちゃんが文字を教えてくれた。
見た目は怖い人たちだったが
2人ともミラにはとても気さくで優しかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ユウカは夜が仕事だった。
母と同じだった。
幸せで、安定した毎日が続くと
ふと不安がよぎる。
【ユウカまで、死んだらどうしよう】
母も夜の仕事をしていた。
そしていつしか病気になり
男に撃たれて殺された。
ユウカも似ていた。
夜の仕事をして
男を連れてきた。
ユウカの連れてくる男はミラに優しかったし
変な視線を向けることもなかった。
けれど、幼い頃見た 母の血の海と見開いた目
ゴロゴロと鳴り落ちる雷の記憶が
頭から離れなかった。
夜になると
ミラの不安を煽った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーある雨の日の夜ー
ユウカ『じゃ、行ってくるから。
誰か来ても絶対 鍵開けるんじゃないわよ。』
ユウカはミラにそう言って家を出ようとした。
ミラはユウカの手を引いた。
ユウカは振り返った。
ユウカ『ん?どうしたの?』
ミラは黙っていた。
ユウカ『‥‥遅刻するんだけど。』
ミラ『‥‥帰って‥くる‥よな?』
ミラは呟くように言った。
自分でも驚いた。
今までひとりで生きてきたのに、誰かの温もりが嬉しい。
そしてそれを
何がなんでも失いたくないと思うのだった。
ユウカはフッと笑った。
ユウカ『着いてきな。』
ユウカはそう言って、ミラも一緒に外へ連れ出した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ユウカが連れてきたのは
ガヤガヤした店だった。
ユウカは扉を開けると、声をかけた。
ユウカ『アケミママ。』
アケミママと呼ばれた女がユウカの方を向いた。
アケミママ『ユウカか。
そしてその隣の子がミラね。』
ママはそう言ってミラに笑みを向けた。
ユウカ『そう。
アタシが働いてる時、ひとりだと不安みたいでさ。』
ママ『そうかい。
まあ不安だよね。まだ12歳なんだろう?
んじゃ、ミラ。
ユウカが仕事の日は、此処に来な。
隅の方で 本読んでてもいいし
喉乾いたりお腹空いたらなんか出してあげるよ。
眠くなったら2階で寝な。』
ミラ『!』
その日からミラも
昼夜逆転生活になった。
ユウカが仕事の日は一緒に家を出て
アケミママのお店で夜を過ごした。
酔っ払いに絡まれることもあったが
みんな陽気で楽しかった。
あまりにしつこい時は、ママが牽制してくれたし
警察が来た時は
ママが合図して ミラはすぐに隠れた。
素早く 音ひとつ立てずに隠れることは
ミラの得意技だった。
帰りは千鳥足のユウカがミラを迎えに来て
ミラはユウカを支えながら家まで歩いた。
ユウカやアケミママ、
見ず知らずの自分に居場所を与えてくれた2人は
もしかしたら神様なのかもしれないと思った。
ミラはすでにティラにされたことなど忘れ
この日々が永遠に続けばいい。
そう願うのだった。




