救世主(メシア)
『あ!!レティア。
今日も相変わらず暗いわね!』
『本当にね。陰気臭いったらありゃしない。
本当に熾天使の娘〜!?』
『おいやめとけよなー!!
シラン様に見つかったら怖いぜ〜!!』
『そうだよ!!こいつはなんの力もないけどさ
シラン様はとてつもない魔力と秘技を持ってるらしいぜ!!
天界を凌駕するほどのなー!!』
『えーっ!!まじかよ!?』
『それ聞いたことあるわ!!
1番神様に近い場所に行けるのも
限られた熾天使様だけ。
その中のお一方が、シラン様よ!』
『本当に美しいものね!!』
『本当にな!それに比べて‥
この異形‥‥
気味悪いぜ。見た目姿全部な。
いつも下向いて何考えてるかわかんねえし。』
レティア『‥‥‥。』
レティアは下を向いたまま、何も言わなかった。
いつものことだ。生まれて物心がついた頃から浴びせられるのは自分への悪口だけだ。
心を凍て付かせていれば、まるで第三者のように罵詈雑言を聞き流せるのだ。
慣れたものだ。
すると レティアの背後から誰かの声が聞こえる。
『おいお前ら!!なんてこと言うんだよ!
やめろよ!!!』
『!!!!!!!!』
レティアは振り返った。
レティアを罵っていた男女4人も
声の方に視点を向ける。
『ラナン‥!!!!』
1人が彼の名をこぼした。
ラナンー‥。
聞いたことのない名前だ。
ラナン『お前らさっきから聞いてたけど
なんてこと言うんだよ。
大丈夫か?』
ラナンはレティアに近づき、
瞳を見つめた。
レティアは目を逸らす。
(どんなに優しい男の子でも
私の醜い姿を見たら、きっと
口を閉ざしてしまう。)
レティアはそう思った。
ラナン『‥‥。』
ラナンは目を逸らしたレティアの肩に
腕を回した。
レティア『!?』
レティアはラナンを見る。
(私の姿を見ても、彼は
態度を変えなかった。
私より、3つくらい
年上の男の子。
赤髪で緑色の瞳。
小麦色の肌。
綺麗な瞳ね‥。
そしてなんて力強い眼差しなの。
私とは大違い。)
ラナンはレティアの視線に気づくと
レティアに微笑んだ。
レティアは目を見開いた。
レティアを偏見なく見つめてくれた同じくらいの歳の子は
ラナン‥彼だけだったのだ。
『行くぞ!!!』
男女4人は走って去って行った。
ラナン『大丈夫か?』
レティア『‥ええ。』
レティアは視線を地面に落としたまま言った。
ラナン『なんで言い返さないんだよ。』
レティア『!?』
レティアはラナンの目を見つめる。
翡翠のように鮮やかな緑色の瞳が
レティアを捉えたまま離さない。
ラナン『言い返せよ。
レティア。お前は醜くなんかない。』
レティア『!?
そんなことないわ。私は、醜い。
天使じゃないみたいにね。』
レティアは初めて言葉を溢した。
まともに誰かと話すのは、どれほど久しいだろう。
ラナン『いいや。お前は綺麗だ。
誰がなんと言おうと綺麗だ。』
ラナンは真っ直ぐだった。
目を逸らしたくなった。
きっと彼は、私のように卑屈じゃない。
こんな醜い私に優しいのだ。
周りに恵まれて生きてきたに違いない。
それを思ったら
自分とはあまりにかけ離れている存在に
心が初めてキュッと痛んだ。
優しい言葉すら
素直に受け止められないほどに
曲がり切った自分の根性にも嫌気がさした。
レティア『ありがとう‥』
絞り出すようにレティアは言った。
真意がどうであれ、自分を助けてくれたことには変わりないのだ。
ラナンは何かを考えた後、
口を開いた。
ラナン『俺はラナン。
ミンの息子さ。』
レティア『!!!!
ミン様の‥!?』
ミンは熾天使だ。
母であるシランが1番可愛がって信頼している熾天使の部下だ。
ラナン『そう。君のお母様、シラン様の一番弟子さ。
俺はずっと、天界には住んでなかったんだけど
最近天界に戻ってきた。』
レティア『!?
天界に住んでいなかったって、どういうこと?』
ラナン『幸せを産む天使って知ってる?
君ならきっと知ってるよね。
母さんは幸せを産む天使なのさ。』
幸せを産む天使。
それは、天界から選ばれた天使が
交わることもないまま、勝手に天界から決められた
男の子供を身ごもり、産む天使だ。
幸せを産む天使が交わりもないまま産み落とした子は、
『天の神子』と呼ばれ
特別な力を持ち、人間界や天界を助け
幸せをもたらすと言われていた。
ミンはその幸せを産む天使に選ばれたそうだ。
レティア『知ってるわ‥。ミン様が、幸せを産む天使‥!?』
ラナン『ああ。
それで俺が生まれたんだ。』
レティア『えっ‥!?
あなたのお父さんは、誰なの?』
ラナン『‥人間だよ。』
レティア『‥!そうなの?!』
ラナン『うん。
だから俺は、人間界で暮らしてたんだ。』
レティア『翼があるのに!?!?』
ラナン『うん。幸せを産む天使の子供は
人間界に行けば普通に人間のような見た目でいられるんだよ。
人間界と天界を助けるための存在だからさ。
だから人間界で俺の翼はみんなに見えないんだ。』
レティア『そうなの‥!すごい‥』
ラナン『レティアは、天使でしょ?
人間界には、行かないの?』
レティア『!?
私、ここから出たことがないの。』
ラナン『天使はさ、人間界を守る役目がある。
そろそろ、レティアも剣術とか魔力とか教わって、力をつけて
人間界を守る仕事をする頃だけどね。』
レティア『知らなかったわ‥!!』
ラナン『俺から、伝えとくよ。
天界にいい師匠がいるんだ。
レティア。ここは君には辛いだろう?
人間界、面白いところなんだ。
力をつけて、人間界に降りるといい。
レティアが下を向いてるのは勿体無い。
強くなれば、力をつければ
あんな奴ら、蹴散らせるさ。』
ラナンはニカッと笑った。
なんて明るい笑顔。
レティアもそれにつられて笑った。
ラナン『笑えるじゃんか!
‥‥可愛い。
レティアは笑ってた方が可愛い。』
ラナンは顔色ひとつ変えずにレティアに言った。
レティアは心臓の鼓動が速くなるのを感じた。




