熾天使同士の派閥
ー数ヶ月後ー
レティア『はぁ‥はぁ‥』
レティアは、アウロとラナンの後ろを走っている。
かれこれ4時間は走り続けているだろうか。
毎日地獄のような特訓をさせられると
不思議なもので、体はいつの間にか慣れて
ついていけるようになるらしい。
あの日から、レティアはいろんな掟を習った。
『格上の天使の前では跪くこと』
『許可が降りるまでは、勝手に1人で人間界に出ないこと』
『格上の天使よりも前に立たないこと』
『格上の天使の命令は絶対なこと』
『位の高い天使が、過ちを犯した部下に対して罰する場合を除き
如何なる理由があっても、天使同士で武器を向け合わないことー‥』
人間界で言う、法律やマナーのようなものだ。
細かくたくさんありすぎて、
もはや覚えられないが
少なくとも、誰かを傷つけたり
格上の天使に対して無礼を働かなければ大事には至らなそうだ。
アウロ『レティア!!随分と持久力が上がったな。
ぶっ通しで走り続けて、4時間は過ぎたぞ。』
ラナン『レティア!!すごいな!!
あんなに無理〜!!って叫んでたのにさ!!』
レティア『もう‥!!
過去の失態は忘れてよ!』
ラナンとレティアは以前より仲良くなっていた。
冗談を言い合う仲にまでなっていたのだ。
アウロ『ずいぶんと空が明るくなってきた。
もう8時は過ぎただろう。
あそこの大木までで持久走は終わりだ!
今度は魔力の訓練を始めるぞ!!』
レティアとラナンは返事をした。
2人は、アウロの指導のもと
毎日朝から走り、
魔力の訓練をし、
剣術の修行を受けた。
レティアは魔力も多く、
戦いのセンスもあるようで
ラナンに遅れを取らず、魔力も剣術も着々と腕を上げていった。
ー天界ー
シランを除く5名の熾天使たちが集まり、
会議をしていた。
ロニス『最近、天使の子供達が謎の失踪を遂げています。
ここ1ヶ月の間で5名、行方不明になりました。
先月は3人。
場所はいずれも人間界での失踪です。』
リリア『おかしすぎるわ。
子供達なら、大人の天使と一緒に降り立っているはずでしょう?
なぜいなくなるの?』
オルレア『妙よね‥‥‥。』
リリア『人間の仕業?とも考えたけど
人間には天使の姿は見えないわ。
それに、魔力を使えなければ
触れることさえできない。
人間がどうやって天使の子供を攫うと言うの?』
ロニス『全く不可解です‥‥
もしや‥人間界に
魔界の妖怪や悪魔達が姿を現し、
天使の子供を攫うことで
かつての戦争の恨みでも晴らしているのでしょうか‥‥』
ナルシス『あいつらはそんな回りくどいやり方はしないだろう。恨みを晴らすなら直接天界に来るさ。
それより、弟子を持つ天使達は何をしている!
簡単に攫われるなど、職務怠慢もいいところだ!』
ナルシスは机を思いっきり叩いた。
ドン!という音が響き渡る。
ヘリオス『子供達が失踪したのは、主に森や山。
見晴らしが悪く、草木が生い茂り
死角がたくさんある場所だ。
俺の部下の例を話す。
森の中での 剣術の稽古中、
わずかな時間で弟子の姿が見えなくなったが、
隠れて自分を攻撃する隙を狙っているのだと
思い込んだ。
しかし一向に弟子は攻撃してこないため
不審に思った部下は
辺りを探し回ったり名前を呼ぶも
どこにもいない。
すぐに天界に戻り応援を呼び
100人体制で探すも
未だ見つかっていない。』
5人は首を傾げた。
リリア『そんな一瞬で子供がいなくなるなんて‥
しかも叫び声もないのでしょう?』
オルレア『もしも叫び声を聞いていたなら
もっと早く動けていたはずよ‥。』
ナルシス『で、失踪した子供達の手がかりは見つかったのか?』
オルレア『まだ何も見つかっていないみたい‥』
ロニス『‥‥‥。
一刻も早く真相を解明しなければ!』
皆は頷くと、リリアが口を開く。
リリア『話は変わるけど
最近、ミンが随分と自堕落な生活を送っているそうじゃないの。
人間界で不特定多数の男と遊んだり、
息子、ラナンをほったらかしにして
どこかをほっつき歩いているらしいわね。
シランはどういう教育をしているのかしら!』
リリアはご立腹だ。
ナルシス『何言ってんだ。
天使であるミンがどうやって人間と遊ぶんだっての。』
リリア『はぁ‥‥。
あなたは他人に興味がなさすぎるわ‥
だから知らないのね。
ミンの秘技の一つ。
【夢幻可視光】
人間にもミンの姿が見えるようになる能力よ。
それを使って、人間界で
色んな男と遊んでるみたいだけど。』
ナルシス『ああ、そうか。
確かにミンにそんな技があったな‥‥
って‥おい!!
