殺し哀(あい)
ティルケ国からの亡命者が多数やってきた。
ヘレボルスの兵士の指示により
亡命者達はしっかり列になって並んでいる。
人数的には1000人くらいだ。
列の先頭にはトーアがおり、
嘘をついていない者は、向かって右にある兵舎に通す。
暗殺者らしき特殊な魔力を使っていたら、
向かって左の ダリアのいる方へ並ばせる。
そして、亡命者全員を透視し終わるまで、
暗殺者はヘレボルスの牢屋に、
都度 収容することになった。
ダリアのように呪いがかけられていた者は、
トーアのいる所から真っ直ぐ行くとある広間。
そこに集める作戦だ。
広間には、レティアとマルメロが立っている。
ミラ『トーア。亡命者はざっと数えて1000人くらいって兵士が言っていた。
魔力は大丈夫なのか』
トーア『うん。平気さ。
あとでゆ〜っくり寝るから!』
トーアがキラキラした目で言うので、
ミラは少し引き気味だった。
ミラ『そ、そうか‥‥‥』
トーア『ミラちゃん、僕が視えた新情報があったら、
伝えるからしっかり覚えていてね』
ミラ『わかった』
先頭の亡命者の目を、トーアは見つめる。
亡命者『‥‥‥もうティルケ国は散々です。
お助けを‥‥』
亡命者の服はボロボロだった。
命からがら逃げて来たのがわかる。
トーア『‥‥‥右の兵舎に向かってくれるかい。』
亡命者『はい‥‥‥』
亡命者は兵舎へと向かっていく。
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2時間が経った。
特に何事も起こらず、今のところ全員兵舎に通しているトーア。
彼は額に汗を滲ませながら透視している。
ミラはそんなトーアを横目に声をかけた。
ミラ『トーア。大丈夫か?
少し休憩したらどうだ。』
トーアは笑顔でミラの方を向く。
トーア『ありがとうミラちゃん。
大丈夫さ。』
ミラ『水分補給するか?
俺が持ってくる』
ミラが歩き出そうとした瞬間、
トーアはミラの腕を掴んだ。
ミラ『!』
ミラはすぐに冷静を装い、歩くのをやめて正面を向いた。
トーア『‥‥‥君は左に向かってくれるかい?』
トーアは微笑んで言った。
ミラ(暗殺者だというのか‥‥!?
確かに、足音が聞こえない。
でも、装いは普通の人間にしか見えないし、
何かを隠しているようにも思えない‥‥)
トーアが暗殺者だと怪しんだのは30代くらいの男だった。
Tシャツにジーンズというかなりラフな格好で、暗殺者の姿とはかけ離れている。
トーア(ミラちゃん。ミラちゃん。聞こえるかい。)
ミラ『!』
トーアがミラの心に話しかける。
ミラはトーアに頷いて見せた。
トーア(彼は暗殺者だ。
ダリアちゃんみたいに特殊な魔力はなさそうなんだけど。
ダリアちゃんと初めて出会った時、彼女の他にも暗殺者がいたけど、
彼らは少し腕に自信がある偽物って言ってたよね。)
ミラ『確かに‥‥‥』
側から見たら、ミラが1人でつぶやいたので、
亡命者からは不思議な視線を向けられた。
トーア(彼は、報酬が良いという理由で
ティルケ国の暗殺者の求人に応募してしまって、
辞めるにやめられず逃げてきたようだ。
助けて欲しいという感情は本当みたい。
だけど一応暗殺者だから、ダリアちゃんのところへ並ばせたよ)
2人は声を出さずに頷き合う。
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ーダリアとニゲルー
ダリア『あ〜あ!誰も来ないじゃない。
暇だな〜!』
ダリアは足をクロスさせたり、伸びをしたり
その場でジャンプしてみたりと、
退屈そうにしている。
ニゲル『おいお前!!真剣にやれ!!
気を抜くな!!』
ニゲルはというと、背筋を伸ばしてしっかりと立っている。
流石はソフィア反乱軍の隊長だ。
ダリア『はいはい。オッサン。
うるさいなぁ』
ダリアはムスッと頬を膨らませる。
ニゲル『大体なぁ!お前ら
俺をオッサン呼ばわりするが
世間ではまだ若いんだからな!』
ダリア『嘘だぁ!何言ってんの。
もう35歳くらいでしょ?
アタシみたいなピチピチの16歳から見たら、
ニゲルはすごいオッサンだから』
ダリアは生意気そうな顔と挑発的な声でニゲルに言い放つ。
ニゲルはワナワナと震えて口を開く。
ニゲル『ふざけんなぁっ!!
俺はまだ22歳だっ!!!』
ダリアはそれを聞いて目を見開いた。
ダリア『えええっ!?
嘘でしょッ!?
アタシと6歳しか変わらないの!?
エイプリルフールじゃないんだけど!?』
ニゲル『本当だっ!!!
