戦慄の足音
アウロ『レティア!!!大丈夫か!?』
アウロはレティアに近づいた。
レティアはバクバク鳴る心臓を抑えながら言った。
レティア『大丈夫‥です。』
アウロ『ミン様がまさか‥お前に剣を向けるなど‥!!!』
アウロは怒りで顔を歪ませた。
それもそのはず、天界には
【位の高い天使が、過ちを犯した部下に対して罰する場合を除き
如何なる理由があっても、天使同士で武器を向け合わないこと】
という掟があるからだ。
アウロ『何があった。』
レティア『‥‥‥』
レティアは何も言わなかった。
言えなかった、が正しい。
アウロ『そういえば、レティア。
さっきまでラナンと一緒に話していただろう。
ラナンはどこに行ったのだ?』
レティア『‥‥‥』
レティアは黙ったままだ。
アウロ『レティア!!!
ラナンは天界にいるのか?』
レティア『‥‥‥。』
レティアは俯いて口を閉ざしている。
はぁ、とアウロはため息をついた。
アウロ『ミン様に何か言われたのだろう。
一つ伝えておく。
お前がシラン様の娘である限り、
ミン様はお前に手を出したりしない。
口も態度も悪く
熾天使リリア様と犬猿の仲とは聞くが‥
根は悪い方じゃないはずだ。
そうでなければ、
幸せを産む天使に選ばれるはずがなかろう。』
レティアはアウロの顔をゆっくりと見上げる。
アウロ『‥‥。
わかった。何も言わなくていい。
はい か いいえ で答えろ。
頷くか首を振るでもいい。
ラナンは天界にいるか?』
レティアは首を振る。
ラナンは目を見開いた。
アウロ『まさか人間界に行ったのか!?』
レティアは何も反応しなかった。
ミンの殺気立つ目と
警告を思い出したからだ。
【少なくとも今日一日
絶対に人間界に降りないで。
アウロもね。】
アウロはレティアの反応を見て
胸騒ぎがする。
アウロ『レティア!!!!
万が一、ラナンが人間界にいれば
ラナンは狙われるかもしれないんだぞ!!!
あいつは水の氣を持っている。
今まで殺されたり行方不明になった天使達の共通点は
ほとんど、水の氣を持っているんだぞ!!』
アウロは声を荒げる。
レティアはビクッと体を震わせた。
熾天使ミンと
自身の師匠であるアウロなら
どちらの命令を聞くべきなのだろうと
レティアは思った。
きっとミンなのだろうとレティアは考えた。
アウロですら熾天使には逆らえないのだ。
それに、ミンはラナンの母親だ。
我が子を傷つけることはないだろう。
わざわざラナンに
父親の元へ行くように言ったのはミンだ。
何か理由があるはずなのだ。
レティアは黙っていた。
アウロから顔を背けて沈黙を貫いていた。
アウロはレティアの様子から
何かを隠していることにすぐ気づいた。
すると人間界から戻ってきた天使が叫び出す。
『助けてくれ!!!俺の弟子まで攫われた!!!
水の氣を持っていないのに、一瞬のうちに!!!』
天界がざわつく。
アウロ『何!?!?』
レティア『なっ‥‥!!
ラナン‥!!』
レティアはハッと手で口を抑える。
アウロはレティアの言葉を聞き逃さなかった。
アウロ『レティア!!!
ラナンの命がかかっているんだぞ!!!
ラナンは人間界に行ったのだな!?』
レティアはコクコクと首を縦に振った。
アウロ『誰と行った!!!』
レティア『1人で‥‥』
アウロ『何!?!?
1人で行ったのか!?』
レティア『はい‥‥』
アウロは恐ろしい形相をした。
アウロ『行くぞ‥レティア!!!』
アウロとレティアは人間界へと降り立つ。
アウロ『いいか、ミン様に何か言われたら俺の責任にしろ!!
とにかくラナンの安全優先だ!!!』
レティア『はい‥!!!』
2人は人間界へと降りる。
アウロ『ラナンの居場所‥見当もつかない。
レティア、ラナンはどこに行ったのだ!!』
レティア『わかりません‥‥』
父親のところに行くようにと
ミンに言われていたのは聞いたが
それがどこなのかはレティアにすらわからなかった。
アウロは魔力を込めて目を閉じた。
30秒ほどすると、急に目を開け
東の方を指差した。
アウロ『あっちだ。あっちから
ラナンの気配を感じる!
行くぞ!!!』
レティア『!
はい!!!!』
アウロとレティアは走り出した。
20分ほど走ったところに、
鳥居のようなものが聳え立つ森の中に辿り着いた。
アウロ『ここは‥‥』
レティア『知っているのですか?』
アウロ『シャーマン‥普通の人間には見えないような
特別な存在が見える者がいると言われている国の近くだ。
俺も管轄外で詳しくは知らないが‥』
レティア(ラナンのお父様の住んでいるところかしら‥)
するとアウロが何かに勘付く。
アウロ『!
レティア!下がっていろ!』
アウロはおもむろに剣を抜いた。
レティア『どうしたのですか!?』
アウロ『前から何かやってくる!
レティア、後ろに向かって走れ!!』
レティアは走り出した。
8人の子供達の遺体を思い出す。
もしや、アウロも自分も
無惨に殺されるのではないかと
恐怖で 足が絡れる。
ドサッ‥とレティアは転んだ。
突然 前から
ザッ‥ザッ‥と何者かの足音がした。
レティアは慄きながら顔を上げた。
『掟を破ったわね‥‥』
レティア『!!!』
聞き覚えのある声だった。
先ほど感じた殺気を思い出し
レティアはボタボタと汗を滴らせる。
恐ろしい目をした
ミンが
こちらを見下ろして立っていた。
レティアはハッ‥と息をのんだ。
何故なら ミンの真っ白な顔には
返り血のような 真っ赤な液体が
付着していたからだ。




