さようなら、憎き天界
レティアは憎悪を
自分の持つ魔力に込めた。
【我が子を殺した犯人が憎い‥】
【悪魔と結ばれた母が憎い‥】
【私を毎日いじめた奴らが憎い‥】
【ラナンに手をかけたミンが憎い‥】
【アウロを誘拐した何者かが憎い‥】
【妊娠中自分をはめたリリアとルリハが憎い‥】
【生まれた時から呪詛の言葉をかけ続けた
大人の天使達が憎い‥】
【自分の醜い姿が憎い‥】
【秩序だらけの天界が憎い‥】
レティアの周りは漆黒の霧に包まれ
周りの天使達は恐怖で慄いた。
風が吹き荒び、
位の低い天使達がその場から飛ばされるほどだ。
レティアは オッドアイの
漆黒の翼を持つ 悪魔の姿になったのだった。
騒ぎを聞きつけたロニスとヘリオスがレティアに近づいた。
ロニス『レティア!!!
落ち着きなさい!!!レティア!!!』
ロニスはレティアを抱きしめた。
レティアは下を向き つぶやいた。
レティア『私は‥あなたを裏切った
女狐の娘よ‥
何故構うの‥』
レティアは涙を流しながら問う。
ロニスは一瞬、傷ついた顔をした。
その後 真剣な顔をして言った。
ロニス『何を言うんです。
あなたが誰の子供であれ
大切な天使の1人なのですよ!!』
ああ、とレティアは言った。
全てを諦めたように 清々しく笑った。
【あまりに まばゆい】
レティアは気づいた。
【最初から、私の居場所は
天界に なかったんだ】
レティアは笑った。
泣きながら笑い続けた。
ヘリオス『レティア!!
休め!お前は一度に大切な奴を失いすぎた!!
壊れて当然だ!!休め!
俺とロニスが支える!!』
レティアは何も言わなかった。
最後にレティアは
ロニスとヘリオスの正面に立った。
悪魔の姿で
2人の前に立ったのだ。
レティアはすぐに
平伏せた。
何も言わずに、しばらくの間
2人の前で平伏せ続けたのだった。
ロニス『レティア‥!!』
おもむろにロニスが声をかける。
レティアはゆっくりと立ち上がった。
何かを覚悟した目だった。
レティアは漆黒の翼をはためかせる。
疾風が巻き起こり
ロニスとヘリオスを吹き飛ばした。
ヘリオス『うわっ!!
レティア!!』
レティアは走った。
ものすごいスピードで走った。
天使達が落ちないように
張られていた結界を無理やり潜った。
ロニス『レティア!!!何を!!!
結界を通れば大怪我をしますよ!!!』
レティアの体に激痛が襲った。
直後に血の匂いがした。
構うものかと思った。
レティアはそのまま
一直線に天界から飛び降りる。
抵抗しなかった。
ヘリオス『おい!!!!レティア!!!!
レティア!!!!!』
ロニス『レティア!!!!
手を伸ばしなさい!!!』
2人は飛んで追いかけてくる。
レティアは目を閉じて笑った。
あの2人は最期まで
醜い自分に優しかった。
2人への恩は
死んでも忘れない。そう誓ったのだ。
レティアの翼が風を起こし
2人を吹き飛ばす。
ロニスとヘリオスは声を上げて
レティアの視界から消えて行った。
耳元で風が劈く。
痛いほどに全身で風を感じた。
天界から真っ逆さまに落ちているのだ。
それも当然だった。
【ソニア‥サンダー‥ラナン‥
死んだら愛しい者たちに会えるのかしら‥
アウロ様はどこにいるのだろう‥
人間が死ぬ時、天使たちが迎えにいくけれど
天使が死ぬ時は 一体
誰が迎えに来てくれるのだろう。】
レティアは穏やかな気持ちで考えた。
『‥‥ア!!‥‥ティア‥‥!!!
レティア!!!!!』
レティア『!』
誰かの呼ぶ声がした。
‥母の声だ。
もう、母は死んだはずなのに
幻聴まで聞こえてくるのだ。
『レティア‥!!!レティア!!!
聞こえる!?!?レティア!!!』
レティアは目を開けた。
シランはいなかった。
当然だ。母は死んだのだから。
『レティアーッ!!!』
母の泣き叫ぶ幻聴が聞こえる。
不意に、レティアの全身が
火傷するほど熱くなった。
落下している時 あまりの風の強さに
凍えるほどだったのに。
【もうすぐ、死ぬ】
レティアは思った。
もう、地面も近い。
二度と苦しむこともない。
最愛のラナンの死から始まって
師匠も我が子たちも失った自分に
これ以上 何の地獄があると言うのだ。
【もう二度と、この世界で
生を受けませんように】
レティアは落ちゆく中
両手を組んで呟いた。
その直後、ものすごい衝撃と
爆発音が響き渡る。
レティアの背中が、地面に叩きつけられる。
痛みなど感じなかった。
すぐに、此処が真空であるかのような
無音に包まれた。
【さようなら、憎き天界
さようなら、憎き全て‥】
レティアは優しい笑みを浮かべて
目を閉じた。