ソフィア様に聞いてみろ!!』
ダリアは唖然とした後、
プププと笑った。
ダリア『老け顔だね〜ッ!』
ニゲルは拳に力を入れながら、怒声を上げた。
ニゲル『お前が女じゃなかったら
一発殴ってたぞっ!!!』
ダリアは腹を抱えて笑い出す。
そんなダリアの姿を、
ニゲルは嫌なものを見る目で眺めるのだった。
すると、ダリアが何者かに気づいて顔を向ける。
ニゲルも、ダリアの向く方を見た。
30代くらいの男が、ダリア達の方へと歩いてきたのだ。
ニゲル(足音がしない‥‥‥)
ダリアは先ほどの態度とは打って変わって、
真剣な眼差しだ。
男から少しも目を離さない姿に、
ニゲルは、ダリアは戦闘体勢だとすぐにわかった。
ダリアが男の前に立ちはだかろうとするのを
ニゲルが手で静止した。
ダリアは驚いてニゲルの方を見る。
ニゲルはダリアの前に躍り出て
男に言い放つ。
ニゲル『俺の前に立て。』
男『はい‥‥‥。』
男はオドオドしながら返事をした。
ニゲルの背中で ダリアを守りながら
特殊な魔力を持っているかをダリアに探ってもらうようだ。
ダリアはニゲルの耳元で囁いた。
ダリア『‥‥偽物。』
ニゲルはダリアの言葉を聞くと、静かに頷く。
ニゲル『ついてこい。』
ニゲルは牢屋へと向かっていくと、ダリアに命令した。
ニゲル『お前はここで待ってろ』
ニゲルの背を見つめながら、
ダリアは思った。
ダリア(‥‥‥変なオッサン。
堅物のクセに、アタシを守るような行動しちゃってさ)
ダリアは今まで、攻撃する側だった。
誰かに守られる事などなかったのだ。
ニゲルの行動に、ダリアは戸惑いを見せるのだった。
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4時間が経った。
トーアの顔は青ざめている。
ミラ『トーア。大丈夫か?
あと5人だぞ!』
トーアはかなりの魔力を使ったようで
ふらふらになっている。
トーア『ん、大丈夫さミラちゃん‥‥‥
あと少しで寝られるからさ‥‥‥』
トーアは力無く笑った。
ダリアのように、記憶を消す呪いをかけられているものがおよそ100人、
偽物含む暗殺者が15人いた。
トーアの前に、小柄な少女が現れる。
白い帽子を深く被り、髪色はブロンド。
花柄のワンピースを纏う可愛らしい子だった。
トーアは少女の目を見つめる。
その瞬間、ミラにもわかるくらいに
トーアは震えていた。
当然、トーアの指差す先は、ダリアのいる方角だった。
女の子は柔らかな笑みを浮かべて、
抵抗もせずトーアの指示通りの場所へと向かった。
ミラ『トーア!』
ミラが声をかける。
するとトーアのメッセージが、
ミラの脳内へと響き渡った。
トーア(ミラちゃん‥‥‥
あの子だけ異様なんだ。
感じたことのない気だ‥‥‥。)
ミラ『何?!』
ミラはすぐにメモを取り出して、
何かを書き始めた。
紙をイーグルの足に巻き付ける。
ミラ『イーグル。ソフィアの元へ飛んでいけ!
その後すぐに戻ってきてくれ』
イーグルは甲高い声で鳴くと、すぐにミラの肩を蹴って飛び立った。
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ニゲルが15人目の暗殺者を
牢屋まで案内している最中、少女は現れた。
ダリア(足音がしない。
それに‥‥‥アタシと同じ魔力を使ってる。
‥‥‥本物ね)
ダリアは毒針を手に隠し持った。
ダリアと少女は対峙する。
ダリア『‥‥‥ここで待ってて』
ダリアがそう伝えると、少女はクククと高笑いを始める。
少女は帽子を掴んで地面に投げ捨てる。
どうやら髪はウィッグだったようで、
赤髪の地毛が風に靡いた。
ダリア『なっ‥‥‥!!』
ダリアは声を上げる。
少女は口角を上げてダリアを見上げていた。
『久しぶりね。ダリア‥‥‥
まさかティルケ国を裏切るとは、思わなかった。』
ダリアは怒りを滲ませて言った。
ダリア『苺花‥‥!
あんたはアタシの姉だったのねッ!!
そしてアタシを騙してお金も妙薬も奪っていた。
海珠村はもうとっくに滅びていたのに‥‥‥!!』
ダリアは目に涙を浮かべた。
苺花はフッ‥‥と笑った。
苺花『そんなことまで気づいていたんだ。
なら話は早い。
私がティラ王子と共に、海珠村を滅ぼした。
もうあなたを愛した両親も!弟も!祖母も!!
この世には、いないわ。』
ククク、と再び苺花は笑い出す。
ダリアは毒針の他に短剣も取り出して、
苺花を目掛けて地面を蹴った。
苺花は不敵な笑みを浮かべたまま
その場から動かなかった。
ダリア(なぜ動かない‥‥‥!
死ぬ気なの?!)
ダリアは戸惑いながらも、
本気で苺花を殺る思いで
武器を振り上げた!
気づいたら苺花は、目の前にいなかった。
ダリア『な!?』
すると、ダリアの目の前が霞み始める。
ドサッとその場に倒れ込んだ。
ダリアは、だんだんと全身が寒くなるのを感じた。
ダリア(切られた‥‥‥太い血管‥‥‥
血が‥‥噴き出してる‥‥‥
だから‥‥寒いんだ‥‥)
ドクドクと脈打つ感覚と共に、
ダリアの意識が薄れてゆく。
『ダリア!!!!』
不意に誰かの声が聞こえる。
いつも真面目で口うるさい男ー‥‥‥
ニゲルだ。
ニゲルの足音が脳内に響く。
もう、目も開けられないのに。
ニゲル『ダリア!ダリア!
しっかりしろ!!!』
ニゲルはダリアを抱き寄せる。
凍えた体が火傷しそうなほど、
ニゲルの腕は熱かった。
ダリアは瞳を閉じかけたまま
つぶやいた。
ダリア『ニ‥‥ゲル‥‥‥‥』
ダリアは ガクッと脱力した。
ニゲル『ダリアーーーーーーッ!!!』
ニゲルの声がヘレボルス中に響き渡り、
大勢の兵士たちが走ってやってくる。
苺花を包囲した。
苺花はなおも
不気味な笑みを浮かべたまま
突っ立っていたのだった。