まさか‥ミンじゃないだろうな!!!
子供達を攫ったの!!』
オルレア『!!
なんのために!?
そんなわけないじゃない!
シランの一番可愛がっている部下なのよ。
ありえないわ!』
ナルシス『だけど、人間が天使の子供を攫うなんて物理的に無理だろ?
考えられるのは、魔界の奴らか、
ミン以外いなくねえか?
今の話的に。』
オルレア『はぁ‥。
ミンが子供を攫って何の得になると言うのよ。』
リリア『‥‥オルレア。
庇うのはよしてちょうだい。
大体、この会議にすらシランは顔を出さない。
‥‥‥ミンにシラン。
どう言うつもりなのか、問いただしたいくらいね。
天の神への背徳行為だわ!!』
リリアは声を荒げる。
ロニス『まあまあ!おちついて!!
全部仮定の話だ。
それにオルレアのいう通り
ミンが天使の子供を攫って得することは何もないだろう。』
ロニスは宥めた。
するとシランがやってくる。
何を考えているかわからないミステリアスな表情だ。
眼差しは美しくも凍るように冷たく
少しの笑みも見せなかった。
リリア『あらあら。重役出勤かしら。
随分と偉いみたいね。』
リリアは嫌な笑みを浮かべて言った。
シラン『遅れてごめんなさい。
私が悪いわ。』
シランはリリアの皮肉を
何の感情も見せずに受け流す。
オルレア『シラン。大丈夫?』
シランはそれを聞いて少し口角を上げた。
シラン『ええ。ありがとう。』
リリア『あなたに聞きたいことがあるの。
攫われた子供達のことと
あなたの1番の部下、ミンのことよ。
すでに8人の子供達が人間界で行方不明。
それも一瞬のうちに。
天使が100人総出で探しても見当たらない。
あなたの部下、ミンは
【夢幻可視光】という秘技を持ち
人間にも姿が見えるようにできるわね。
その力で人間の男達と随分遊んでいるとか。
‥‥‥まさか ミンが
子供達を攫った犯人じゃあ
ないでしょうね!!!』
リリアはシランの顔を覗き込んで言った。
シランは顔色ひとつ変えない。
シラン『‥‥あり得ないわ。
何のためにそんなことをするというの。』
リリア『こっちが聞きたいわね。
そして最近のミンはあまりにも自堕落‥!
あなたの教育はどうなっているわけ?』
シランは目を閉じて、はぁ、とため息をついた。
シラン『根拠はあるの?
何の証拠もないのに
ミンへの侮辱は許さないわよ。
それに‥あなた達、知らないの?
今や人間界には
特別な技を持つ人間がたくさんいることを。』
全員『!!!!!』
ヘリオス『そうなのか!?』
シラン『知りもせずに勝手な憶測で
こんな会議を続けていたというの‥?』
リリア『フッ‥。
あなたが初めから時間通りに来ていれば
こんなことにはならなかったんじゃないの?』
シラン『そうね。その通り。』
シランは手に魔力を込めた。
すると青い光の玉が浮かび上がる。
シラン『一瞬のうちに天使の子供が攫われる‥
視界の悪い場所で‥‥
考えられる人物像と理由‥
使われた技‥‥
今日、必ず割り出し
攫われた子供達を
一刻も早く見つけ出すわよ。』
シランは強い口調で言い放った。




