海珠村の生きる呪いと共に死ぬ
トーアが見える限りの透視をした後、
ミラがティラに近づいた。
ダリアの毒針によって動けないティラは
冷たい瞳をして近づくミラにワナワナ震えていた。
ティラ『な!なんだ貴様は!!
俺を殺したら一族皆殺しだぞ!』
ミラは何も言わずに一歩ずつティラの方へと歩き出す。
ティラの目の前で、ミラは口元を覆う布を剥ぎ取る。
ティラ『なんだ!!』
ミラ『‥‥覚えていないだろうな‥‥‥。』
ミラは小さくつぶやいた。
ティラ『俺は‥‥‥!男に興味はない。
男に対してちょっかいを出したことは‥‥!』
ミラは一瞬、ひどく恐ろしい目をティラに向けた。
ミラ『‥‥‥。
【もしも父に
孤児を孕ませたとバレればまずい。
そしてこいつが仮に生き残り
赤子を抱いて城に現れて
【あの時の子供だ】と言い張ってもまずい。
今のうちに 腹を
再起不能にしておけ。
そうすれば容疑すらかけられない
こいつは元々、孕めない体質だったとな。】
思い出したか?
何年も前に、お前が俺に言った言葉だぞ。』
ティラはガクガクと全身を震わせた。
ティラ『ま、ま、まさか、お前‥‥‥‥!
孤児の‥‥ミラ!?』
ミラは不敵な笑みを浮かべた。
ミラ『久しぶりだな。
まあ、果実団のお頭だった時に
一度、この国に呼ばれたけどな。』
ティラ『お頭ミラ!!
まさかあの時の‥‥女児だと!?
馬鹿な!!絶対に生きているはずがない!
3人がかりで殴ったはずだ。
それに‥‥店の前に捨てたはず‥‥!』
ミラはとびきりの笑顔を浮かべた。
ミラ『ああ。俺は死ぬところだった。
だがこうして生きている。
俺を拾って助けてくれた人がいるんだ。』
ティラ『な、な、化け物かお前は!!』
ティラは顔を歪めながらミラに吐き捨てる。
ミラ『化け物はお前だろう。
お前の赤子は、
お前の暴力によって、流れてしまった。』
ミラの殺気に、ティラは背筋がゾクリと凍る。
ミラ『ダリアも、いちごも
被害にあった他の女たちも‥‥‥
お前が、壊したんだぞ。』
ティラ『知るか!
まさか小さなお前が孕むとは思わなかったんだ!』
ミラはあの時の記憶が蘇る。
一瞬、顔を歪ませると、頭を抱えて涙をポロポロと流し始める。
今までずっと封印してきた感情が
溢れて止まらないのだ。
初恋の美しい青年が
耳をくすぐるような声で吐いた恐ろしい言葉の数々。
そして容赦なく腹を殴り、胎児を殺され、
【女】としての自分を壊された絶望‥‥‥。
ラガー『ミラ!!!』
ラガーはミラの前に立ちはだかると、
ティラを睨みつける。
ラガー『お前、殺してやる‥‥‥!!!』
ラガーは短剣を取り出した。
ティラ『フン!やってみろ!!
その女を庇って俺に手を出せば
お前も、ミラも、処刑してやるからな!』
ティラは高笑いをした。
ニゲル『ラガー!気持ちはわかる!
しかし‥‥!!』
ラガー『処刑がどうとか!王族だからとか!!
知らねーよ!!
こいつは俺が殺してやる!』
ラガーは短剣をティラに向かって振り上げる。
すると、ラガーの右腕は何者かによって押さえつけられた。
ラガー『いちご!!!』
ラガーの腕を掴んでいたのは、苺花だった。
苺花『ラガー。あなたが背負う必要はない。』
苺花は思いっきりラガーの肩を両手で押した。
ラガーは尻餅をつき転ぶ。
ラガー『あたっ!
いちご!!』
立ち上がって苺花の背中を見つめるラガーをよそに、
苺花は座り込むティラに近づいた。
ティラは、苺花がラガーの攻撃から守ってくれたのだと思った。
縋るような顔をして苺花を見上げる。
ティラ『苺花!助けてくれたのか‥!』
苺花はおもむろにナイフを取り出すと、
ティラの首元にグサリと突き刺した!
ティラは声にならぬ声を上げる。
ティラ『ガ‥‥ガハ‥‥ぐッ‥‥』
ティラの首から、真っ赤な液体が噴き出した。
苺花の白い頬が、返り血で染まる。
苺花『私たちは、生きていてはいけない。
‥‥‥多くの者を、殺しすぎた。』
苺花は、刺したナイフを乱雑に抜く。
まだかすかに息をするティラに、再び突き刺した。
今度は心臓だった。
ティラは、人形のようにその場に倒れた。
その場にいた皆は、呼吸をするのも忘れたように
一瞬のうちの出来事を ただ見つめていた。
苺花『‥‥‥ミラ。
あなたはいつも、私を助けてくれたわね‥‥。
ラガー。あなたも。
そして柚子、桃も‥‥。』
果実団の皆は涙を流しながら
苺花の言葉に耳を傾けていた。
苺花『‥‥‥。
レティア。あなたの境遇は
少し私と重なった。
‥‥‥絶対に黒幕を見つけ出してね。』
苺花は口を閉ざすと、次はダリアに向かっていく。
ダリア『苺花‥‥』
苺花は、細い針を 2本取り出して
ダリアの心臓と首を目掛けて突き刺した。
皆は、あっ!と声を上げる間もなく
その様子を、時が止まったかのように
ただ見つめていた。
ダリア『うっ‥‥』
ダリアはその場で倒れる。
目を見開いてぴくりとも動かない。
ニゲル『ダリア!!』
ニゲルはダリアの心臓を確かめるも、動いていない。
ニゲル『貴様‥‥!』
ニゲルが口を開いた瞬間
苺花は被せるように話し出す。
苺花『私が死んだ後、安全な場所でその2本の針を抜いて。
ダリアは動き出す。』
ニゲル『どういうことだ!!!』
苺花『王族殺しは、重罪。
一族皆殺しの刑に処される。
‥‥‥私はたった今、妹のダリアを殺した。
もうこの世に私の家族はいないわ。』
【最期の良心よ】と 苺花は呟く。
苺花の台詞に、ミラは目を見開いた。
ミラ『いちご!!死ぬつもりなのか!!
許さないぞ!!』
苺花は、胸元から瓶を取り出した。
‥‥‥海珠村の呪物だ。
苺花『‥‥‥。
私は、海殉姫。
海珠村の生きる呪いと共に死ぬ。
もう二度と贄など
この世に存在しないように‥‥‥。
誰かの命を犠牲にしなければ
存続できない村など、呑まれてしまえ
誰かの記憶の中にすら 残らないように。』
苺花は、崖を目掛けて走って行く。
ティルケ国は、海に面しているのだ。
ミラ『いちご!!行くな!!
待ってくれ!!』
苺花は、ミラの呼び止める声などよそに
目にも留まらぬ速さで、崖から飛び降りた。
真っ逆さまに落ちてゆく先は、海だ。
かつて 呪物と共に沈められた
恨めしいほどに冷たく深い海‥‥。
ミラ『いちごーー!!いちごーー!!』
ミラは泣き叫びながら崖を覗き込む。
もう、苺花の姿はどこにもなかった。
ミラ『いちご‥‥‥』
ミラは絶望したようにその場にへたり込み
声をあげて泣き続けた。
ミラの涙は ポツリポツリと
海へと滴り落ちていった。




